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作品番号 作者  俳句説明
 1 富田木歩  七夕や髪に結ひ込む藤袴 
 2 富田木歩  暮れぎはの家並かたぶく雪しづれ 
 3 各務支考  木曽は今さくらもさきぬ夏大根 
 4 各務支考  椿踏む道や寂寞たるあらし 
 5 各務支考  簔笠に露けき宿の桑子哉 
 6 各務支考  うぐひすの肝つぶしたる寒さ哉 
 7 各務支考  ちりぢりに春やぼたんの花の上 
 8 種田山頭火  しぐれて道しるべその字が読めない 
 9 種田山頭火  からだ投げだしてしぐるる山 
 10 種田山頭火  しぐれて山をまた山を知らない山 
 11 種田山頭火  死をひしひしと水のうまさかな 
 12 種田山頭火  なかなか死ねない彼岸花さく 
 13 種田山頭火  歩るくほかない秋の雨ふりつのる 
 14 種田山頭火  しぐるるや犬と向き合ってゐる 
 15 種田山頭火  松の木松の木としぐれてゐる 
 16 種田山頭火  波音しぐれて晴れて 
 17 種田山頭火  しぐるるあしあとをたどりゆく 
 18 種田山頭火  おたたしぐれてすたすたいそぐ 
 19 種田山頭火  しぐれて柿の葉のいよいようつくしく 
 20 種田山頭火  しぐれ笠でおとなりへ水をもらひに 
 21 種田山頭火  月夜しぐれて春ちかくなる音 
 22 種田山頭火  しぐるるや郵便やさん遠く来てくれた 
 23 種田山頭火  朝早くしぐるる火を焚いてゐる 
 24 種田山頭火  鴉とんでゆく水をわたらう 
 25 種田山頭火  ちんぽこもおそそも湧いてあふれる湯 
 26 種田山頭火  水をへだててをなごやの灯がまたたきだした 
 27 種田山頭火  あの雲がおとした雨にぬれてゐる 
 28 種田山頭火  水音といっしょに里へ下りて来た 
 29 種田山頭火  わたしひとりのけふのをはりのしぐれてきた 
 30 種田山頭火  しぐれてぬれて待つ人がきた 
 31 種田山頭火  朝からしぐれて柿の葉のうつくしさは 
 32 種田山頭火  おとはしぐれか 
 33 種田山頭火  ここまでを来し水飲んで去る 平泉は知り合いのいない町なので飲みはぐれた
 34 種田山頭火  しぐるるやしぐるる山へ歩み入る 
 35 種田山頭火  しぐるるや死なないでゐる 
 36 三橋敏雄  行雁や港港に大地ありき 
 37 三橋敏雄  日にいちど入る日は沈み信天翁 
 38 三橋敏雄  箸の木や伐り倒されて横たはる  
 39 三橋敏雄  父母や青杉の幹かくれあふ 
 40 三橋敏雄  こがらしや壁の中から藁がとぶ 
 41 三橋鷹女  かなしみに女は耐ふべし雲雀鳴く 
 42 三橋鷹女  山笑ふ吾子の饒舌谺を呼び 
 43 三橋鷹女  ひとひらの雲ゆき散れり八重桜 
 44 三橋鷹女  春林檎食みちらばして夜更けたり 
 45 三橋鷹女  東風の窓子に教ふべきこと尽きじ 
 46 三橋鷹女  春昼に耐へてましろき鰈を焼く 
 47 三橋鷹女  春は侘し場末にひとり見る映画 
 48 三橋鷹女  ちるさくら卵しろたへに生み落され 
 49 中川乙由  うき草や今朝はあちらの岸に咲く 
 50 中川乙由  蝶々は掃ぬ埃や雛あそび 
 51 中川乙由  涼しさや夢もぬけ行く籠枕 
 52 富田木歩  青蘆に家の灯もるゝ宵の程 
 53 富田木歩  行く春や蘆間の水の油色 
 54 富田木歩  蘆の中に犬鳴き入りぬ遠蛙 
 55 富田木歩  蝙蝠の家脚くゞる蘆の風 
 56 富田木歩  躑躅植ゑて夜冷えする庭を忘れけり 
 57 富田木歩  汽車音の若葉に籠る夕べかな 
 58 富田木歩  新聞に鳥影さす庭若葉かな 
 59 富田木歩  杉の芽に蝶つきかねてめぐりけり 
 60 三橋鷹女  蕗の葉に日輪躍る初夏は来ぬ 
 61 山口誓子  青みどろえりにかわきて初夏暑き 
 62 山口誓子  生きものゝおどろく初夏の水ばかり 
 63 山口誓子  初夏を出て蜥蜴はいまだ軟かき 
 64 山口誓子  初夏の日に手足ひからせ生きむとす  
 65 星野立子  たのしみの有田に人りぬ町は初夏 
 66 子規  夕顔に昔の小唄あはれなり 
 67 虚子  老いてなお稽古大事や謡初 
 68 虚子  追分を聞いて冬海を明日渡る 
 69 虚子  川狩の謡もうたふ仲間かな 
 70 西東三鬼  首かしげおのれついばみ寒鴉 
 71 西東三鬼  落葉して木々りんりんと新しや 
 72 西東三鬼  限りなく降る雪何をもたらすや 
 73 西東三鬼  中年や独語おどろく冬の坂  
 74 西東三鬼  みな大き袋を負へり雁渡る 
 75 西東三鬼  空港の青き冬日に人あゆむ 
 76 西東三鬼  秋の雨直下はるかの海濡らす 
 77 西東三鬼  緑蔭に三人の老婆わらへりき 
 78 安住敦  凭らざりし机の塵も六日かな 凭:もたれ
 79 安住敦  恋猫の身も世もあらず啼きにけり 
 80 安住敦  春昼や魔法の利かぬ魔法瓶 
 81 安住敦  舞ふ獅子にはなれて笛を吹けりけり 
 82 安住敦  届きたる歳暮の鮭を子にもたす 
 83 安住敦  雪の降る町といふ唄ありし忘れたり 
 84 安住敦  ある晴れた日につばくらめかへりけり 
 85 安住敦  蓑虫の出来そこなひの蓑なりけり 
 86 安住敦  啓蟄の庭とも畠ともつかず 
 87 安住敦  でで虫や父の記憶はみな貧し 
 88 安住敦  しぐるゝや駅に西口東口 
 89 安住敦  鯛焼のあつきを食むもわびしからずや 
 90 富田木歩  街の子の花売の真似秋立てり 
 91 富田木歩  蜆売りに銭かへてやる夏の夕 
 92 富田木歩  我が肩に蜘蛛の糸張る秋の暮 
 93 富田木歩  籠の鶏に子の呉れてゆくはこべかな 
 94 富田木歩  夢に見れば死もなつかしや冬木風 
 95 富田木歩  日のたゆたひ湯の如き家や木々芽ぐむ 
 96 富田木歩  背負はれて名月拝す垣の外 
 97 木村蕪城  受験児の横たへおける松葉杖 
 98 木村蕪城  高原の秋運転手ギター弾く 
 99 木村蕪城  おふくろの今年あらざる秋刀魚かな 
 100 木村蕪城  雲動き竹林に蝉こぼれ飛び 
 101 木村蕪城  みづうみの月明るきに馴れて住む 
 102 木村蕪城  風船やかかる男のなりはひに 
 103 三橋敏雄  座して待つ次なる大震火災此処 
 104 三橋敏雄  いっせいに柱の燃ゆる都かな 
 105 子規  古沼の境もなしに氷かな 
 106 子規  ながながと冬田に低し雁の列 
 107 子規  麦の芽のほのかに青し朝の霜 
 108 子規  染汁の紫こほる小川かな 
 109 子規  木のうろに隠れうせけりけらつゝき 
 110 子規  皮剥けば青けむり立つ蜜柑かな 
 111 子規  浪ぎはへ蔦はひ下りる十余丈 
 112 子規  末枯や覚束なくも女郎花 
 113 子規  草履の緒きれてよりこむ薄かな 
 114 子規  馬の尾をたばねてくゝる薄かな 
 115 子規  沓の代はたられて百舌鳥の声悲し 
 116 子規  肌寒や馬いばひあふつゞら折 
 117 子規  鼻たれの兄と呼ばるゝ夜寒かな 
 118 子規  唐きびのからでたく湯や山の宿 
 119 子規  闇の雁手のひら渡る峠かな 
 120 子規  枯れ柴にくひ入る秋の蛍かな 
 121 子規  稲刈もふじも一つに日暮れけり 
 122 子規  水晶のいはほに蔦の錦かな 蔦:つた
 123 子規  鶺鴒やこの笠たゝくことなかれ 鶺鴒:せきれい
 124 子規  ぬかづけばひよ鳥なくやどこでやら 
 125 子規  面白やどの橋からも秋の不二 
 126 子規  槍立てゝ通る人なし花芒 
 127 子規  伊豆相模もわかず花すゝき 
 128 子規  大方はすゝきなりけり秋の山 
 129 子規  紅葉する木立もなしに山深し 
 130 子規  山姥の力餅売る薄かな 
 131 子規  店さきの柿の実つゝく烏かな 
 132 子規  犬蓼の花くふ馬や茶の煙 
 133 子規  樵夫二人だまつて霧をあらはるゝ 
 134 子規  石原に痩せて倒るゝ野菊かな 
 135 子規  どっさりと山駕籠おろす野菊かな 
 136 子規  秋の雲滝をはなれて山の上 
 137 子規  色鳥の声をそろへて渡るげな 
 138 子規  我なりを見かけて鵯の鳴くらしき 
 139 子規  だまされてわるい宿とる夜寒かな 
 140 子規  草山の奇麗に枯れてしまひけり 
 141 子規  谷底にとどきかねたる落ち葉かな 
 142 子規  掘割の道じくじくと落葉かな 
 143 子規  暁の氷すり砕く硯かな 
 144 子規  人住まぬ屋敷の池の氷かな 
 145 子規  桃源の路次の細さよ冬籠 
 146 子規  冬ごもり仏にうときこゝろ哉 
 147 子規  居眠りて我にかくれん冬ごもり 
 148 子規  戸に犬の寝がへる音や冬籠 
 149 子規  なかなかに病むを力の冬ごもり 
 150 子規  冬ごもり煙のもるる壁の穴 
 151 子規  隠れ家のものものしさよ百合の花 
 152 子規  別れとて片隅はづす蚊帳かな 
 153 子規  次の夜は蛍やせたり籠の中 
 154 子規  涼しさや石燈籠の穴も海 
 155 子規  冬ごもり世間の音を聞いている 
 156 子規  雲のぞく障子の穴や冬ごもり 
 157 子規  暗き町やたまたま床屋氷店 
 158 子規  葉隠れに小さし夏の桜餅 
 159 子規  葉桜や昔の人と立咄 
 160 子規  涼しさや川を隔つる灯は待乳 
 161 子規  渡し場に灯をともしたる茂りかな 
 162 子規  葉桜に夜は茶屋無し隅田川 
 163 子規  夕涼み石炭くさき風が吹く 
 164 子規  金持は涼しき家に住みにけり 
 165 子規  泳ぎ場に人の残りや夏の月 
 166 子規  贅沢な人の涼みや柳橋 
 167 子規  鷺の立つ中洲の草や川涼し 
 168 子規  町暑し蕎麦屋下宿屋君が家 
 169 子規  葉柳に埃をかぶる車上かな 
 170 子規  時計屋も夏桃店も埃かな 
 171 子規  五年見ぬ山の茂りや両大師 
 172 子規  石像に蠅もとまらぬ鏡かな 
 173 子規  葉鶏頭の苗養ふや絵師が家 
 174 子規  狸さへ蟇さへ住まずなりにけり 
 175 子規  扇持たずもとより羽織などは着ず 
 176 子規  月の根岸闇の上野や別れ道 
 177 子規  白露の三河島村灯ちらちら 
 178 子規  山ぞひや帽子の端にきりぎりす 
 179 子規  一行に絵かきもまじる月夜かな 
 180 子規  杉暗し月にこぼるゝ井戸の水 
 181 子規  月高く樹にあり下は水の音 
 182 子規  茶屋あらはにともし火立つや霧の中 
 183 子規  議論とて秋の団扇を手のちから 
 184 子規  鯛の茶屋静かなる木の間かな 
 185 子規  鯛や杉の葉重ね路凹し 
 186 子規  唐黍に背中打たるゝ湯あみかな 
 187 子規  祭見に狐も尾花かざし来よ 
 188 子規  一日の秋にぎやかに祭りかな 
 189 子規  初秋の石壇高し杉木立 
 190 内藤鳴雪  初秋の食に魚なし京の町 
 191 子規  朝顔やわれ未だ起きずと思ふらん 
 192 子規  石段は常盤木の落葉ばかりなり 
 193 子規  大木の注連に蝉鳴く社かな 注連:まま
 194 子規  木下闇電信の柱新らしき 
 195 子規  松葉落ちて雀鳴くなり観音寺 
 196 子規  朝顔や野茶屋の垣根まばらなり 
 197 子規  田の中に蓮咲きけり家二つ三つ 
 198 子規  路三叉草茂りけり石地蔵 
 199 子規  水草の泥に花さく旱かな 
 200 子規  夏川の泥に嘴入るゝ家鴨かな 
 201 子規  夏柳家鴨やしなふ小池かな 
 202 子規  横雲に朝日の漏るゝ青田かな 
 203 子規  涼しさのはや穂に出てゝ早稲の花 
 204 子規  かたよりて右は箕の輪の茂りかな 
 205 子規  夏木立村あるべくも見えぬかな 
 206 子規  蚊の声もよわる小道の夜明かな 
 207 子規  句を閲すラムプの下や柿二つ 閲す:えっす けみする 調べる。見て確かめる。
 208 子規  夏草やベースボールの人遠し 
 209 子規  鰻まつ間をいく崩れ雲の峰 
 210 坪内稔典  たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ 
 211 坪内稔典  帰るのはそこ晩秋の大きな木 
 212 上田五千石  太郎に見えて次郎に見えぬ狐火や 
 213 森澄雄  妊りて紅き日傘を小さくさす 
 214 飯田龍太  黒猫の子のぞろぞろと月夜かな 
 215 能村登四郎  やはり死は寂しとて食ふ酢牡蛎かな 
 216 能村登四郎  紙魚ならば棲みてもみたき一書あり 
 217 能村登四郎  すこしづつ死す大脳のおぼろかな 
 218 能村登四郎  辛夷咲く死の明るさもこれ位 
 219 鈴木真砂女  春寒くこのわた塩に馴染みけり 
 220 大野林火  鴨群るるさみしき鴨をまた加え 
 221 大野林火  雪の水車ごつとんことりもう止むか 
 222 三好達治  冬といふ日向に鶏の座りけり 
 223 三好達治  水に入るごとくに蚊帳をくぐりけり 
 224 秋元不死男  獄凍てぬ妻きてわれに礼をなす 
 225 秋元不死男  冷されて牛の貫禄しづかなり 
 226 西東三鬼  秋の暮大魚の骨を海が引く 
 227 篠原鳳作  自画像の青きいびつの夜ぞ更けぬ 
 228 富沢赤黄男  潮すゞし錨は肱をたてゝ睡る 
 229 富沢赤黄男  石の上に秋の鬼ゐて火を焚けり 
 230 富沢赤黄男  蝶墜ちて大音響の結氷期 
 231 日野草城  ところてん煙の如く沈み居り 
 232 日野草城  薔薇色のあくびを一つ烏猫 
 233 石田波郷  蚊を博って頬やはらかく癒えしかな 
 234 石田波  蚊を博 
 235 篠原梵  やはらかき紙につつまれ枇杷のあり 
 236 篠原梵  閉ぢし翅しづかにひらき蝶死にき 翅:はね
 237 篠原梵  葉桜の中の無数の空さわぐ 
 238 柴田白葉女  日向ぼこ人死ぬはなし片耳に 
 239 柴田白葉女  春の星ひとつ潤めばみなうるむ 
 240 星野立子  花火上るはじめの音は静かなり 
 241 仲村汀女  バラ散るや己がくづれし音の中 
 242 三橋鷹女  みんな夢雪割草咲いたのね 
 243 川畑茅舎  桜鯛かなしき目玉くはれけり 
 244 山口誓子  蟋蟀が深き地中を覗き込む 
 245 山口青邨  こほろぎのこの一徹の貌を見よ 
 246 長谷川かな女  虫とんでそのまゝ消えぬ月の中 
 247 長谷川かな女  藻をくぐって月下の魚となりにけり 
 248 種田山頭火  鉄鉢の中へも霰 鉄鉢:てっぱつ
 249 荻原井泉水  はっしと蚊を おのれの血を打つ 途中 1桁空ける
 250 荻原井泉水  月光しみじみこおろぎ雌を抱くなり 
 251 荻原井泉水  空をあゆむ朗朗と月ひとり 
 252 富安風生  赤富士のぬうっと近き面構え 
 253 渡辺水巴  薫風や蚕は吐く糸にまみれつゝ 蚕:こ
 254 村上鬼城  夏草に這い上がりたる捨蚕かな 捨蚕:すてご
 255 村上鬼城  闘鶏の眼つぶれて飼われけり 
 256 河東碧梧桐  ミモーザを活けて一日留守にしたベッドの白く 
 257 河東碧梧桐  空をはさむ蟹死にをるや雲の峰 
 258 良寛  盗人に取り残されし窓の月 
 259 高井几董  かなしさに魚喰ふ秋のゆふべ哉 
 260 高井几董  青海苔や石の窪みの忘れ汐 
 261 加舎白雄  夕風や野川を蝶の越えしより 
 262 加舎白雄  鶏の嘴に氷こぼるる菜屑かな 嘴:はし
 263 加舎白雄  さうぶ湯やさうぶ寄りくる乳のあたり 乳:ち
 264 加藤暁台  濤暑し石に怒れるひゞきあり 
 265 加藤暁台  菫つめばちひさき春のこころかな 菫:すみれ
 266 加藤暁台  元旦やくらきより人あらはるゝ 
 267 大島蓼太  更くる夜や炭もて炭をくだく音 
 268 大島蓼太  我が影の壁にしむ夜やきりぎりす 
 269 炭大祇  初恋や燈籠によする顔と顔 
 270 炭大祇  空遠く声あはせ行く小鳥かな 
 271 炭大祇  水瓶へ鼠の落ちし夜寒かな 
 272 加賀千代女  こぼれては風拾ひ行鵆かな 鵆:ちどり
 273 加賀千代女  夕顔や女子の肌の見ゆる時 女子:おなご
 274 加賀千代女  秋の野や花となる草ならぬ艸 艸:くさ
 275 上島鬼貫  なんと今日の暑さはと石の塵を吹く 
 276 上島鬼貫  行水の捨てどころなし虫の声 
 277 芭蕉  両の手に桃と桜や草の餅 
 278 服部嵐雪  蒲団着て寝たる姿や東山 
 279 服部嵐雪  沙魚釣るや水村山廓酒旗の風 水村山廓酒旗:すいそんさんかくしゅき
 280 向井去来  動くとも見えで畑うつ男かな 
 281 向井去来  おうおうといへど敲くや雪の門 
 282 波多野爽波  菱取りしあたりの水のぐったりと 
 283 波多野爽波  ぽっかりと風花のなきところかな 
 284 波多野爽波  草に寝て雲雀の空へ目をつむり 
 285 波多野爽波  いろいろな泳ぎ方してプールにひとり 
 286 波多野爽波  西日さしそこ動かせぬものばかり 
 287 波多野爽波  老人よどこも網戸にしてひとり 
 288 宝井其角  川上は柳か梅か百千鳥 
 289 宝井其角  菓子盆にけし人形や桃の花 
 290 宝井其角  あれきけと時雨来る夜の鐘の声 
 291 宝井其角  あさぎりに一の鳥居や波の音 
 292 向井去来  なくなくも小き草鞋もとめかね 
 293 芭蕉  咲花に小き門を出つ入つ 咲:さく 小き:ちひさき 入つ:いりつ
 294 芭蕉  咲花にかき出す椽のかたぶきて 咲:さく 椽:えん たるき
 295 向井去来  弓張の角さし出す月の雲 
 296 向井去来  梅にすゞめの枝の百なり 
 297 向井去来  青みたる松より花の咲きこぼれ 
 298 向井去来  兄弟の顔見あはすやほとゝぎす 
 299 向井去来  いそがしや沖のしぐれの真帆片帆 真帆片帆:まほかたほ
 300 向井去来  手をはなつ中に落けり朧月 
 301 向井去来  猪の寝に行かたや明の月 行:ゆく 明:あけ
 302 向井去来  をとゝ日はあの山越つ花ざかり 
 303 向井去来  賽銭も用意顔なり花の森 
 304 野沢凡兆  大どしをおもへば年の敵かな 敵:かたき
 305 向井去来  振舞や下座に直る去年の雛 
 306 向井去来  涼しさの野山にみつる念仏かな 念仏:ねぶつ
 307 芭蕉  清瀧や波に塵なき夏の月 
 308 芭蕉  蓬莱にきかばや伊勢のはつ便 蓬莱:ほうらい 古代中国で東の海上(海中)にある仙人が住むといわれていた仙境の1つ 便:たより
 309 芭蕉  からさきの松は花より朧にて 
 310 宝井其角  この木戸や鎖のさゝれて冬の月 
 311 芭蕉  どんみりと棟や雨の花曇り 
 312 芭蕉  年暮れぬ笠着て草履履きながら 
 313 芭蕉  鷹一つ見つけてうれし伊良湖崎 
 314 芭蕉  住みつかぬ旅の心や置炬燵 
 315 芭蕉  涼しさをわが宿にしてねまるなり 
 316 芭蕉  涼しさやほの三日月の羽黒山 
 317 芭蕉  白菊よ白菊よ恥髪よ長髪よ 
 318 芭蕉  錠明けて月さし入れよ浮御堂 
 319 芭蕉  四方より吹き入れて鳰の波 
 320 芭蕉  しぐるるや田の新株の黒むほど 
 321 芭蕉  塩鯛の歯茎も寒し魚の店 
 322 芭蕉  猿を聞く人捨て子に秋の風いかに 
 323 芭蕉  五月雨に鳰の浮巣を見にゆかん 
 324 芭蕉  早苗とる手もとや昔しのぶ摺 
 325 芭蕉  小萩散れますほの小貝小盃 
 326 芭蕉  木のもとに汁も膾も桜かな 膾:なます
 327 芭蕉  このあたり目に見ゆるものは皆涼し 
 328 芭蕉  この秋は何で年寄る雲に鳥 
 329 芭蕉  子に飽くと申す人には花もなし 
 330 芭蕉  木枯しや頬腫れ痛む人の顔 
 331 芭蕉  鞍壺に小坊主乗るや大根引 
 332 芭蕉  霧しぐれ富士を見ぬ日ぞ面白き 
 333 芭蕉  清滝や波に散り込む青松葉 
 334 芭蕉  狂句木枯しの身は竹斎に似たるかな 
 335 芭蕉  君火を焚けよき物見せん雪丸げ 
 336 芭蕉  菊に出て奈良と難波は宵月夜 
 337 芭蕉  乾鮭も空也の痩せも寒の中 
 338 芭蕉  語られぬ湯殿に濡らす袂かな 
 339 芭蕉  風ふけば尾細うなるや犬桜 
 340 芭蕉  数ならぬ身とな思ひそ玉祭り 
 341 芭蕉  陽炎のわが肩に立つ紙子かな 
 342 芭蕉  杜若われに発句の思いあり 
 343 芭蕉  折々に伊吹を見ては冬籠 
 344 芭蕉  わが衣に伏見の桃の雫せよ 
 345 芭蕉  龍門の花や上戸の土産にせん 
 346 芭蕉  夜窃かに虫は月下の栗を穿つ 窃か:ひそか
 347 芭蕉  世の人の見つけぬ花や軒の栗 
 348 芭蕉  雪間より動き薄紫の芽独活かな 独活:うど
 349 芭蕉  夕顔に見とるるや身もうかりひょん 
 350 芭蕉  病む雁の夜寒に落ちて旅寝かな 
 351 芭蕉  山も庭に動き入るるや夏座敷 
 352 芭蕉  山中や菊は手折らぬ湯の匂い 
 353 芭蕉  山里は万歳遅し梅の花 万歳:三河万歳は新春を寿ぎつつ各戸を廻る
 354 芭蕉  物書いて扇引き裂く名残かな 
 355 芭蕉  藻にすだく白魚やとらば消えぬべき 
 356 芭蕉  水取りや氷の僧の沓の音 
 357 芭蕉  三井寺の門敲かばや今日の月 
 358 芭蕉  眉掃きを梯にして紅粉の花 
 359 芭蕉  まず頼む椎の木もあり夏木立 
 360 芭蕉  ほととぎす今は俳諧師なき世かな 
 361 芭蕉  星崎の闇を見よとや啼く千鳥 
 362 芭蕉  旧里や臍の緒に泣く年の暮 
 363 芭蕉  冬籠りまた寄りそわんこの柱 
 364 芭蕉  吹き飛ばす石は浅間の野分かな 
 365 芭蕉  風流の初めや奥の田植歌 
 366 芭蕉  日は花に暮れてさびしやあすなろう 
 367 芭蕉  一家に遊女も寝たり萩と月 
 368 芭蕉  春の夜や籠り人ゆかし堂の隅 
 369 芭蕉  春なれや名もなき山の薄霞 
 370 芭蕉  花の陰謡に似たる旅寝かな 
 371 芭蕉  八九間空で雨降る柳かな 
 372 芭蕉  野を横に馬牽き向けよほととぎす 
 373 芭蕉  蚤虱馬の尿する枕もと 
 374 芭蕉  庭掃きて出でばや寺に散る柳 
 375 芭蕉  波の間や小貝にまじる萩の塵 
 376 芭蕉  阿蘭陀も花に来にけり馬に鞍 阿蘭陀:オランダ
 377 芭蕉  笈も太刀も五月に飾れ紙幟 笈:おい 書物・仏具・衣服・食器などを入れて背に負う、竹をあんで 作った箱
 378 芭蕉  馬をさえ眺むる雪の朝かな 
 379 芭蕉  馬ぼくぼく我を絵に見る夏野かな 
 380 芭蕉  憂き我をさびしがらせよ閑古鳥 
 381 芭蕉  命二つの中に生きたる桜かな 
 382 芭蕉  命なりわずかの笠の下涼み 
 383 芭蕉  猪の床にも入るやきりぎりす 
 384 芭蕉  稲妻や闇の方行く五位の声 
 385 芭蕉  あらとうと青葉若葉の日の光 
 386 芭蕉  曙や白魚白きこと一寸 
 387 芭蕉  秋近き心の寄るや四畳半 
 388 芭蕉  秋風や藪も畠も不破の関 
 389 芭蕉  青くてもあるべきものは唐辛子 
 390 川端茅舎  暖かや飴の中から桃太郎 
 391 水原秋櫻子  天国の夕焼を見ずや地は枯れても 天国:ばらいそ
 392 中村草田男  亡き友肩に手をのするごと秋日ぬくし 
 393 秋元不死男  蟻這はすいつかは死ぬ手の裏表 
 394 山口青邨  めちゃくちゃに手をふり蝶にふれんとす 
 395 波多野爽波  五山の火燃ゆるグランドピアノかな 
 396 波多野爽波  裂かれたる穴子のみんな目が澄んで 
 397 波多野爽波  手が冷た頬に当てれば頬冷た 
 398 波多野爽波  リボンの娘手つなぎくるや崩れ簗 
 399 波多野爽波  暗幕にぶら下がりゐるばったかな 
 400 波多野爽波  天ぷらの海老の尾赤き冬の空 
 401 波多野爽波  招き猫水中の藻に冬が来て 
 402 波多野爽波  玄関のただ開いてゐる茂かな 茂:しげり
 403 波多野爽波  福笑鉄橋斜め前方に 
 404 波多野爽波  鶴凍てて花の如きを糞りにけり 糞り:まり
 405 波多野爽波  夜の湖の暗き流れ桐一葉 
 406 波多野爽波  桜貝長き翼の海の星 
 407 波多野爽波  本あけしほどのまぶしさ花八つ手 
 408 山口誓子  筍の天鵞絨の斑の美しき 天鵞絨:ビロード 斑:ふ
 409 山口誓子  たかんなの土出でてなほ鬱々と 
 410 河東碧梧桐  春寒し水田の上の根なし雲 
 411 松本たかし  又一つ病身に添ふ春寒し 
 412 村上鬼城  春寒やぶつかり歩く盲犬 
 413 中村汀女  春寒やすぐ手につきし焚火の香 
 414 阿波野青畝  手より落つ赤鉛筆や目借時 
 415 原石鼎  落椿を飛ぶ時長き蛙かな 落椿:おちつばき
 416 高野素十  鮭の子の下る八十八夜とか 
 417 西東三鬼  たんぽぽ地に張りつき咲けり飛行音 
 418 加賀千代女  風毎に葉を吹出すやことし竹 
 419 加賀千代女  わき道の夜半や明るく初さくら 
 420 加賀千代女  桃の日や花あとに成先に成 
 421 加賀千代女  ものの葉のまだものめかぬ余寒かな 
 422 加賀千代女  水影をくめどこぼせど朧月 
 423 加賀千代女  昼の夢ひとりたのしむ柳哉 
 424 加賀千代女  何になる空見すまして雲雀かな 
 425 加賀千代女  月の夜の桜に蝶の朝寝かな 
 426 加賀千代女  たんぽぽや折々さます蝶の夢 
 427 加賀千代女  鴬や椿落して迯て行 迯:にげ
 428 加賀千代女  閑かさは何の心やはるのそら 
 429 加賀千代女  うくひすやはてなき空をおもひ切 
 430 加賀千代女  仰向いて梅をながめる蛙かな 
 431 山口青邨  病室のわれが名札や月あかり  
 432 山口青邨  開き見る忘扇の花や月 
 433 山口青邨  朴落葉いま銀となりうらがへる 
 434 山口青邨  敗れたりきのふ残せしビール飲む 
 435 山口青邨  藻疊はよきや鴨たち雨の中 藻疊:もだたみ
 436 山口青邨  これよりは菊の酒また菊枕 
 437 山口青邨  わが心やさしくなりぬ赤のまま 
 438 三橋鷹女  田楽に酔うてさびしき男かな 
 439 三橋鷹女  棕梠の葉の氷柱房なす朝かな 
 440 三橋鷹女  萩枯れて頬白訪はずなりにけり 
 441 三橋鷹女  初冬のふたたび赤きカンナかな 
 442 三橋鷹女  花葛の淡き模様の秋袷 
 443 三橋鷹女  かたげこぼす壺の水より秋のこゑ 
 444 三橋鷹女  あかねさす雲ゆるやかに山開き 
 445 三橋鷹女  一むらのおいらん草に夕涼み 
 446 三橋鷹女  春愁ふ真珠の吾こをかたはらに 
 447 三橋鷹女  もみくちやに辛夷は吹かれ心吹かれ 
 448 三橋鷹女  高曇り蒸してつくつく法師かな 
 449 三橋鷹女  蝶とべり飛べよとおもふ掌の菫 
 450 三橋鷹女  ぶらんこを漕ぐまたひとり敵ふやし 
 451 三橋鷹女  雨風の濡れては乾き猫ぢやらし 
 452 三橋鷹女  つはぶきはだんまりの花嫌ひな花 
 453 三橋鷹女  千の蟲鳴く一匹の狂ひ鳴き 
 454 三橋鷹女  めんどりよりをんどりかなしちるさくら 
 455 三橋鷹女  顔よせて鹿の子ほのかにあたたかし 
 456 三橋鷹女  深追いの恋はすまじき沈丁花 
 457 三橋鷹女  春の夢みてゐて瞼ぬれにけり 
 458 上島鬼貫  おもしろさ急には見へぬすすきかな 
 459 上島鬼貫  つくづくともののはじまる火燵かな 
 460 上島鬼貫  草麦や雲雀があがるあれさがる 
 461 上島鬼貫  ささ栗の柴に刈らるる小春かな 
 462 上島鬼貫  鶯の鳴けば何やらなつかしう 
 463 上島鬼貫  春の水ところどころに見ゆるかな 
 464 上島鬼貫  月花を我物顔の枕かな 
 465 宝井其角  豆をうつ声のうちなる笑かな 
 466 宝井其角  ちり際は風もたのまずけしの花 
 467 宝井其角  うぐひすや遠路ながら礼かへし 
 468 宝井其角  いなづまやきのふは東けふは西 
 469 向井去来  絵の中に居るや山家の雪げしき 
 470 向井去来  朝あらしあまたの上を渡り鳥 
 471 子規  酒買ふて酒屋の菊をもらひけり 
 472 子規  冷酒を飲み過しけり後の月 
 473 子規  酒のんで一日秋をわすれけり 
 474 子規  俳を談ず秋海棠の夕哉 
 475 子規  柿もくはで随問随答を草しけり 
 476 子規  芭蕉忌や吾に派もなく伝もなし 
 477 子規  虫鳴や俳句分類の進む夜半 
 478 子規  行く年の我いまだ老いず書を読ん 書を読ん:しょをよまん
 479 子規  手向くるや余寒の豆腐初桜 
 480 子規  鯛鮓や一門三十五六人 鯛鮓:たいずし
 481 子規  芭蕉忌に参らずひとり柿を喰ふ 
 482 子規  古書幾巻水仙もなし床の上 
 483 子規  夏痩をなでつさすりて一人哉 
 484 子規  月花の愚をしぐれけり二百年 
 485 子規  月並は何と聞くらん子規 子規:ほととぎす
 486 子規  渾沌をかりに名づけて海鼠かな 
 487 子規  内のチヨマが隣のタマを待つ夜かな 
 488 子規  涅槃像仏一人は笑ひけり 
 489 子規  正月の人あつまりし落語かな 
 490 子規  やせ馬の尻ならべたるあつさ哉 
 491 子規  雞頭や不折がくれし葉雞頭 雞頭:けいとう 不折:ふせつ
 492 子規  秦々たる桃の若葉や君娶る 秦々:しんしん 漱石の結婚
 493 子規  芭蕉破れて書読む君の声近し 破れ:やれ 書:ふみ
 494 子規  人間ハマダ生キテ居ル秋ノ風 
 495 子規  栗飯ヤ病人ナガラ大食ヒ 大食ヒ:オオグラヒ
 496 子規  和歌に痩せ俳句に痩せぬ夏男 
 497 子規  日本派の句集に画く菫かな 画く菫:えがくすみれ
 498 子規  柿喰ヒの俳句好みしと伝ふべし 
 499 子規  病人ニ八十五度ノ残暑カナ 
 500 子規  今日は又足が痛みぬ五月雨 
 501 子規  立たんとす腰のつがひの冴え返る 
 502 向井去来  夕涼み疝気おこしてかへりけり 
 503 芭蕉  夕顔や酔てかほ出す窓の穴 
 504 上島鬼貫  雪で富士か不尽にて雪か不二の雪 
 505 一茶  吾庵は何を申すも藪わか葉 
 506 一茶  ゆうぜんとして山を見る蛙哉 
 507 一茶  山吹に差出口きく蛙哉 
 508 一茶  痩蛙まけるな一茶是に有 
 509 虚子  二人して綱引なんど試みよ 
 510 芭蕉  日の道や葵傾く五月雨 
 511 一茶  むくどりの仲間に入るや夕時雨 
 512 一茶  椋鳥と我をよぷ也村時雨 
 513 一茶  椋鳥と人に呼るゝ寒哉 
 514 一茶  三日月に天窓うつなよほととぎす 
 515 一茶  まだたのしまだ暑いぞよ三日の月 
 516 一茶  昼顔やぽつぽつと燃る石ころへ 
 517 一茶  昼顔やしほるゝ草を乗越乗越 
 518 一茶  昼顔やざぶざぶ汐に馴てさく 
 519 一茶  ひとらしく更へもかへけりあさ衣 
 520 一茶  伴僧が手習す也わか葉陰 伴僧:ばんそう 阿闍梨(あじゃり)に随伴して読経などの役を行なう僧。また、一寺の住職に随伴する下級僧。番僧。
 521 蕪村  日の光今朝や鰯のかしらより 
 522 芭蕉  めでたき人の数にも入ん年の暮 
 523 芭蕉  水無月や鯛はあれども塩くじら 
 524 芭蕉  ひやひやと壁をふまへて昼寝哉 
 525 芭蕉  人に家を買せて我は年忘 
 526 芭蕉  ひいと啼尻声悲し夜の鹿 
 527 向井去来  花守や白きかしらを突あはせ 
 528 上島鬼貫  むかしとへば卵塔までの葉末かな 卵塔:らんとう 墓石の一種。座台の上に、卵形の石塔婆をのせたもの。
 529 上島鬼貫  又の月もあふのひてこそ甲斐はあれ 
 530 上島鬼貫  冬は又夏がましぢゃといひにけり 
 531 上島鬼貫  富士は雪は花一時のよしの山 
 532 上島鬼貫  春雨のけふばかりとて降りにけり 
 533 上島鬼貫  花の色はからびはてたる冬木立 
 534 蕪村  芭蕉去てそのゝちいまだ年くれず 
 535 上島鬼貫  野も山も昼かとぞ首のだるくこそ 
 536 上島鬼貫  ねられぬやにがにがしくも鳴千鳥 
 537 上島鬼貫  にょつぽりと秋の空なる不尽の山 
 538 上島鬼貫  なんと菊のかなぐられふぞ枯てだに 
 539 上島鬼貫  月代やむかしの近き須磨の浦 
 540 上島鬼貫  谷水や石も歌よむ山櫻 
 541 一茶  はつ雪やいろはにほへと習声 
 542 一茶  八兵衛や泣ざなるまい虎が雨 虎が雨:陰暦の五月二十八日に降る雨のこと。曾我兄弟の兄、十郎が新田 忠常に切り殺されことを、愛人の虎御前が悲しみ、その涙が雨に なったという言伝えに由来する。
 543 一茶  寝て起て我もつらつら椿哉 
 544 一茶  なはしろに蛙の鳴やときの声 
 545 一茶  なまけるないろはにほへと散桜 
 546 一茶  旅人に雨降花の咲にけり 
 547 一茶  竹ぎれで手習ひをするまゝ子哉 
 548 一茶  大帳を枕としたる暑かな 大帳:だいちょう 台帳 大福帳
 549 一茶  芝居迄降りつぶしたりけふの月 
 550 一茶  白髪同志春をゝしむもばからしや 
 551 一茶  叱てもしゃあしゃあとして蛙哉 
 552 一茶  ことしこそ小言相手も夏座敷 
 553 一茶  今年から丸もうけぞよ娑婆遊び 娑婆遊び:さばあそび もう一生分は生きてしまったのだから、これから先はおまけのようなもの、つらいことがあろうと悩みがあろうと命があるだけで丸儲け。
 554 一茶  五十婿天窓をかくす扇かな 
 555 一茶  けろけろと師走月よの榎哉 
 556 一茶  けさ秋と云計りでも老にけり 
 557 上島鬼貫  此露を待て寝たぞや起たぞや 
 558 蕪村  底のない桶こけ歩行野分哉 歩行:あるく
 559 蕪村  時雨るゝや蓑買ふ人のまことより 
 560 金子兜太  夏の山国母いてわれを与太という 
 561 一茶  究竟の雨といふ也けふの月 
 562 一茶  けふの月我もむさしに往合 往合:すみあわせ
 563 上島鬼貫  そよりともせいで秋たつ事かいの 
 564 上島鬼貫  須磨に此吾妻からげやしほ衣 
 565 上島鬼貫  さつき雨たゞふるものと覚へけり 
 566 上島鬼貫  きかぬやうに人はいふ也郭公 
 567 上島鬼貫  蚊をよけて親の鼾や郭公 郭公:ほととぎす
 568 上島鬼貫  川越て赤き足ゆく枯柳 
 569 芭蕉  腰たけや鶴脛ぬれて海涼し 脛:すね
 570 芭蕉  象潟や雨に西施がねむの花 
 571 芭蕉  象潟の雨や西施がねむの花 
 572 芭蕉  かれ朶に鳥のとまりけり秋の暮 
 573 加賀千代女  若水や流るるうちに去年ことし 
 574 三橋鷹女  路地裏もあはれ満月去年今年 
 575 久保田万太郎  去年の月のこせる空のくらきかな 
 576 上島鬼貫  歩行ならば杖つき坂を落馬哉 
 577 上島鬼貫  かけまはる夢や焼野の風の音 
 578 上島鬼貫  おとゝしのから鮭買ふてやすいもの 
 579 上島鬼貫  鶯や音を入れて只青い鳥 
 580 上島鬼貫  あたゝかに冬の日南の寒き哉 
 581 上島鬼貫  あたゝかに冬の日なたの寒き哉 
 582 上島鬼貫  東路の夜露こふたる紙子哉 
 583 一茶  さぼてんを上坐に直ス冬至哉 
 584 一茶  我梅はなんのけもなき冬至哉 
 585 一茶  むつかしや今月が入寒が入 今月が入:いまつきがいる
 586 一茶  上白の一陽来たり梅の花  上白:かみしろ
 587 一茶  粥くふも物しりらしき冬至哉 
 588 一茶  おれとして白眼くらする蛙かな 白眼:にらみ
 589 一茶  姥捨た罪も亡んけふの月 亡ん:ほろびん
 590 一茶  大水や大昼顔のけろり咲 
 591 一茶  老の身は暑のへるも苦労哉 
 592 一茶  老が身は鼠も引ぬ夜寒哉 
 593 一茶  うす緑にぼりして逃る鳴蛙 
 594 一茶  いろはにほへとを習ふいろり哉 
 595 一茶  有合の山ですますやけふの月 
 596 一茶  暑き日やひやと算盤枕哉 
 597 一茶  暑き日に面は手習した子かな 
 598 一茶  あついとてつらで手習した子かな 
 599 一茶  ふしぎ也生た家でけふの月 
 600 一茶  名月や松ない島も天窓数 
 601 一茶  破壁や我が名月の今御座る 
 602 一茶  寝むしろも是名月ぞ名月ぞ 
 603 一茶  山里は小鍋の中も名月ぞ 
 604 一茶  名月や寝ながらおがむ体たらく 
 605 一茶  名月や草の下坐はどこの衆 
 606 一茶  仇藪も貧乏かくしぞけふの月 仇藪:あだやぶ
 607 一茶  秋立や雨ふり花のけろけろと 
 608 芭蕉  牛部やに蚊の声聞き残暑哉 
 609 芭蕉  あつみ山や吹浦かけて夕すゞみ 
 610 蕪村  うぐいすや家内揃うて飯時分 
 611 蕪村  いばりせしふとんほしたる須磨の里 
 612 蕪村  青梅に眉あつめたる美人哉 
 613 山口青邨  簪のゆれつゝ下る初詣 簪:かんざし
 614 山口誓子  折りし皮ひとりで開く柏餅 
 615 山口誓子  鯉幟風に折れ又風に伸ぶ 
 616 森澄雄  雪嶺のひとたび暮れて顕はるる 
 617 森澄雄  芭蕉忌の暮れて甘ゆる鳰のこゑ 
 618 森澄雄  はるかまで旅してゐたり昼寝覚 
 619 森澄雄  田を植ゑて空も近江の水ぐもり 
 620 村上鬼城  七夕やくらがりで結ふたばね髪 
 621 三橋鷹女  秋風や水より淡き魚のひれ 
 622 水原秋櫻子  羽子板市三日の栄華つくしけり 
 623 水原秋櫻子  雨ごもり筍飯を夜は炊けよ 
 624 松本たかし  秋晴の何処かに杖を忘れけり 
 625 松本たかし  羅をゆるやかに着て崩れざる 羅:うすらい うすもの
 626 松根東洋城  山からの雨潔き夏野かな 
 627 子規  押しあふて又卯の花の咲きこぼれ 
 628 星野立子  冬日和心にも翳なかりけり 翳:かげり
 629 蕪村  秋立つや素湯香しき極楽院 
 630 蕪村  涼しさや鐘をはなるゝかねの声 
 631 原石鼎  門松のやゝかたむくを直し入る 
 632 原石鼎  鹿二つ立ちて淡しや月の丘 
 633 原石鼎  雨ふくむ葉の重みして若楓 
 634 波多野爽波  川床つづくぽっかり開いてまたつづく 
 635 芭蕉  石山の石より白し秋の風 
 636 橋本多佳子  大綿は手に捕りやすしとれば死す 大綿:綿虫 雪虫、雪蛍、白粉婆
 637 橋本多佳子  濃き墨のかわきやすさよ青嵐 
 638 橋本多佳子  罌栗ひらく髪の先まで寂しきとき 罌栗:けし
 639 能村登四郎  今年より吾子の硯のありて洗ふ 
 640 能村登四郎  溝浚ひはじめての水ほとばしる 溝浚ひ:みぞさらい
 641 中村汀女  たちまちに蜩の声揃ふなり 蜩:ひぐらし
 642 中村草田男  あたたかき十一月もすみにけり 
 643 中村草田男  玫瑰や今も沖には未来あり 玫瑰:はまなす
 644 内藤鳴雪  爼に薺のあとの匂ひかな 爼:まないた 薺:なずな 
 645 富安風生  初富士の大きかりける汀かな 
 646 富安風生  夏山の立ちはだかれる軒端かな 
 647 富安風生  老鶯や珠のごとくに一湖あり 
 648 加賀千代女  落ち鮎や日に日に水のおそろしき 
 649 竹下しづの女  月代は月となり灯は窓となり 
 650 高浜年尾  溝蕎麦は水の際より咲きそめし 
 651 杉田久女  春繭や雨をふくみて薄みどり 
 652 芝不器男  麦車馬におくれて動き出づ 麦車:むぎぐるま 麦刈りの道具
 653 西東三鬼  モナリザに仮死いつまでもこがね虫 
 654 西東三鬼  身に貯へん全山の蝉の声 
 655 西東三鬼  海から無電うなづき歩む初夏の鳩 
 656 山口誓子  春眠のわが身をくぐる波の音 
 657 山口誓子  紫が深まれば黒雨の菫 
 658 川端茅舎  亀甲の粒ぎっしりと黒葡萄 
 659 虚子  石段に一歩をかけぬ初詣 
 660 芭蕉  かたつぶり角ふりわけよ須磨明石 
 661 久保田万太郎  盆の月ひかりを雲にわかちけり 
 662 久保田万太郎  夏の月いま上りたるばかりかな 
 663 加藤楸邨  こけさまにほうと抱ゆる西瓜かな 
 664 加藤楸邨  山茶花のこぼれつぐなり夜も見ゆ 
 665 上田五千石  万緑や死は一弾を以て足る 
 666 蕪村  早梅や御室の里の売やしき 御室:みむろ
 667 蕪村  麦蒔や百まで生る貌ばかり 
 668 橋本多佳子  木の実独楽ひとつおろかに背が高き 
 669 西東三鬼  大寒や転びて諸手つく哀しさ 
 670 石田波郷  蝶燕母も来給ふ死に得んや 
 671 加藤楸邨  おぼろ夜のかたまりとしてものおもふ 
 672 虚子  五女の家に次女と駆け込む春の雷 
 673 飯田龍太  強霜の富士や力を裾までも 強霜:つよじも
 674 飯田龍太  六月の花のさざめく水の上 
 675 飯田龍太  山の木に風すこしある薄暑かな 
 676 飯田蛇笏  いんぎんにことづてたのむ淑気かな 淑気:しゅくき 新年の神々(こうごう)しい雰囲気
 677 飯田蛇笏  山中の巌うるほひて初しぐれ 
 678 飯田蛇笏  炎天を槍のごとくに涼気すぐ 
 679 阿波野青畝  にぎはしき雪解雫の伽藍かな 
 680 阿部みどり女  初鶏にこたふる鶏も遠からぬ 
 681 阿部みどり女  鉦叩風に消されてあと打たず 
 682 芥川龍之介  初午の祠ともりぬ雨の中 
 683 秋元不死男  跳ぶさまで止る聖夜の赤木馬 
 684 秋元不死男  豊年や切手をのせて舌甘し 
 685 秋元不死男  引く波に貝殻鳴りて実朝忌 
 686 長谷川かな女  冬さうびかたくなに濃き黄色かな 冬そうび:冬薔薇
 687 阿波野青畝  冬薔薇や青天井に蔓まげて 
 688 加藤楸邨  冬薔薇瞳によろこべりうつうつと 冬薔薇:ふゆそうび
 689 松瀬青々  蕪干せば冬の日低うなりにけり  
 690 山口青邨  赤蕪を一つ逸しぬ水迅く  
 691 石原八束  緋蕪菁を買ふ乳母車かたへにし  
 692 子規  画室成る蕪を贈つて祝ひけり  
 693 鈴木真砂女  梅雨寒く小蕪真白く洗はるゝ  
 694 原石鼎  太陽に黒点出来し蕪かな  
 695 中村汀女  土を出て蕪一個として存す 
 696 水原秋櫻子  佗助を挿すとて据ゑぬ蕪徳利 
 697 一茶  おく霜の一味付けし蕪かな 
 698 石田波郷  七夕竹惜命の文字隠れなし 
 699 一茶  春の月さはらば雫たりぬべし 
 700 阿波野青畝  よこたへて金ほのめくや桜台 
 701 中村草田男  そら豆の花の黒き目数知れず 
 702 長谷川素逝  菜の花の暮れてなほある水明り 
 703 右城暮石  蝌蚪生れ黒き塊まだ解かず 
 704 松本たかし  眼にあてて海が透くなり桜貝 
 705 秋元不死男  はるばると海よりころげきし栄螺 栄螺:さざえ
 706 中村汀女  部屋のことすべて鏡にシクラメン 
 707 石原八束  天平の仏にまみえ青き踏む 青き踏む:野遊び 一歩一歩進むという気分
 708 秋元不死男  せせらぎや駈けだしさうに土筆生ふ 生ふ:おふ
 709 一茶  春雨や喰はれ残りの鴨が鳴く 
 710 日野草城  きさらぎの藪にひびける早瀬かな 
 711 西東三鬼  垂れ髪に雪をちりばめ卒業す 
 712 大野林火  春山を出でくる川に堰いくつ 
 713 長谷川かな女  土筆野やよろこぶ母につみあます 
 714 飯田蛇笏  洟かんで耳鼻相通ず今朝の秋 洟:はな
 715 山口青邨  へつつひの煙にむせぶ梅の宿 へつつひ かまど はがま
 716 山口青邨  わが前に垂れて花あり枝垂梅 
 717 虚子  あたゝかや蜆ふえたる裏の川 
 718 日野草城  暮れそめてにはかに暮れぬ梅林 
 719 星野立子  仮住のなれぬ水仕や春浅き 水仕:みずし 台所で水仕事をすること
 720 久保田万太郎  淡雪のつもるつもりや砂の上 
 721 大野林火  物置けばすぐ影添ひて冴返る 冴返る:さえかえる
 722 金子兜太  鰯雲日かげは水の音迅く 
 723 山口誓子  虹の環を以て地上のものかこむ 環を以て:わをもって
 724 阿波野青畝  しづり雪誘ひさそはれ淵に落つ 
 725 石田波郷  春雪三日祭の如く過ぎにけり 
 726 黒田杏子  ひとはみなひとわすれゆくさくらかな 
 727 中村草田男  咲き切って薔薇の容を超えけるも 容:かたち
 728 金子兜太  被爆の人や牛や夏野をただ歩く 
 729 金子兜太  合歓の花君と別れてうろつくよ 
 730 金子兜太  老母指せば蛇の体の笑うなり 
 731 金子兜太  大航海時代ありき平戸に朝寝して 
 732 金子兜太  秋高し仏頂面も俳諧なり 
 733 金子兜太  妻病めば葛たぐるごと過去たぐる 
 734 金子兜太  春落日しかし日暮れを急がない 
 735 金子兜太  唯今二一五〇羽の白鳥と妻居り 
 736 金子兜太  どどどどと蛍袋に蟻騒ぐぞ 
 737 金子兜太  麦秋の夜は黒焦げ黒焦げあるな 
 738 金子兜太  朝寝して白波の夢ひとり旅 
 739 金子兜太  花柘榴の花の点鐘恵山寺 
 740 金子兜太  抱けば熟れいて夭夭の桃肩に昴 夭夭:ようよう
 741 金子兜太  麒麟の脚のごとき恵みよ夏の人 
 742 金子兜太  猪が来て空気を食べる春の峠 
 743 金子兜太  谷間谷間に満作が咲く荒凡夫 荒凡夫:あらぼんぷ 庶民ながら自由気ままに生きる人
 744 金子兜太  山国や空にただよう花火殻 
 745 金子兜太  人刺して足長蜂帰る荒涼へ 
 746 金子兜太  ぎらぎらの朝日子照らす自然かな 
 747 尾崎放哉  肉がやせて来る太い骨である 
 748 虚子  人形の足袋うち反りてはかれけり 
 749 波多野爽波  雪うさぎ柔かづくり固づくり 
 750 大野林火  城に灯が入りかまくらもともるなり 
 751 子規  人の手にはや古りそめぬ初暦 
 752 星野立子  元旦やいつもの道を母の家 
 753 松本たかし  みんなみの海湧き立てり椿山 
 754 星野立子  かげりたるばかりの道や落椿 
 755 渡辺水巴  我去れば水も寂しや谷の梅 
 756 星野立子  十年前亡くなりしとや人の秋 
 757 阿波野青畝  蜆舟国引のこの湖 
 758 水原秋櫻子  顔見世や名もあらたまる役者ぶり 
 759 富安風生  万両のほかに生家の記憶なし 
 760 金子兜太  林間を人ごうごうと過ぎゆけり 
 761 金子兜太  最果ての赤鼻の赤魔羅の岩群 
 762 金子兜太  無神の旅あかつき岬をマッチで燃し 
 763 金子兜太  男鹿の荒波黒きは耕す男の眼 
 764 芥川龍之介  労咳の頬美しや冬帽子 
 765 飯田蛇笏  死病得て爪美しき火桶かな 
 766 松本たかし  綺羅星は私語し雪嶺これを聴く 
 767 蕪村  うつゝなきつまみごゝろの胡蝶哉 
 768 西東三鬼  おそるべき君等の乳房夏来る 君等の乳房夏来る:きみらのちぶさなつきたる
 769 金子兜太  豹が好きな子霧中の白い船具 
 770 金子兜太  銀行員ら朝より蛍光す烏賊のごとく 
 771 金子兜太  朝はじまる海へ突込む鷗の死 
 772 金子兜太  人生冴えて幼稚園より深夜の曲 
 773 長谷川かな女  陽の篠のゆらぐ厄日の窓格子 
 774 長谷川かな女  青柿落ちる女が堕ちるところまで 
 775 長谷川かな女  芭蕉忌の紫苑ぐさりと剪り終る 
 776 長谷川かな女  面白くて笠をさすならげんげん野 
 777 長谷川かな女  ホテルの灯掴みて出でし夏手袋 
 778 長谷川かな女  舟虫に海女が置き去る藁草履 
 779 長谷川かな女  前掛が隠す総菜柿照葉 
 780 長谷川かな女  歎異抄に二月耐へゐぬうつ伏して 
 781 長谷川かな女  草の實に佇ちし二人が喜壽の今日 
 782 長谷川かな女  カンナ立ち廃兵いまだ巷にあり 
 783 長谷川かな女  夜の雪となる焼跡を通りすぎ 
 784 長谷川かな女  膝かけの下にかくすは恋慕の手 
 785 長谷川かな女  ママと書きママと書き月見草の夕 
 786 長谷川かな女  水中花菊も牡丹も同じ色 
 787 長谷川かな女  雪女郎添寝す笹のうすみどり 
 788 長谷川かな女  湯豆腐の一と間根岸は雨か雪 
 789 長谷川かな女  頂の瘤に雲這う富士遅日 
 790 長谷川かな女  残菊や一管の笛に執着し 
 791 長谷川かな女  ちちははの役をひとりに秋袷 
 792 長谷川かな女  西鶴の女みな死ぬ夜の秋 
 793 長谷川かな女  びしびしと枯枝折って天のあり 
 794 長谷川かな女  生れたる日本橋の雨月かな 
 795 長谷川かな女  牡丹みな崩るゝ強き日あたれり 
 796 長谷川かな女  冬そうびかたくなに濃き黄色かな 
 797 長谷川かな女  冬ざれて焚く火に凹む大地かな 
 798 長谷川かな女  呪ふ人は好きな人なり紅芙蓉 
 799 長谷川かな女  龍膽の太根切りたり山刀 龍膽:りんどう りゅうたん
 800 長谷川かな女  願ひ事なくて手古奈の秋淋し 手古奈:てこな 葛飾(勝鹿)の真間に奈良時代以前に住んでいたとされる美しい女性の名
 801 長谷川かな女  時鳥女はものゝ文秘めて 
 802 日野草城  思ふこと多ければ咳しげく出づ 
 803 日野草城  先生はふるさとの山風薫る 
 804 日野草城  新涼やさらりと乾く足の裏 
 805 日野草城  おのれ照るごとくに照りて望の月 
 806 日野草城  高熱の鶴青空に漂へり 
 807 日野草城  わがいのちいよよさやけし露日和 
 808 日野草城  望の夜もともしび明く病みにけり 
 809 日野草城  草も樹もしづかに梅雨はじまりぬ 
 810 日野草城  新緑やかぐろき幹につらぬかれ 
 811 日野草城  春の宵妻のゆあみの音きこゆ 
 812 日野草城  山茶花やいくさに敗れたる国の 
 813 日野草城  ひと拗ねてものいはず白き薔薇となる 
 814 日野草城  毎日の景色が雨に濡れてゐる 
 815 日野草城  伊勢えびにしろがねの刃のすずしさよ 
 816 日野草城  をみなとはかかるものかも春の闇 
 817 日野草城  をさなごのひとさしゆびにかかる虹 
 818 日野草城  春眠や鍵穴つぶす鍵さして 
 819 日野草城  宝恵駕の妓のまなざしの来てゐたる 妓:こ
 820 日野草城  タイピストコップに薔薇をひらかしむ 
 821 日野草城  茅渟の海春の大潮みちにけり 茅渟:チヌ 黒鯛
 822 日野草城  サイダーのうすきかをりや夜の秋 
 823 日野草城  白南風や化粧にもれし耳の陰 
 824 日野草城  春の夜や檸檬に触るる鼻の先 
 825 星野立子  露の世の間に合はざりしことばかり 
 826 星野立子  芝焼いてまこと賢き月出でぬ 
 827 星野立子  月の下死に近づきて歩きけり 
 828 星野立子  秋風のそこに見えをり音立てゝ 
 829 松本たかし  恐ろしき緑の中に入りて染まらん 
 830 松本たかし  久闊や秋水となり流れゐし 久闊:きゅうかつ 久しく会わないこと
 831 星野立子  下萌えぬ人間それに従ひぬ 
 832 星野立子  考へても疲るゝばかり曼珠沙華 
 833 星野立子  娘等のうかうかあそびソーダ水 
 834 星野立子  つんつんと遠ざかりけりみちをしへ 
 835 星野立子  蝌蚪一つ鼻杭にあて休みをり 蝌蚪:かと おたまじゃくし
 836 松本たかし  撫で下す顔の荒れゐる日向ぼこ 
 837 松本たかし  白焔の緑の緑や冬日燃ゆ 白焔:はくえん 焔:ほむら
 838 松本たかし  思ふどち紫苑の晴にうち集ひ 
 839 松本たかし  春潮の底とどろきの淋しさよ 
 840 松本たかし  預けある鼓打ちたし冬の梅 
 841 松本たかし  あたたかき深き空洞の炬燵かな 
 842 松本たかし  露涼し神も朝扉を開け給ふ 
 843 松本たかし  するすると涙走りぬ籠枕 
 844 松本たかし  一円に一引く注連の茅の輪かな 
 845 松本たかし  渋柿の滅法生りし愚かさよ 
 846 松本たかし  庖丁を取りて打撫で桜鯛 
 847 松本たかし  起ち上る風の百合あり草の中 
 848 松本たかし  鴨を得て鴨雑炊の今宵かな 
 849 松本たかし  くきくきと折れ曲りけり蛍草 
 850 松本たかし  我去れば鶏頭も去りゆきにけり 
 851 松本たかし  雨音のかさむりにけり虫の宿 
 852 松本たかし  十棹とはあらぬ渡しや水の秋 
 853 松本たかし  ひく波の跡美しや桜貝 
 854 松本たかし  一つづつ田螺の影の延びてあり 
 855 水原秋櫻子  朝寝せり孟浩然を始祖として 孟浩然:もうこうねん 唐代(盛唐)の代表的な詩人
 856 水原秋櫻子  蜻蛉うまれ緑眼煌とすぎゆけり  
 857 水原秋櫻子  山櫻雪嶺天に声もなし 
 858 水原秋櫻子  薔薇の坂にきくは浦上の鐘ならずや 
 859 水原秋櫻子  べたべたに田も菜の花も照りみだる 
 860 水原秋櫻子  伊豆の海や紅梅の上に波ながれ 
 861 水原秋櫻子  門とぢて良夜の石と我は居り 
 862 水原秋櫻子  この沢やいま大瑠璃鳥のこゑひとつ 
 863 水原秋櫻子  山茱萸にけぶるや雨も黄となんぬ 茱萸:ぐみ
 864 水原秋櫻子  狂ひつつ死にし君ゆゑ絵のさむさ 
 865 水原秋櫻子  雪渓をかなしと見たり夜もひかる 
 866 水原秋櫻子  白樺を幽かに霧のゆく音か 
 867 水原秋櫻子  むさしのの空真青なる落葉かな 
 868 水原秋櫻子  梨咲くと葛飾の野はとの曇り 
 869 水原秋櫻子  馬酔木より低き門なり浄瑠璃寺 
 870 中村汀女  菊白し独りの紅茶すぐ冷ゆる 
 871 中村汀女  聞き置くと云ふ言葉あり菊膾 
 872 中村汀女  白玉や人づきあひをまた歎き 
 873 中村汀女  滴りの思ひこらせしとき光る 
 874 中村汀女  次の子も屠蘇を綺麗に干すことよ 
 875 中村汀女  母我をわれ子を思ふ石蕗の花 
 876 中村汀女  夏帯やわが娘きびしく育てつつ 
 877 中村汀女  秋暑き汽車に必死の子守歌 
 878 中村汀女  たらちねの蚊帳の吊手の低きまま 
 879 中村汀女  夫と子をふっつり忘れ懐手 
 880 中村汀女  子を守りて母うつつなき飛燕かな 
 881 中村汀女  子等のものからりと乾き草枯るる 
 882 中村汀女  遠雷や睡ればいまだいとけなく 
 883 中村汀女  春泥に振りかへる子が兄らしや 
 884 中村汀女  春の海のかなたにつなぐ電話かな 
 885 中村汀女  咳をする母を見上げてゐる子かな 
 886 中村汀女  末の子が黴と言葉を使ふほど 
 887 中村汀女  肉皿に秋の蜂来るロッジかな 
 888 中村汀女  遠けれどそれきりなれど法師蝉 
 889 中村汀女  地階の灯春の雪ふる樹のもとに 
 890 中村草田男  旧景が闇を脱ぎゆく大旦 大旦:おおあした 元旦のこと
 891 中村草田男  厚飴割ればシクと音して雲の峰 
 892 中村草田男  いくさよあるな麦生に金貨天降るとも 
 893 中村草田男  膝に来て模様に満ちて春着の子 
 894 中村草田男  玉虫交る土塊どちは愚かさよ 
 895 富安風生  九十五齢とは後生極楽春の風 
 896 富安風生  朴枯葉枝と訣るる声耳に 訣るる:わかるる
 897 富安風生  春惜しむ心と別に命愛し 
 898 富安風生  月に執す五欲の外の慾をもて 
 899 富安風生  こときれてなほ邯鄲のうすみどり 邯鄲:かんたん 体はスズムシに似て細長く、淡黄緑色。山地の草の間に多い
 900 富安風生  狐火を信じ男を信ぜざる 
 901 富安風生  あはあはと富士容あり炎天下 
 902 富安風生  赤富士に露滂沱たる四辺かな 滂沱:坊うだ 雨が激しく降るさま
 903 富安風生  蟻地獄寂莫として飢ゑにけり 寂莫:じゃくまく ひっそりしていてさびしいこと せきばく
 904 富安風生  抱一の観たるたがごとく葛の花 
 905 富安風生  鮭あはれ老の手だれの簎を受く  簎:やす 長い柄の先に数本に分かれたとがった鉄の金具を付けた漁具
 906 富安風生  小鳥来て午後の紅茶のほしきころ 
 907 富安風生  つくらねど句は妻もすき波薐草 波薐草:ほうれんそう
 908 富安風生  虫の音も月光もふと忘るる時 
 909 富安風生  母の忌やその日のごとく春時雨 
 910 富安風生  走馬燈へだてなければ話なし 
 911 橋本多佳子  鵜舟に在りわが身の火の粉うちはらひ 
 912 橋本多佳子  一粒を食べて欠きたる葡萄の房 
 913 橋本多佳子  月一輪凍湖一輪光りあふ 
 914 橋本多佳子  嘆きゐて虹濃き刻を逸したり 
 915 橋本多佳子  炎天の梯子昏きにかつぎ入る 
 916 橋本多佳子  恋猫のかへる野の星沼の星 
 917 橋本多佳子  蟇をりて吾溜息を聴かれたり 
 918 橋本多佳子  夫恋へば吾に死ねよと青葉木菟 
 919 橋本多佳子  凍蝶を容れて十指をさしあはす 
 920 橋本多佳子  蛇を見し眼もて弥勒を拝しけり 
 921 橋本多佳子  泣きしあとわが白息の豊かなる 
 922 橋本多佳子  母と子のトランプ狐啼く夜なり 
 923 橋本多佳子  雪しまきわが喪の髪はみだれたり 
 924 波多野爽波  茎といふ大事なものやさくらんぼ 
 925 波多野爽波  ついて来る人はと見れば吾亦紅 
 926 波多野爽波  冬ざるるリボンかければ贈り物 
 927 波多野爽波  大根の花まで飛んでありし下駄 
 928 波多野爽波  骰子の一の目赤し春の山 骰子:さいころ
 929 波多野爽波  山吹の黄を挟みゐる障子かな  
 930 波多野爽波  あかあかと屏風の裾の忘れもの 
 931 波多野爽波  蓑虫にうすうす目鼻ありにけり 
 932 波多野爽波  沈丁の花をじろりと見て過ぐる 
 933 波多野爽波  箒木が箒木を押し傾けて 
 934 波多野爽波  吾を容れてはばたくごとし春の山 
 935 波多野爽波  鶏頭に手を置きて人諭すごとし 
 936 波多野爽波  芹の水照るに用心忘れた鶏 
 937 波多野爽波  白粉花吾子は淋しい子かも知れず 
 938 波多野爽波  美しやさくらんぼうも夜の雨も 
 939 波多野爽波  シーソーの尻が打つ地の薄暑かな 
 940 波多野爽波  本開けしほどのまぶしさ花八手 
 941 波多野爽波  誰よりも早く秋めく心かな 
 942 能村登四郎  一条のけむり入りたる夏氷 
 943 能村登四郎  霜掃きし箒しばらくして倒る 
 944 能村登四郎  夏掛けのみづいろといふ自愛かな 
 945 能村登四郎  紐すこし貰ひに来たり雛納め 
 946 能村登四郎  初あかりそのまま命あかりかな 
 947 能村登四郎  削るほど紅さす板や十二月 
 948 能村登四郎  ほたる火の冷たさをこそ火と言はめ 
 949 能村登四郎  鶏頭をあさき夢見のあと倒す 
 950 能村登四郎  くらがりに水が慄へる星まつり 慄:おののく 恐怖や興奮などで身体が震える思いをする。身体をわななかせる。戦慄する
 951 能村登四郎  一月の音にはたらく青箒 
 952 能村登四郎  今日の雲けふにて亡ぶ蟻地獄 
 953 能村登四郎  ふかく妻の腕をのめり炭俵 
 954 種田山頭火  泊まることにしてふるさとの葱坊主 
 955 種田山頭火  あるけばかっこういそげばかっこう 
 956 種田山頭火  雲がいそいでよい月にする 
 957 種田山頭火  あるけばきんぽうげすわればきんぽうげ 
 958 種田山頭火  けふもいちにち誰も来なかったほうたる 
 959 種田山頭火  やっぱり一人がよろしい雑草 
 960 種田山頭火  雪へ雪ふるしづけさにをる 
 961 種田山頭火  水音しんじつおちつきました 
 962 種田山頭火  笠へぽっとり椿だった 
 963 種田山頭火  酔うてこほろぎと寝てゐたよ 
 964 種田山頭火  しみじみ食べる飯ばっかりの飯である 
 965 種田山頭火  すべってころんで山がひっそり 
 966 種田山頭火  どうしようもないわたしが歩いてゐる 
 967 種田山頭火  まっすぐな道でさみしい 
 968 種田山頭火  けふもよく働いて人のなつかしや 
 969 竹下しづの女  梅を供す親より背より子ぞ哀し 
 970 竹下しづの女  枯葦の辺に夜の路をうしなひぬ 
 971 竹下しづの女  梅おそし子を病ましむる責ふかく 
 972 竹下しづの女  悲憤あり吐きし西瓜の種子黒く 
 973 竹下しづの女  たゝまれてあるとき妖し紅ショール 
 974 竹下しづの女  苔の香のしるき清水を化粧室にひき 化粧室:トワレ トイレ
 975 竹下しづの女  汝に告ぐ母が居は藤真盛りと 
 976 竹下しづの女  たゞならぬ世に待たれ居て卒業す 
 977 竹下しづの女  幾何を描く児と元日を籠るなり 
 978 竹下しづの女  吾がいほは豊葦原の華がくり 
 979 竹下しづの女  母の名を保護者に負ひて卒業す 
 980 竹下しづの女  ことごとく夫の遺筆や種子袋 
 981 竹下しづの女  カルタ歓声が子を守るわれの頭を撲って 歓声:どよみ
 982 竹下しづの女  今年尚其冬帽乎惜大夫 夫:づま 
 983 竹下しづの女  手袋とるや指輪の玉のうすぐもり 
 984 鷹羽狩行  秋風や寄れば柱もわれに寄り 
 985 鷹羽狩行  露の夜や星を結べば鳥けもの 
 986 鷹羽狩行  初富士の浮かび出でたるゆふべかな 
 987 鷹羽狩行  しづけさに加はる跳ねてゐし炭も 
 988 鷹羽狩行  地球またかく青からむ龍の玉 
 989 鷹羽狩行  生きすぎて忘れらるるな山椒魚 
 990 鷹羽狩行  麦踏みのまたはるかなるものめざす 
 991 鷹羽狩行  赤きもの獅子舞となる山河かな 
 992 鷹羽狩行  来世には天馬になれよ登山馬 
 993 鷹羽狩行  秋風や魚のかたちの骨のこり 
 994 鷹羽狩行  壁画とも天井画とも梅仰ぐ 
 995 鷹羽狩行  湖といふ大きな耳に閑古鳥 湖:うみ
 996 鷹羽狩行  ひとすぢの流るる汗も言葉なり 
 997 鷹羽狩行  紅梅や枝々は空奪ひあひ 
 998 鷹羽狩行  虹なにかしきりにこぼす海の上 
 999 鷹羽狩行  一対か一対一か枯野人 
 1000 鷹羽狩行  天瓜粉しんじつ吾子は無一物 
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