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作品番号 作者  俳句説明
 1 種田山頭火  わかれわかれにわかれゆく太陽を仰ぎつつ 
 2 種田山頭火  この秋ことに切ない風ふく 
 3 種田山頭火  石を枕に秋の雲ゆく 
 4 種田山頭火  とぼしいくらしの、水の流るる 
 5 種田山頭火  トマトを掌に、みほとけのまへにちちははのまへに 掌:て
 6 種田山頭火  蠅を打ち蚊を打ち我を打つ 
 7 種田山頭火  たんぽぽちるやしきりにおもふ母の死のこと 
 8 種田山頭火  あすはお正月の一りんひらく 
 9 種田山頭火  なむあみだぶつなむあみだぶつみあかしままたく 
 10 種田山頭火  泊るところがないどかりと暮れた 
 11 種田山頭火  ふるさとは忘れられない石蕗の花よ 
 12 種田山頭火  波音かすかにどうにかならう 
 13 種田山頭火  南無観世音おん手したたる水の一すぢ 
 14 種田山頭火  母よ、しみじみ頭陀袋かけるとき 頭陀袋:ふくろ
 15 種田山頭火  それは死の前のてふてふの舞 
 16 種田山頭火  死をまへにしみじみ水のうまさかな 
 17 種田山頭火  うどん供へて、母よ、わたくしもいただきまする 
 18 種田山頭火  その桃が実となり、君すでに亡し 
 19 種田山頭火  しぐるるやあるだけの御飯をふいてゐる 
 20 種田山頭火  さすらひの果てはいづくぞ衣がへ 
 21 種田山頭火  ことしも暮れる火吹竹ふく 
 22 種田山頭火  春風の扉ひらけば南無阿弥陀仏 
 23 種田山頭火  けふの日までは生きて来た寒い風が吹く 
 24 種田山頭火  あれはふるさとの山なみか雪ひかる 
 25 種田山頭火  明日は死屍となる爪を切る 
 26 種田山頭火  お父さんお母さん秋が晴れました 
 27 種田山頭火  青葉分け行く良寛さまも行かしたろ 
 28 種田山頭火  生きてしづかな寒鮒もろた 
 29 種田山頭火  鴉啼いたとて誰もきてはくれない 
 30 種田山頭火  浅間は千曲はゆふべはそゞろ寒い風 
 31 種田山頭火  風かをる信濃の国の水のよろしさ 
 32 種田山頭火  若葉に月が、をんなはまことうつくしい 
 33 種田山頭火  死をまえに涼しい風 
 34 種田山頭火  死にたいときに死ぬるがよろしい水仙匂ふ 
 35 種田山頭火  死んでしまへば雑草雨ふる 
 36 種田山頭火  それもよかろう草が咲いてゐる 
 37 種田山頭火  なんぼう考へてもおんなじことの落葉ふみあるく 
 38 種田山頭火  ともかく生かされてはゐる雑草の中 
 39 種田山頭火  風がふきぬけるころりと死んでゐる 
 40 種田山頭火  ともかくもけふまでは生きて夏草のなか 
 41 種田山頭火  彼岸花のさくふるさとは墓のあるばかり 
 42 種田山頭火  お彼岸のお彼岸花をみ仏に 
 43 種田山頭火  草にも風が出てきた豆腐も冷えただろ 
 44 種田山頭火  百合咲けばお地蔵さまにも百合の花 
 45 種田山頭火  この道しかない春の雪ふる 
 46 種田山頭火  さて、どちらへ行かう風がふく 
 47 種田山頭火  誰かきそうな雪がちらほら 
 48 種田山頭火  木の葉ふるふる鉢の子へも 
 49 種田山頭火  どうにかなるだろう雪のふりしきる 
 50 種田山頭火  ひっそりかんとしてぺんぺん草の花ざかり 
 51 種田山頭火  山頭火には其中庵がよい雑草の花 
 52 種田山頭火  遠雷すふるさとのこひしく 
 53 種田山頭火  こほろぎよあすの米だけはある 
 54 種田山頭火  みんなたっしやでかぼちゃの花も 
 55 種田山頭火  日ざかりのお地蔵さまの顔がにこにこ 
 56 種田山頭火  炎天かくすところなく水のながれくる 
 57 種田山頭火  草しげるそこは死人を焼くところ 
 58 種田山頭火  はれたりふったり青田となった 
 59 種田山頭火  死ぬよりほかない山がかすんでゐる 
 60 種田山頭火  いちりんざしの椿いちりん 
 61 種田山頭火  あるけば蕗のとう 
 62 種田山頭火  落葉ふる奥ふかく御仏をみる 
 63 種田山頭火  さみしさがけふも墓場をあるかせる 
 64 種田山頭火  貧乏のどんぞこで百舌鳥がなく 
 65 種田山頭火  なんでこんなにさみしい風ふく 
 66 種田山頭火  どかりと山の月おちた 
 67 種田山頭火  うつってきてお彼岸の花ざかり 
 68 種田山頭火  花いばら、こゝの土とならうよ 
 69 種田山頭火  ほうたるこいこいふるさとにきた 
 70 種田山頭火  ふるさとはみかんのはなのにほふとき 
 71 種田山頭火  松風すずしく人も食べ馬も食べ 
 72 種田山頭火  さみしい風が歩かせる 
 73 種田山頭火  ここにおちつき草萌ゆる 
 74 種田山頭火  逢ひたい、捨炭山が見えだした 捨炭山:ぼたやま
 75 種田山頭火  墓がならんでそこまで波がおしよせて 
 76 種田山頭火  山頭火これからまたひとり 
 77 種田山頭火  法衣こんなにやぶれて草の実 
 78 種田山頭火  しぐるるや石をきざんで仏となす 
 79 種田山頭火  雪がふるふる雪見てをれば 
 80 種田山頭火  木の葉散る歩きつめる 
 81 種田山頭火  松はみな枝垂れて南無観世音 
 82 種田山頭火  さびしさまぎらす碁石の音もさびしくて 
 83 種田山頭火  重きものどさと投げたり大地燃ゆ 
 84 種田山頭火  桐はま青な葉と葉を鳴らす人恋し 
 85 種田山頭火  若葉若葉かゞやけば物みなよろし 
 86 種田山頭火  ふりかへるふるさとの山は野は暮るゝ 
 87 種田山頭火  読経流れて木立いっせいにそよぎけり 
 88 種田山頭火  鮭さびしみわが行く道のはてもなし 
 89 種田山頭火  木漏れ日のつめたきにたまる落花あり 
 90 種田山頭火  雪かぎりなしぬかづけば雪ふりしきる 
 91 種田山頭火  浪の音聞きつゝ遠く別れ来し 
 92 種田山頭火  独り飲みれをれば夜風騒がしう家をめぐれり 
 93 種田山頭火  思ひ果てなし日ねもす障子鳴る悲し 
 94 種田山頭火  松裂かれしまゝにして炎天浮く蜻蛉 
 95 種田山頭火  嬉しいことも悲しいことも草茂る 
 96 種田山頭火  春風のどこでも死ねるからだで歩く 
 97 種田山頭火  身のまはり草だらけみんな咲いてゐる 
 98 種田山頭火  いつでも死ねる草が咲いたり実ったり 
 99 種田山頭火  月、雲が逃げてゆく雲が追うてゆく 
 100 種田山頭火  山の月を右にして左にして帰る 
 101 種田山頭火  酔ひざめの風のかなしく吹きぬける 
 102 種田山頭火  しぐれへ三日月へ酒買ひに行く 
 103 種田山頭火  酔うほどは買へない酒をすするのか 
 104 種田山頭火  星があって男と女 
 105 種田山頭火  別れてきてさみしい濁酒があった 濁酒:どぶろく
 106 種田山頭火  労れて足を雨にうたせる 労れて:つかれて
 107 種田山頭火  これが河豚かと食べてゐる 
 108 種田山頭火  物思う膝の上で寝る猫 
 109 種田山頭火  ヘラヘラとして水を味ふ 
 110 種田山頭火  たまさかに飲む酒の音さびしかり 
 111 種田山頭火  子とふたり摘みては流す草の葉の 
 112 種田山頭火  越えてゆく山また山は冬の山 
 113 種田山頭火  たまたまたづね来てその泰山木が咲いている 
 114 種田山頭火  ほろにがさもふるさとにしてふきのとう 
 115 種田山頭火  住みなれて茶の花のひらいては散る 
 116 種田山頭火  日向草の赤いの白いのたづねあてた 
 117 種田山頭火  ふるさとの空の旗がほたはた 
 118 種田山頭火  ふるさとの水だ腹すいっぱい 
 119 種田山頭火  ふるさとの河原月見草咲きみだれ 
 120 種田山頭火  ふるさとの蟹の鋏の赤いこと 
 121 種田山頭火  車窓から、妹の家は若葉してゐる 
 122 種田山頭火  育ててくれた野は山は若葉 
 123 種田山頭火  晴れて鋭い故郷の山を見直す 
 124 種田山頭火  ふるさとの夢から覚めてふるさとの雨 
 125 種田山頭火  ぬかるみをふんできてふるさとのうた 
 126 種田山頭火  あの汽車もふる郷の方へ音たかく 
 127 種田山頭火  冬空のふる郷へちかづいてひきかへす 
 128 種田山頭火  ふる郷の言葉となった街にきた 
 129 種田山頭火  ふる郷の言葉なつかしう話しつゞける 
 130 種田山頭火  いちにち雨ふり故郷のこと考へてゐた 
 131 種田山頭火  故郷の人と話したのも夢か 
 132 種田山頭火  ふる郷忘れがたい夕風がでた 
 133 種田山頭火  波の音たえずしてふる郷遠し 
 134 種田山頭火  夜もすがら水音が聞こえる 
 135 種田山頭火  ことしもをはりの虫がまっくろ 
 136 種田山頭火  一つ家に一人寝て観る草に月 
 137 尾崎放哉   すばらしい乳房だ蚊が居る 
 138 尾崎放哉   小さい家で母と子とゐる 
 139 種田山頭火  ここに落ちつき草萌ゆる 
 140 種田山頭火  酒やめておだやかな雨 
 141 種田山頭火  枯枝ほきほき折るによし 
 142 種田山頭火  ふるさとの水をあび水をのみ 
 143 種田山頭火  ふと思ひ出の水音かげり 
 144 種田山頭火  ふとおもひでの水音ばかり 
 145 種田山頭火  まいにち水を飲み水ばかりの身ぬち澄みわたる 
 146 種田山頭火  くらがりさがして水をからだいっぱい 
 147 種田山頭火  春の水ゆたかに流るるるものを拾う 
 148 種田山頭火  なんときびしい寒の水涸れた 
 149 種田山頭火  父によう似た声が出てくる旅はかなしい 
 150 種田山頭火  枯枝ぼきぼきおもふところなく 
 151 種田山頭火  おちついて死ねそうな草萌ゆる 
 152 種田山頭火  おちついて死ねそうな草枯るる 
 153 種田山頭火  死ねない手がふる鈴をふる 
 154 種田山頭火  やっぱり一人はさみしい枯草 
 155 種田山頭火  こころさびしくひとりまた火を焚く 
 156 種田山頭火  生きの身のいのちかなしく月澄みわたる 
 157 種田山頭火  酒をたべてゐる山は枯れてゐる 
 158 種田山頭火  ほろほろ酔うて木の葉散る 
 159 種田山頭火  あるひは乞ふことをやめ、山を観てゐる 
 160 種田山頭火  乞ひあるく水音のどこまでも 
 161 種田山頭火  物乞ふ家もなくなり山には雲 
 162 種田山頭火  百舌鳥鳴いて身の捨てどころなし 
 163 種田山頭火  ふるさとの山なみ見える雪ふる 
 164 種田山頭火  ふる郷ちかく酔うてゐる 
 165 種田山頭火  ふる郷ちかい空からけ煤ふる 
 166 種田山頭火  彼岸花さくふるさとは墓のあるばかり 
 167 種田山頭火  ふときてあるくふるさとは草の花さかり 
 168 種田山頭火  ふるさとはすっかり葉桜のまぶしさ 
 169 種田山頭火  山あれば山を観る 雨の日は雨を聴く 春夏秋冬 あしたもよろし ゆうべもよろし 
 170 種田山頭火  朝は涼しい茗荷の子 
 171 種田山頭火  しづかな道となりどくだみの芽 
 172 種田山頭火  秋となった雑草にすわる 
 173 種田山頭火  ふとめざめたらなみだがこぼれてゐた 
 174 種田山頭火  ゆふべひそけくラヂオが物を思はせる 
 175 種田山頭火  山家明けてくる大粒の雨 
 176 種田山頭火  蓑蟲も涼しい風に吹かれをり 
 177 種田山頭火  雲かげふかい水底の顔をのぞく 
 178 種田山頭火  寝ころべば露草だった 
 179 種田山頭火  大地したしう投げだして手を足を 
 180 種田山頭火  こゝらで泊らうつくがぼうし 
 181 種田山頭火  さゝげまつる鐵鉢の日ざかり 
 182 種田山頭火  岩かげまさしく水が湧いてゐる 
 183 種田山頭火  そうらうとして水をさがすや蜩 
 184 種田山頭火  朝は涼しい草履踏みしめて 
 185 種田山頭火  焼かれ死ぬ虫のにほひのかんばしく 
 186 種田山頭火  打つより終る虫の命のもろい風 
 187 種田山頭火  ぷすりと音をたてて虫は焼け死んだ 
 188 種田山頭火  れいろうとして水鳥はつるむ 
 189 種田山頭火  芙蓉咲かせて泥捏ねてゐる 捏ねる:こねる
 190 種田山頭火  月のさやけさも旅から旅で 
 191 種田山頭火  旅ごろも吹きまくる風にまかす 
 192 種田山頭火  踏み入れば人の声ある冬の山 
 193 種田山頭火  木の葉散り来る歩きつめる 
 194 種田山頭火  日ざかり水鳥は流れる 
 195 種田山頭火  さみだるる大きな仏さま 
 196 種田山頭火  菊投げ入れて部屋を明るうする 
 197 種田山頭火  寥平さびし煙草のけむり 
 198 種田山頭火  此秋も青桐三本 
 199 種田山頭火  けふも托鉢ここもかしこも花ざかり 
 200 種田山頭火  雀一羽二羽三羽地上安らけく 
 201 尾崎放哉  傘にばりばり雨音さして逢ひに来た 
 202 尾崎放哉  白雲ゆたかに行く朝の楠の木 
 203 尾崎放哉  冬空もいで来た一輪の花 
 204 尾崎放哉  寺の屋根しんかん夏日すべらす 
 205 尾崎放哉  おそくまで話し山の星空傾き尽す 
 206 尾崎放哉  あついお茶をのんで梅をほめて出る 
 207 種田山頭火  今日も事なし凩に酒量るのみ 
 208 種田山頭火  新居広やかに垣もせぬ蛍淋しうす 
 209 種田山頭火  子と遊ぶうらゝ木蓮数へては 
 210 種田山頭火  海よ海よふるさとの海の青さよ 
 211 種田山頭火  真夏真晝の空の下にて赤児泣く 
 212 種田山頭火  石工一日石切る音の雨となりけり 
 213 種田山頭火  草に投げ出す足をつたうて蟻一つ 
 214 種田山頭火  重荷おもければ足許の草の美くしき 
 215 種田山頭火  みんな安らかに暮しをり花桐こぼる 
 216 種田山頭火  ふく水に影うつすカンナの赤さ 
 217 種田山頭火  力いっぱい子が抱きあぐる水瓜かな 水瓜:すいか
 218 種田山頭火  ガラス戸かたく鎖されし窓々の入日 
 219 種田山頭火  馬子は西瓜をかじりつつ馬はおとなしく 水瓜:すいか
 220 種田山頭火  蝉ねらふ児の顔に日影ひとすぢ 
 221 種田山頭火  街あかりほのかに水は流れけり 
 222 種田山頭火  茂り下ろすやその匂ひなつかしみつゝ 
 223 種田山頭火  砂利の明るさ泌み入る雨の明るさ踏まん 
 224 種田山頭火  親子顔をならべたりいまし月昇る 
 225 種田山頭火  一人となれば仰がるゝ空の青さかな 
 226 種田山頭火  うらゝかに日が照りて人の影遠し 
 227 種田山頭火  けさも雨なりモナリザのつめたき瞳 
 228 種田山頭火  つかれし手足投げ出せば日影しみ入る 
 229 種田山頭火  入日まともに人の家焼けてくづれぬ 
 230 種田山頭火  積荷おろす草青々とそよぎをり 
 231 種田山頭火  桐並木その果てのポスト赤し 
 232 種田山頭火  汽車が吐き出す人むきむきに暮れてゆく 
 233 種田山頭火  海鳴り聞ゆ朝がほの咲けるよ 
 234 種田山頭火  朝顔けふも大きくて咲いて風なかり 
 235 種田山頭火  緑の奥家ありて朝顔ありし 
 236 種田山頭火  朝顔のゆらぎかすかにも人の足音す 
 237 種田山頭火  ぬかるみを踏みをれば日照雨かな 
 238 種田山頭火  雲のかげ水渉る人にあつまりぬ 
 239 種田山頭火  あたり暗うなりあふるゝ水かな 
 240 種田山頭火  水音の真晝わかれおしみけり 
 241 種田山頭火  扉うごけり合歓の花垂れたり 
 242 種田山頭火  蛙蛙独りぼっちの子とわれと 
 243 種田山頭火  蛙さびしみわがゆく路のはてもなし 
 244 種田山頭火  炎天の街のまんなか鉛煮ゆ 
 245 種田山頭火  晝ふかし虞美人草のほろろ散らんとす 
 246 種田山頭火  何おちしその音のゆくへ白き窓 
 247 種田山頭火  県庁の石垣のすみれ咲きいでけり 
 248 種田山頭火  鳥しきりに啼き炭火きえけり 
 249 種田山頭火  兵列おごそかに過ぎゆきて若葉影あり 
 250 種田山頭火  ささやかな店をひらきぬ桐青し 
 251 種田山頭火  蒲団短かく夜気長し 
 252 種田山頭火  腹いっぱい水飲んで寝る! 
 253 種田山頭火  だまって今日の草履はく 
 254 種田山頭火  死をまへに、やぶれたる足袋をぬぐ 
 255 久保白船  けさは骨となって戻り、庵のわけぎのうね 山頭火を葬る
 256 久保白船  灰となって灰の中いっぽんはある歯があったと 山頭火を葬る
 257 久保白船  水は枯れてしづかな、朝の骨拾ひにゆく 山頭火を葬る
 258 久保白船  火屋も月夜の雑草あすのこと言ふてわかれる 山頭火を葬る
 259 久保白船  その山羊髭のままの仏となって吹く風が秋 山頭火を葬る
 260 久保白船  もうさかづきもいらぬ仏となって月のあをい葉 山頭火を葬る
 261 久保白船  おそくついて月のくもり棺と向合ってゐる 山頭火を葬る
 262 種田山頭火  水がとんぼがわたしも流れゆく 
 263 種田山頭火  今日も郵便が来ないとんぼとぶ 
 264 種田山頭火  とんぼとまったふたりのあいだに 
 265 種田山頭火  どこからとなく涼しい風がおはぐろとんぼ 
 266 種田山頭火  生える草の枯れゆく草のとき移る 
 267 種田山頭火  いつ死ねる木の実は播いておく 
 268 種田山頭火  三日月おちかかる城山の城 
 269 種田山頭火  蛙になりきって跳ぶ 
 270 種田山頭火  をりをり顔みせる月のまんまる 
 271 種田山頭火  うらうらほろほろ花がちる 
 272 種田山頭火  だんだん似てくる癖の、父はもうゐない 
 273 種田山頭火  暑い日をまことにいそぐ旅人なり 
 274 種田山頭火  しばらく歩かない脚の爪伸びてゐるかな 
 275 種田山頭火  蠅が歩いてゐる蠅紙のふちを 
 276 種田山頭火  ひょいととまれば蠅捕紙の蠅で 
 277 種田山頭火  降ったり霽れたりおのれにかへる 霽:はれ
 278 種田山頭火  あるけば涼しい風がある草を踏み 
 279 種田山頭火  へそが汗ためてゐる 
 280 種田山頭火  秋風の石を拾ふ 
 281 種田山頭火  遠く来てひでり雲ちぎれちぎれ 
 282 種田山頭火  晴れるほどに曇るほどに波のたはむれ 
 283 種田山頭火  砂にあしあとのどこまでつづく 
 284 種田山頭火  何の草ともなく咲いてゐてふるさと 
 285 種田山頭火  朝まゐりはわたくし一人の銀杏ちりしく 
 286 種田山頭火  寝ても覚めても夜が長い瀬の音 
 287 種田山頭火  わが手わが足われにあたたかく寝る 
 288 種田山頭火  お手手こぼれるその一粒一粒をいただく 
 289 種田山頭火  一握の米をいただきいただいてまいにちの旅 一握:ひとにぎり
 290 種田山頭火  ぼうぼううちよせてわれをうつ 
 291 種田山頭火  いちにち物いはず波音 
 292 種田山頭火  おほらかにおしよせて白波 
 293 種田山頭火  月夜あかるい舟がありその中で寝る 
 294 種田山頭火  暮れても宿がない百舌鳥が啼く 
 295 種田山頭火  泊めてくれない折からの月が行手に 
 296 種田山頭火  墓に護摩水を、わたしもすすり 放哉墓前
 297 種田山頭火  ふたたびここに、雑草添へて 放哉墓前
 298 種田山頭火  上へ下へ別れ去る坂のけはしい紅葉 
 299 種田山頭火  秋晴れの島をばらまいておだやかな 
 300 種田山頭火  秋あらき波音の日ねもすあるく 
 301 種田山頭火  誰やら休んだらしい秋草をしいて私も 
 302 種田山頭火  石に松が昔ながらの散松葉 
 303 種田山頭火  柳ちるもとの乞食になって歩く 
 304 種田山頭火  鉦たたきよ鉦をたたいてどこにゐる 
 305 種田山頭火  鳥とほくとほく雲に入るゆくへ見おくる 
 306 種田山頭火  炎天のレールまっすぐ 
 307 種田山頭火  まいにちはだかでてふちょやとんぼや 
 308 種田山頭火  どこにも水がない枯田汗してはたらく 
 309 種田山頭火  燃ゆる火の、雨ふらしめと燃えさかる 
 310 種田山頭火  涸れて涸れきって石ころごろごろ 
 311 種田山頭火  供へるものとては、野の木瓜の二枝三枝 木瓜:もっこう ぼけ
 312 種田山頭火  駒ヶ根をまへにいつもひとりでしたね 
 313 種田山頭火  お山しんしんしづくする真実不虚 
 314 種田山頭火  はるばるたづねきて岩鼻一人 
 315 種田山頭火  啼いて鴉の、飛んで鴉の、かへるところがない 
 316 種田山頭火  吹きつめて行きどころがない風 
 317 種田山頭火  この旅死の旅であらうほほけたんぽぽ 
 318 種田山頭火  旅もいつしかおたまじゃくしが泳いでゐる 
 319 種田山頭火  一羽来て啼かない鳥である 
 320 種田山頭火  棕梠の夜風のおとなりはお寺 棕梠:しゅろ
 321 種田山頭火  壁がくづれてそこから蔓草 
 322 種田山頭火  われ生きて詩を作らむ 
 323 種田山頭火  天われを殺さずして詩を作らしむ 
 324 種田山頭火  その一片はふるさとの土となる秋 
 325 種田山頭火  お骨声なく水のうへをゆく 
 326 種田山頭火  街はおまつりのお骨となって帰られたか 
 327 種田山頭火  雪へ雪ふる戦ひはこれからだといふ 
 328 種田山頭火  しぐれて雪のちぎれゆくし支那をおもふ 
 329 種田山頭火  ふたたびは踏むまい土を踏みしめて征く 
 330 種田山頭火  日ざかりの千人針の一針づつ 
 331 種田山頭火  風の明暗をたどる 
 332 種田山頭火  いつまでも生きる曼珠沙華咲きだした 
 333 種田山頭火  わたしひとりの音させてゐる 
 334 種田山頭火  ふたたびここに草もしげるまま 
 335 種田山頭火  おもひはてなく朝月のある展望 
 336 種田山頭火  今日の足音のいちはやく橋をわたりくる 
 337 種田山頭火  みんなかへる家はあるゆふへのゆきき 
 338 種田山頭火  法堂あけはなつ明けはなれてゐる 法堂:はっとう
 339 種田山頭火  草のしげるや礎石ところどころのたまり水 
 340 種田山頭火  いつまで死ねないからだの爪をきる 
 341 種田山頭火  荒海へ脚投げだして旅のあとさき 
 342 種田山頭火  砂丘にうづくまりけふも佐渡は見えない 
 343 種田山頭火  こころむなしくあらなみのよせてはかへし 
 344 種田山頭火  青葉わけゆく良寛さまも行かしたろ 
 345 種田山頭火  浅間をまともにおべんたうは草の上にて 
 346 種田山頭火  行き暮れてなんとここらの水のうまさは 
 347 種田山頭火  花が葉になる東京よさようなら 
 348 種田山頭火  ほっと月がある東京に来てゐる 
 349 種田山頭火  また一枚ぬぎすてる旅から旅 
 350 種田山頭火  伊豆はあたたかく野宿によろしい波音も 
 351 種田山頭火  うららかな鐘を撞かうよ 
 352 種田山頭火  風の扉ひらけば南無阿弥陀仏 
 353 種田山頭火  雲のゆききも栄華のあとの水ひかる 
 354 種田山頭火  たたずめば風わたる空のとほくとほく 
 355 種田山頭火  あてもない旅の袂草はこんなにたまり 
 356 種田山頭火  ふるさとはあの山なみの雪のかがやく 
 357 種田山頭火  春潮のテープちぎれてなほも手をふり 
 358 種田山頭火  岩のよろしさも良寛さまのおもひで 
 359 種田山頭火  旅は笹山の笹のそよぐのも 
 360 種田山頭火  傷が癒えゆく秋めいた風となって吹く 
 361 種田山頭火  おもひおくことはないゆふべの芋の葉のひらひら 
 362 種田山頭火  風鈴の鳴るさへ死のしのびよる 
 363 種田山頭火  死をまへに涼しい風 
 364 種田山頭火  つくつくぼうしあまりにちかくつくつくぼうし 
 365 種田山頭火  遠山の雪も別れてしまった人も 
 366 種田山頭火  よびかけられてふりかへったが落葉林 
 367 種田山頭火  ふと子のことを百舌鳥が啼く 
 368 種田山頭火  あすはかへろうさくらちるちってくる  
 369 種田山頭火  ここを死に場所とし草のしげりにしげり 
 370 種田山頭火  もう死んでもよい草のそよぐや 
 371 種田山頭火  草や木や生きて戻って茂ってゐる 
 372 種田山頭火  岩があれば水の触れゆく 
 373 種田山頭火  水音の一人となり捨てるものがなんぼでも 
 374 種田山頭火  山ふかく蕗のとうなら咲いてゐる 
 375 種田山頭火  もう逢へますまい木の芽のくもり 
 376 種田山頭火  おわかれの水鳥がういたりしづんだり 
 377 種田山頭火  吹いては売る笛はほうほけきょ 
 378 種田山頭火  春寒い竹の葉のそよぐ三本 
 379 種田山頭火  これがことしのをはりの一枚を剥ぐ 
 380 種田山頭火  春風の鉢の子一つ 
 381 種田山頭火  うつむいて石ころばかり 
 382 種田山頭火  やっぱり一人がよろしい雑草 
 383 種田山頭火  月が昇って何を待つでもなく 
 384 種田山頭火  草の実の露のおちつかうとする 
 385 種田山頭火  移ってきてお彼岸花の花ざかり 
 386 種田山頭火  いつも一人で赤とんぼ 
 387 種田山頭火  あてもない空からころげてきた木の実 
 388 種田山頭火  みんなに話しかける青葉若葉のひかり 
 389 種田山頭火  お墓の、いくとせぶりの夏草をぬく 
 390 種田山頭火  すゞしくお墓の草をとる 
 391 種田山頭火  夏草、お墓をさがす 
 392 種田山頭火  おもひ出の草のこみちをお墓まで 
 393 種田山頭火  事がまとまらない夕蝉になかれ 
 394 種田山頭火  あすはよいたよりがあらう夕焼ける 
 395 種田山頭火  家をさがすや山ほとゝぎす 
 396 種田山頭火  ほっかり眼ざめて山ほとゝぎす 
 397 種田山頭火  年とれば故郷こひしいつくつくぼうし 
 398 種田山頭火  たゞ食べてゐる親豚子豚 
 399 種田山頭火  海のあなたはふるさとの山 海のあなたはふるさとの山に雪
 400 種田山頭火  寒い雲がいそぐ 
 401 種田山頭火  冬雨の石階をのぼるサンタマリア 
 402 種田山頭火  いつまで旅することの爪をきる 
 403 種田山頭火  枯草に寝ころぶやからだ一つ 
 404 種田山頭火  越えていく山また山は冬の山 
 405 種田山頭火  どこやらで鴉なく道は遠い 
 406 種田山頭火  暗い窓から太陽をさがす 
 407 種田山頭火  裁かれる日の椎の花ふる 
 408 種田山頭火  枝をさしのべてゐる冬木 
 409 種田山頭火  捨てきれない荷物のおもさまへうしろ 
 410 種田山頭火  また逢へた山茶花も咲いてゐる 
 411 種田山頭火  病んで寝て蠅が一匹きたゞけ 
 412 種田山頭火  山の中鉄鉢たゝいて見たりして 
 413 種田山頭火  霧島は霧にかくれて赤とんぼ 
 414 種田山頭火  こころしづ山のおきふし 
 415 種田山頭火  ゆっくり歩こう萩がこぼれる 
 416 種田山頭火  波音遠くなり近くなり余命いくばくぞ 
 417 種田山頭火  波音のたえずしてふる郷遠し 
 418 種田山頭火  鉄鉢ささげて今日も暮れた 
 419 種田山頭火  迷うた道でそのまま泊る 
 420 久保白船  友のうしろ姿の風を見送る 
 421 久保白船  法衣かるがると来てふかれて去るか 
 422 種田山頭火  鴉啼いてわたしも一人 
 423 種田山頭火  山の青さをまともにみんな黙りたり 
 424 種田山頭火  暑さきはまる土に喰ひいるわが影ぞ 
 425 種田山頭火  燕とびかふ空しみじみと家出かな 
 426 種田山頭火  ものゝこゑほのぼのと海はたゝへけり 
 427 種田山頭火  家を出ずれば冬木しんしんとならびたり 
 428 種田山頭火  あてもなく踏み歩く草はみな枯れたり 
 429 種田山頭火  気まぐれをうかと来ぬげんげ濃き雨に 
 430 芝富貴男  町空のくらき氷雨や白魚売 
 431 芝富貴男  川蟹のしろきむくろや秋磧 磧:かわら
 432 芝富貴男  向ふ家にかゞやき入りぬ石鹸玉 
 433 芝富貴男  ふるさとや石垣歯朶に春の月 
 434 芝富貴男  泳ぎ女の葛隠るまで羞ぢらひぬ 
 435 芝富貴男  澤の邊に童と居りて蜘蛛合 
 436 芝富貴男  筆始歌仙ひそめくけしきかな 
 437 芝富貴男  そのかみの貝掘りあてつ鍬始 
 438 芝富貴男  雪融くる苔ぞ?ぞ山始 
 439 芝富貴男  松過や織りかけ機の左右に風 
 440 芝富貴男  山川の砂焦がしたるどんどかな 
 441 芝富貴男  谷水を撒きてしづむるとんどかな 
 442 芝富貴男  ぬばたまの寝屋かいまみぬ嫁が君 
 443 芝富貴男  繭玉に寝がての腕あげにけり 
 444 芝富貴男  落ちてゐるのは帰省子の財布なり 
 445 芝富貴男  にごり江を鎖す水泡や雲の峰 
 446 芝富貴男  鞦韆の月に散じぬ同窓会 
 447 芝富貴男  夕釣や蛇のひきゆく水脈あかり 
 448 芝不器男  北風やあをぞらながら暮れはてゝ 
 449 種田山頭火  これだけ残ってゐるお位牌ををがむ 
 450 種田山頭火  旅の法衣は吹きまくる風にまかす 
 451 種田山頭火  ぼろ売って酒買うてさみしくもあるか 
 452 種田山頭火  初孫がうまれたさうな風鈴の鳴る 
 453 種田山頭火  杉菜そよぐのも春はまだ寒い風 
 454 種田山頭火  水音の若竹のそよがず 
 455 種田山頭火  あけはなつや満山のみどり 
 456 種田山頭火  雪ふる中をかへりきて妻へ手紙かく 
 457 種田山頭火  赤きポストに都会の埃風ふけり 
 458 種田山頭火  霧ぼうぼうとうごめくは皆人なりし 
 459 種田山頭火  労れて戻る夜の角のいつものポストよ 労れて:つかれて
 460 種田山頭火  ついてくる犬よおまへも宿なしか 
 461 種田山頭火  落葉しいて寝るよりほかない山のうつくしさ 
 462 種田山頭火  まどろめばふるさとの夢の草の葉ずれ 
 463 種田山頭火  雑草にうづもれてひとつやのひとり 
 464 種田山頭火  腹がいたいみんみん蝉 
 465 種田山頭火  このまゝ死んでしまふかも知れない土に寝る 
 466 種田山頭火  大地ひえびえととして熱のあるからだをまかす 
 467 種田山頭火  蕗の皮がようむける少年の夢 
 468 種田山頭火  煮る蕗のほろにがさにもおばあさんのおもかげ 
 469 種田山頭火  あるがまま雑草として芽をふく 
 470 種田山頭火  病む児の寝顔白う浮く火燵守り暮れぬ 
 471 種田山頭火  我とわが子と二人のみ干潟鳶舞ふ日 
 472 種田山頭火  せんだんもこんなにふとったかげで汗ふく 
 473 種田山頭火  送ってくれたあたゝかさを着て出る 
 474 種田山頭火  雨のおみくじも凶か 
 475 種田山頭火  あの水この水の天竜となる水音 
 476 種田山頭火  お墓したしくお酒をそゝぐ 
 477 種田山頭火  水音のたえずして御仏とあり 
 478 種田山頭火  水に雲かげもおちつかせないものがある 
 479 種田山頭火  あすはかへらうさくらちるちってくる 
 480 種田山頭火  ほととぎすあすはあの山こえて行かう 
 481 種田山頭火  葉桜となってまた逢った 
 482 種田山頭火  晴れるより雲雀はうたふ道のなつかしや 
 483 種田山頭火  ふったりやんだりあざみのはなだらけ 
 484 種田山頭火  播きをへるとよい雨になる山の色 
 485 種田山頭火  こやしあたへてしみじみながめるほうれんさうで 
 486 種田山頭火  朝風のトマト畑でトマトを食べる 
 487 種田山頭火  花菜活けてあんたを待つなんとうららかな 
 488 種田山頭火  にょきにょき土筆がなんぼうでもある 
 489 種田山頭火  水底の月のたたへてゐる 
 490 種田山頭火  この土のすゞしい風にうつりきて 
 491 種田山頭火  梨もいづ卓布に瓦斯の青映えて 
 492 種田山頭火  こころおちつかず塩昆布を煮る 
 493 種田山頭火  けふはおわかれの糸瓜がぶらり 
 494 種田山頭火  穴にかくれる蟹のうつくしさよ 
 495 種田山頭火  百舌啼いて身の捨てどころなし 
 496 種田山頭火  ふるさとの学校のからたちの花 
 497 種田山頭火  ふるさとの水をのみ水をあび 
 498 種田山頭火  蕎麦の花にも少年の日がなつかしい 
 499 種田山頭火  けさもよい日の星一つ 
 500 種田山頭火  木の芽草の芽あるきつづける 
 501 種田山頭火  この旅、果てもない旅のつくつくぼうし 
 502 種田山頭火  笠にとんぼをとまらせてあるく 
 503 種田山頭火  青い灯赤い灯人のゆく方へついてゆく 
 504 種田山頭火  さゝやかな店をひらきぬ桐青し 
 505 種田山頭火  泣寝入る児が淋しひとり炭つぎぬ 
 506 種田山頭火  風にめさめて水をさがす 
 507 種田山頭火  熟柿のあまさもおばあさんのおもかげ 
 508 種田山頭火  春の山からころころ石ころ 
 509 種田山頭火  窓あけて窓いっぱいの春 
 510 種田山頭火  けふのみちのたんぽゝ咲いた 
 511 種田山頭火  さんざしぐれの山越えてまた山 
 512 種田山頭火  どこで倒れてもよい山うぐひす 
 513 種田山頭火  ひっそり生きてなるやうになる草の穂 
 514 種田山頭火  風の中のおのれを責めつつ歩く 
 515 種田山頭火  足は手は支那に残してふたたび日本に 
 516 種田山頭火  母一人子一人の召されていった 
 517 種田山頭火  馬も召されておぢいさんおばあさん 
 518 種田山頭火  ほんに生まれて来たばかりの眼をあけて 
 519 種田山頭火  いっしょにびっしょり汗かいて牛が人が 
 520 種田山頭火  生きたくてドッコイショ唄うて歩く 
 521 種田山頭火  みんな生きている音たてている 
 522 種田山頭火  安か安か寒か寒か雪雪 
 523 種田山頭火  蕗の薹のみどりもそへて小鳥の食卓 
 524 種田山頭火  煮える音のよい日であったお粥 
 525 種田山頭火  かうして生きてゐる湯豆腐ふいた 
 526 種田山頭火  飯の白さの梅干の赤さたふとけれ 
 527 種田山頭火  雪のしたたる水くんできてけふのお粥 
 528 種田山頭火  あたしひとりの音させている 
 529 種田山頭火  食べるだけはいただいた雨となり 
 530 種田山頭火  いただいて足りて一人の箸をおく 
 531 種田山頭火  ひとりにはなりきれない空をみあげる 
 532 種田山頭火  心おさへて爪をきる 
 533 種田山頭火  けふいちにちものいうこともなかったみぞれ 
 534 種田山頭火  ふくろふはふくろふでわたしはわたしでねむれない 
 535 種田山頭火  みんな去んでしまえば水音 
 536 種田山頭火  ひとりごといふ声のつぶれた 
 537 種田山頭火  人が来たよな枇杷の葉のおちるだけ 
 538 種田山頭火  張りかへた障子のなかの一人 
 539 種田山頭火  あけはなち月をながめつつ寝る 
 540 種田山頭火  うしろから月のかげする水をわたる 
 541 種田山頭火  寝るよりほかない月を見てゐる 
 542 種田山頭火  寝床まで月を入れ寝るとする 
 543 種田山頭火  石へ月かげの落ちてきた 
 544 種田山頭火  月へひとりの戸はあけとく 
 545 種田山頭火  雪ふる火を焚いてひとり 
 546 種田山頭火  誰も来ない木から木へすべる雪 
 547 種田山頭火  雪がふるしみじみ顔を洗う 
 548 種田山頭火  雪のあかるさが家いっぱいのしずけさ 
 549 種田山頭火  わが庵は雪のあしあとひとすじ 
 550 種田山頭火  わらや雪とくる音のいちにち 
 551 種田山頭火  こちらむいて椿いちりんしずかな机 
 552 種田山頭火  夜はしぼむ花いけてひとりぐらし 
 553 種田山頭火  寝てをれば花瓶の花ひらき 
 554 種田山頭火  竹の子竹となる明るい雨ふる 
 555 種田山頭火  ぽっきり折れてそよいでゐる竹で 
 556 種田山頭火  たべきれないちしゃの葉が雨をためている 
 557 種田山頭火  晴れきって大根二葉のよろこび 
 558 種田山頭火  ゆふ空から柚子の一つをもらふ 
 559 種田山頭火  とんできたかよ蛍いっぴき 
 560 種田山頭火  暗さ匂へばほたる 
 561 種田山頭火  水に放つや寒鮒みんな泳いでゐる 
 562 種田山頭火  ずんぶり温泉のなかの顔笑う 
 563 種田山頭火  ずんぶりと湯のあつくてあふれる 
 564 種田山頭火  どうにもならない人間があつい湯の中 
 565 種田山頭火  憂鬱を湯にとかさう 
 566 種田山頭火  ひとりきりの湯で思ふこともない 
 567 種田山頭火  さびしうなりあつい湯にはいる 
 568 種田山頭火  まツぱだかを太陽にのぞかれる 
 569 種田山頭火  よい湯からよい月へ出た 
 570 種田山頭火  湯壺から桜ふくらんだ 
 571 種田山頭火  あかつきの湯がわたしひとりをあたゝめてくれる 
 572 種田山頭火  あふるる朝湯のしずけさにひたる 
 573 種田山頭火  ひとりの湯がこぼれる 
 574 種田山頭火  どうでもこゝにおちつきたい夕月 
 575 種田山頭火  涌いてあふれる中にねてゐる 
 576 種田山頭火  投げて下さった一銭銅貨の寒い音だった 
 577 種田山頭火  なかなか寒い朝から犬にほえられどうし 
 578 種田山頭火  鉄鉢へ音たてて霰 
 579 種田山頭火  鉄鉢の中へも霰 
 580 種田山頭火  木の葉に傘に音たてゝ霰 
 581 種田山頭火  笠も漏りだしたか 
 582 種田山頭火  大樟も私も犬もしぐれつゝ 
 583 種田山頭火  風ごうごうまぎれずもわが尿の音 
 584 種田山頭火  いちにちわれとわが足音を聴きつゝ歩む 
 585 種田山頭火  ぼうぼうとして山霧につつまれる 
 586 種田山頭火  しぐるるや道は一すじ 
 587 種田山頭火  わかれてきた道がまっすぐ 
 588 種田山頭火  ホイトウとよばれる村のしぐれかな 
 589 種田山頭火  いちにちすわって風のながれるを 
 590 種田山頭火  このさびしさは山のどこから枯れた風 
 591 種田山頭火  何でこんなにさみしい風がふく 
 592 種田山頭火  どうすることもできない矛盾を風がふく 
 593 種田山頭火  けふもいちにち風をあるいてきた 
 594 種田山頭火  風の中おのれを責めつつ歩く 
 595 種田山頭火  何を求める風の中ゆく 
 596 種田山頭火  すすきのひかりさえぎるものなし 
 597 種田山頭火  大地にすわるすすきのひかり 
 598 種田山頭火  かるかやへかるかやのゆれてゐる 
 599 種田山頭火  かきつばた咲かしてながれる水のあふれる 
 600 種田山頭火  枯れゆく草のうつくしさにすわる 
 601 種田山頭火  草はうつくしい枯れざま 
 602 種田山頭火  波音のうららかな草がよい寝床 
 603 種田山頭火  ここで寝るとする草の実がこぼれる 
 604 種田山頭火  あるけば草の実すわれば草の実 
 605 種田山頭火  歩くほかない草の実つけてもどるほかない 
 606 種田山頭火  草の青さよはだしでもどる 
 607 種田山頭火  草のうつくしさはしぐれつつしめやか 
 608 種田山頭火  うれしいこともかなしいことも草しげる 
 609 種田山頭火  ふくろうないてこゝが私の生まれたところ 
 610 種田山頭火  ふるさとはからたちの実となってゐる 
 611 種田山頭火  ふるさとはちしゃやもみがうまいふるさとにゐる ちしゃやもみ:ちしゃと焼き鯖をほぐした身をあわせたもの
 612 種田山頭火  旅の人としてふるさとの言葉をきいてゐる 
 613 種田山頭火  ふるさとは遠くして木の芽 
 614 種田山頭火  うまれた家はあとかたもないほうたる 
 615 種田山頭火  ぬれてすずしくはだしであるく 
 616 種田山頭火  曼珠沙華咲いてここがわたしの寝るところ 
 617 種田山頭火  家を持たない秋がふかうなるばかり 
 618 種田山頭火  雨ふるふるさとははだしであるく 
 619 荻原井泉水  みどりゆらゆらゆらめきて動く暁 
 620 荻原井泉水  木の葉木の葉とおちる 
 621 荻原井泉水  すずしくさくらさくらせせらぐ 
 622 種田山頭火  踏みわける萩よすすきよ 
 623 種田山頭火  いそいでもどるかなかなかなかな 
 624 種田山頭火  笠をぬぎしみじみとぬれ 
 625 種田山頭火  降るままぬれるままであるく 
 626 種田山頭火  一きれの雲もない空のさびしさまさる 
 627 種田山頭火  山しづかなれば笠をぬぐ 
 628 種田山頭火  水にそうていちにちだまってゆく 
 629 種田山頭火  水もさみしい顔を洗ふ 
 630 種田山頭火  とっぷり暮れて音たてて水 
 631 種田山頭火  水のんでこの憂鬱のやりどころなし 
 632 種田山頭火  水に影ある旅人である 
 633 種田山頭火  水の色の湧いてくる 
 634 種田山頭火  こころおちつけば水の音 
 635 種田山頭火  分け入れば水音 
 636 種田山頭火  ふるつくふうふう酔ひざめのからだよろめく 
 637 種田山頭火  はればれ酔うて草が青い 
 638 種田山頭火  雨音のしたしさの酔うてくる 
 639 種田山頭火  酒がやめられない木の芽草の芽 
 640 種田山頭火  おもひでがそれからそれへ酒のこぼれて 
 641 種田山頭火  なみのおとのさくらほろほろ 
 642 種田山頭火  てふてふとまる花がある 
 643 種田山頭火  こゝろ澄めば月草のほのかにひらく 
 644 種田山頭火  空へ若竹のなやみなし 
 645 種田山頭火  あてなくあるくてふてふあとになりさきになり 
 646 種田山頭火  かうして旅する日日の木の葉ふるふる 
 647 種田山頭火  おのれにこもる藪椿咲いては落ち 
 648 種田山頭火  下車客五六人に楓めざましく 
 649 種田山頭火  おちてはういてたゞよふ 
 650 種田山頭火  椿の落ちる水の流れる 
 651 種田山頭火  雨の椿の花が花へしづくして 
 652 種田山頭火  道は前にある。
 まっすぐに行こう。
 まっすぐに行こう。
 
 653 種田山頭火  ほろほろほろびゆくわたくしの秋 
 654 種田山頭火  日ざかり泣いても笑ふても一人 
 655 種田山頭火  砂に足あとのどこまでつゞく 
 656 種田山頭火  六十にして落ちつけないこゝろ海をわたる 
 657 種田山頭火  柳ちるいそいであてもない旅へ 
 658 種田山頭火  ひょいと四国へ晴れきってゐる 
 659 種田山頭火  酒飲めば涙ながるるおろかな秋ぞ 
 660 種田山頭火  みんな出て征く山の青さのいよいよ青く 
 661 種田山頭火  警笛鳴りわたる草からてふてふ 
 662 種田山頭火  をべしをみなへしと咲きそろふべし 
 663 種田山頭火  灯に灯が、海峡の月冴えてくる 
 664 種田山頭火  たれもかへる家はあるゆうべのゆきき 
 665 種田山頭火  てふてふひらひらいらかをこえた 
 666 種田山頭火  こゝろむなしくあらうみのよせてはかへす 
 667 種田山頭火  春の雪ふる女はまことにうつくしい 
 668 種田山頭火  はてしなくさみだるる空がみちのく 
 669 種田山頭火  いつもの豆腐でみんなはだかで 
 670 種田山頭火  噛みしめる五十四年の餅である 
 671 種田山頭火  ほっかりとぬけた歯で年とった 
 672 種田山頭火  たった一本の歯がいたみます 
 673 種田山頭火  ぬけさうな歯を持って旅にをる 
 674 種田山頭火  雨だれの音も年とった 
 675 種田山頭火  雪の法衣の重うなる 
 676 種田山頭火  橋を渡ってから乞ひはじめる 
 677 種田山頭火  柳ちるそこから乞ひはじめる 
 678 種田山頭火  吠えつゝ犬が村はずれまで送ってくれた 
 679 種田山頭火  物乞うとシクラメンのうつくしいこと 
 680 種田山頭火  ひょいと穴から、とかげかよ 
 681 種田山頭火  あざみあざやかなあさのあめあがり 
 682 種田山頭火  虱も蚤もいっしょに寝ませう 
 683 種田山頭火  枯草の日向で虱とらう 
 684 種田山頭火  虱がとりつくせない旅から旅 
 685 種田山頭火  濁れる水の流れつつ澄む 
 686 種田山頭火  飲んで食べて寝そべれば蛙の合唱 
 687 尾崎放哉  明日からは禁酒の酒がこぼれる 
 688 種田山頭火  炎天をいただいて乞ひ歩く 
 689 尾崎放哉  やせたからだを窓に置き船の汽笛 
 690 尾崎放哉  一つの湯飲みを置いてむせてゐる 
 691 種田山頭火  鴉鳴いてわたしも一人 
 692 尾崎放哉  板敷に夕餉の両膝をそろえる 
 693 尾崎放哉  こんな良い月を一人で見て寝る 
 694 尾崎放哉  いれ物がない両手で受ける 
 695 尾崎放哉  咳をしても一人 
 696 尾崎放哉  谷底に只白く見ゆる流れかな 
 697 種田山頭火  はるばるときて汲んでくれた水を味ふ 
 698 種田山頭火  雨にうたれてよみがへったか人も草も 
 699 種田山頭火  ずんぶり詩たる一日のをはり 
 700 種田山頭火  しぐるゝや人のなさけに涙ぐむ 
 701 種田山頭火  ホイトウと呼ばれる村のしぐれかな 
 702 種田山頭火  ぞんぶんに湧いてあふれる湯をぞんぶんに 
 703 種田山頭火  ま昼ひろくて私ひとりにあふれる湯 
 704 種田山頭火  さびしうなりあつい湯に入る 
 705 種田山頭火  月が酒がからだいっぱいのよろこび 
 706 種田山頭火  窓に迫る巨船あり河豚鍋の宿 
 707 種田山頭火  吾妹子の肌なまめかしなつの蝶 吾妹子:わぎもこ 男性が妻や恋人を、また一般に、女性を親しみの気持ちを込めて呼ぶ語
 708 種田山頭火  柚子をもぐ朝蜘の晴れてゆく 
 709 種田山頭火  大楠も私も犬もしぐれつゝ 
 710 種田山頭火  右近の橘の実のしぐるゝや 
 711 種田山頭火  しぐれて反橋二つ渡る 
 712 種田山頭火  雲の如く行き
 水の如く歩み
 風の如く去る
     一切空 
 713 種田山頭火  水音の山門をくゞる水音 
 714 種田山頭火  琴がならべてある涼しい風 
 715 種田山頭火  盛り花がおちてゐるコクトオ詩抄 コクトオ:二十歳で才気あふれる詩人として文壇にデビュー
 716 種田山頭火  ほろほろ酔うて木の葉ふる 
 717 種田山頭火  まったく雲がない笠をぬぎ 
 718 種田山頭火  稲妻する過去を清算しやうとする 
 719 種田山頭火  花いばらこゝの土とならうよ 
 720 種田山頭火  焼き捨てゝ日記の灰のこれだけか 
 721 種田山頭火  秋風のふるさと近うなった 
 722 種田山頭火  ひぐるる土をふみしめていく 
 723 種田山頭火  しずけさや死ぬるばかりの水がながれて 
 724 種田山頭火  しとどに濡れてこれは道しるべの石 
 725 種田山頭火  一すじの煙悲しや日輪しずむ 
 726 種田山頭火  しぐるる土を踏みしめてゆく 
 727 種田山頭火  水音のやや寒い朝のながれくる 
 728 石田波郷  ふりそそぐ日の戯れて朱欒もぐ 朱欒:ざぼん
 729 石田波郷  畦木立ち落穂拾ひがひろひ立つ 
 730 石田波郷  一抹の海見ゆ落穂拾ひかな 
 731 石田波郷  鵙ゆきて稲田の幣にとまりけり 幣:ぬさ へい
 732 石田波郷  穂麦の野川ゆき川の水やさし 
 733 渡邊水巴  若竹の高さすぐれたり秋の空 
 734 渡邊水巴  妻も来よ一つ涼みの露の音 
 735 渡邊水巴  茨の芽に日深き山の二月かな 
 736 渡邊水巴  茶を焙る我と夜明けし雛かな 
 737 渡邊水巴  行年の山へ道あり枯茨 
 738 渡邊水巴  夕映に何の水輪や冬紅葉 
 739 渡邊水巴  紫陽花を鳴らす鶲の時雨かな 
 740 渡邊水巴  短夜や引汐早き草の月 
 741 渡邊水巴  大藪の揺るる夜空や花の雨 
 742 渡邊水巴  柴漬を揚ぐる人あり花の雨 
 743 尾崎放哉  寝て聞けば遠き昔を鳴く蚊かな 
 744 尾崎放哉  鶏頭や紺屋の庭に紅久し 
 745 尾崎放哉  枯野原見覚えのある一路哉 
 746 尾崎放哉  別れ来て淋しさに折る野菊かな 
 747 尾崎放哉  返り花あからさまなる梢かな 
 748 尾崎放哉  餌をやる人に鶴舞ふ初日かな 
 749 尾崎放哉  稲妻や豊年祭過ぎし空 
 750 尾崎放哉  夕立や渚晴れゆく波高し 
 751 前田普羅  勧進の鈴ききぬ春も遠からじ 
 752 前田普羅  山寺の局造りや鳳仙花 
 753 前田普羅  桔梗や一群過ぎし手長蝦 
 754 前田普羅  菊切るや唇荒れて峯高し 
 755 前田普羅  虫なくや我れと湯を呑む影法師 
 756 前田普羅  新涼や豆腐驚く唐辛 
 757 前田普羅  夏草を搏ちては消ゆる嵐哉 
 758 前田普羅  若竹に風雨駆けるや庭の奥 
 759 前田普羅  羽抜鳥高き巌に上りけり 
 760 前田普羅  月さすや沈みてありし水中花 
 761 前田普羅  夏山や二階なりける杣の宿 
 762 前田普羅  春更けて諸鳥啼くや雲の上 
 763 山口青邨  凌霄花落ちてかかるや松の上 凌霄花:のうぜんかずら
 764 山口青邨  まだ早き牡丹ばたけをひとめぐり 
 765 山口青邨  五月雨の水につと見る鯰かな 
 766 山口青邨  どくだみの花咲くと洗ふ硯かな 
 767 山口青邨  山里や植田しづかに閑古鳥 
 768 山口青邨  葉一枚折れてうかべる花菖蒲 
 769 山口青邨  水の音聞ゆる室やあらひ鯉 
 770 山口青邨  紫陽花や朽ちたるごとく家ありぬ 
 771 山口青邨  新緑や空わたりゆく蝶々かな 
 772 山口青邨  芍薬や雨にくづれて八方に 
 773 石田波郷  菊の香にきよらに寝たり朝ちかく 
 774 石田波郷  芋掘りて疲れたる夜の筆づかひ 
 775 石田波郷  散るさくら空には夜の雲愁ふ 
 776 石田波郷  浅き水のおほかたを蝌蚪のもたげたる 
 777 石田波郷  草萌や野焼の跡のすでに濃き 
 778 石田波郷  田植どき夜は月かげ田をわたり 
 779 石田波郷  噴水のしぶけり四方に風の街 
 780 石田波郷  虹たつやとりどり熟れしトマト園 
 781 石田波郷  朝の虹ひとり仰げる新樹かな 
 782 村上鬼城  鶯や隣へ逃げる薮つづき 
 783 村上鬼城  吼えて遠くなりけり猫の恋 
 784 村上鬼城  とけて浮く氷の影や水の底 
 785 村上鬼城  道端に縄垣したり罌粟の花 罌粟:けし
 786 村上鬼城  酒飲まぬ豪傑もあり柏餅 
 787 村上鬼城  菖蒲かけて雀の這入る庇かな 
 788 村上鬼城  衣更野人鏡を持てりけり 
 789 村上鬼城  玄関に大きな鉢の牡丹かな 
 790 日野草城  竿のものしきりに乾く残暑かな 
 791 日野草城   松大樹残暑の影を横たふる 
 792 日野草城   あをあをと夕空澄みて残暑かな 
 793 日野草城   楠の木のとはの翠や秋高し 
 794 日野草城   夕風に涼しく撓むポプラかな 
 795 河東碧梧桐  夏帽を吹きとばしたる蓮見かな 
 796 河東碧梧桐  ひたひたと春の潮打つ鳥居哉 
 797 河東碧梧桐  大仏を写真に取るや春の山 
 798 河東碧梧桐  植木屋の海棠咲くや棕梠の中 
 799 河東碧梧桐  三月を引くとも見えで波のうつ 
 800 河東碧梧桐  菜の花に汐さし上る小川かな 
 801 河東碧梧桐  苗代と共にそだつる蛍かな 
 802 河東碧梧桐  田螺鳴く二条御門の裏手かな 
 803 河東碧梧桐  桃さくや湖水のへりの十箇村 
 804 河東碧梧桐  薮入のさびしく戻る小道かな 
 805 富田木歩  七夕や髪に結ひ込む藤袴 
 806 富田木歩  暮れぎはの家並かたぶく雪しづれ 
 807 各務支考  木曽は今さくらもさきぬ夏大根 
 808 各務支考  椿踏む道や寂寞たるあらし 
 809 各務支考  簔笠に露けき宿の桑子哉 
 810 各務支考  うぐひすの肝つぶしたる寒さ哉 
 811 各務支考  ちりぢりに春やぼたんの花の上 
 812 種田山頭火  しぐれて道しるべその字が読めない 
 813 種田山頭火  からだ投げだしてしぐるる山 
 814 種田山頭火  しぐれて山をまた山を知らない山 
 815 種田山頭火  死をひしひしと水のうまさかな 
 816 種田山頭火  なかなか死ねない彼岸花さく 
 817 種田山頭火  歩るくほかない秋の雨ふりつのる 
 818 種田山頭火  しぐるるや犬と向き合ってゐる 
 819 種田山頭火  松の木松の木としぐれてゐる 
 820 種田山頭火  波音しぐれて晴れて 
 821 種田山頭火  しぐるるあしあとをたどりゆく 
 822 種田山頭火  おたたしぐれてすたすたいそぐ 
 823 種田山頭火  しぐれて柿の葉のいよいようつくしく 
 824 種田山頭火  しぐれ笠でおとなりへ水をもらひに 
 825 種田山頭火  月夜しぐれて春ちかくなる音 
 826 種田山頭火  しぐるるや郵便やさん遠く来てくれた 
 827 種田山頭火  朝早くしぐるる火を焚いてゐる 
 828 種田山頭火  鴉とんでゆく水をわたらう 
 829 種田山頭火  ちんぽこもおそそも湧いてあふれる湯 
 830 種田山頭火  水をへだててをなごやの灯がまたたきだした 
 831 種田山頭火  水音といっしょに里へ下りて来た 
 832 種田山頭火  わたしひとりのけふのをはりのしぐれてきた 
 833 種田山頭火  しぐれてぬれて待つ人がきた 
 834 種田山頭火  朝からしぐれて柿の葉のうつくしさは 
 835 種田山頭火  おとはしぐれか 
 836 種田山頭火  ここまでを来し水飲んで去る 平泉は知り合いのいない町なので飲みはぐれた
 837 種田山頭火  しぐるるやしぐるる山へ歩み入る 
 838 種田山頭火  しぐるるや死なないでゐる 
 839 三橋敏雄  行雁や港港に大地ありき 
 840 三橋敏雄  日にいちど入る日は沈み信天翁 
 841 三橋敏雄  箸の木や伐り倒されて横たはる  
 842 三橋敏雄  父母や青杉の幹かくれあふ 
 843 三橋敏雄  こがらしや壁の中から藁がとぶ 
 844 三橋鷹女  かなしみに女は耐ふべし雲雀鳴く 
 845 三橋鷹女  山笑ふ吾子の饒舌谺を呼び 
 846 三橋鷹女  ひとひらの雲ゆき散れり八重桜 
 847 三橋鷹女  春林檎食みちらばして夜更けたり 
 848 三橋鷹女  東風の窓子に教ふべきこと尽きじ 
 849 三橋鷹女  春昼に耐へてましろき鰈を焼く 
 850 三橋鷹女  春は侘し場末にひとり見る映画 
 851 三橋鷹女  ちるさくら卵しろたへに生み落され 
 852 中川乙由  うき草や今朝はあちらの岸に咲く 
 853 中川乙由  蝶々は掃ぬ埃や雛あそび 
 854 中川乙由  涼しさや夢もぬけ行く籠枕 
 855 富田木歩  青蘆に家の灯もるゝ宵の程 
 856 富田木歩  行く春や蘆間の水の油色 
 857 富田木歩  蘆の中に犬鳴き入りぬ遠蛙 
 858 富田木歩  蝙蝠の家脚くゞる蘆の風 
 859 富田木歩  躑躅植ゑて夜冷えする庭を忘れけり 
 860 富田木歩  汽車音の若葉に籠る夕べかな 
 861 富田木歩  新聞に鳥影さす庭若葉かな 
 862 富田木歩  杉の芽に蝶つきかねてめぐりけり 
 863 三橋鷹女  蕗の葉に日輪躍る初夏は来ぬ 
 864 山口誓子  青みどろえりにかわきて初夏暑き 
 865 山口誓子  生きものゝおどろく初夏の水ばかり 
 866 山口誓子  初夏を出て蜥蜴はいまだ軟かき 
 867 山口誓子  初夏の日に手足ひからせ生きむとす  
 868 星野立子  たのしみの有田に人りぬ町は初夏 
 869 子規  夕顔に昔の小唄あはれなり 
 870 虚子  老いてなお稽古大事や謡初 
 871 虚子  追分を聞いて冬海を明日渡る 
 872 虚子  川狩の謡もうたふ仲間かな 
 873 西東三鬼  首かしげおのれついばみ寒鴉 
 874 西東三鬼  落葉して木々りんりんと新しや 
 875 西東三鬼  限りなく降る雪何をもたらすや 
 876 西東三鬼  中年や独語おどろく冬の坂  
 877 西東三鬼  みな大き袋を負へり雁渡る 
 878 西東三鬼  空港の青き冬日に人あゆむ 
 879 西東三鬼  秋の雨直下はるかの海濡らす 
 880 西東三鬼  緑蔭に三人の老婆わらへりき 
 881 安住敦  凭らざりし机の塵も六日かな 凭:もたれ
 882 安住敦  恋猫の身も世もあらず啼きにけり 
 883 安住敦  春昼や魔法の利かぬ魔法瓶 
 884 安住敦  舞ふ獅子にはなれて笛を吹けりけり 
 885 安住敦  届きたる歳暮の鮭を子にもたす 
 886 安住敦  雪の降る町といふ唄ありし忘れたり 
 887 安住敦  ある晴れた日につばくらめかへりけり 
 888 安住敦  蓑虫の出来そこなひの蓑なりけり 
 889 安住敦  啓蟄の庭とも畠ともつかず 
 890 安住敦  でで虫や父の記憶はみな貧し 
 891 安住敦  しぐるゝや駅に西口東口 
 892 安住敦  鯛焼のあつきを食むもわびしからずや 
 893 富田木歩  街の子の花売の真似秋立てり 
 894 富田木歩  蜆売りに銭かへてやる夏の夕 
 895 富田木歩  我が肩に蜘蛛の糸張る秋の暮 
 896 富田木歩  籠の鶏に子の呉れてゆくはこべかな 
 897 富田木歩  夢に見れば死もなつかしや冬木風 
 898 富田木歩  日のたゆたひ湯の如き家や木々芽ぐむ 
 899 富田木歩  背負はれて名月拝す垣の外 
 900 木村蕪城  受験児の横たへおける松葉杖 
 901 木村蕪城  高原の秋運転手ギター弾く 
 902 木村蕪城  おふくろの今年あらざる秋刀魚かな 
 903 木村蕪城  雲動き竹林に蝉こぼれ飛び 
 904 木村蕪城  みづうみの月明るきに馴れて住む 
 905 木村蕪城  風船やかかる男のなりはひに 
 906 三橋敏雄  座して待つ次なる大震火災此処 
 907 三橋敏雄  いっせいに柱の燃ゆる都かな 
 908 子規  古沼の境もなしに氷かな 
 909 子規  ながながと冬田に低し雁の列 
 910 子規  麦の芽のほのかに青し朝の霜 
 911 子規  染汁の紫こほる小川かな 
 912 子規  木のうろに隠れうせけりけらつゝき 
 913 子規  皮剥けば青けむり立つ蜜柑かな 
 914 子規  浪ぎはへ蔦はひ下りる十余丈 
 915 子規  末枯や覚束なくも女郎花 
 916 子規  草履の緒きれてよりこむ薄かな 
 917 子規  馬の尾をたばねてくゝる薄かな 
 918 子規  沓の代はたられて百舌鳥の声悲し 
 919 子規  肌寒や馬いばひあふつゞら折 
 920 子規  鼻たれの兄と呼ばるゝ夜寒かな 
 921 子規  唐きびのからでたく湯や山の宿 
 922 子規  闇の雁手のひら渡る峠かな 
 923 子規  枯れ柴にくひ入る秋の蛍かな 
 924 子規  稲刈もふじも一つに日暮れけり 
 925 子規  水晶のいはほに蔦の錦かな 蔦:つた
 926 子規  鶺鴒やこの笠たゝくことなかれ 鶺鴒:せきれい
 927 子規  ぬかづけばひよ鳥なくやどこでやら 
 928 子規  面白やどの橋からも秋の不二 
 929 子規  槍立てゝ通る人なし花芒 
 930 子規  伊豆相模もわかず花すゝき 
 931 子規  大方はすゝきなりけり秋の山 
 932 子規  紅葉する木立もなしに山深し 
 933 子規  山姥の力餅売る薄かな 
 934 子規  店さきの柿の実つゝく烏かな 
 935 子規  犬蓼の花くふ馬や茶の煙 
 936 子規  樵夫二人だまつて霧をあらはるゝ 
 937 子規  石原に痩せて倒るゝ野菊かな 
 938 子規  どっさりと山駕籠おろす野菊かな 
 939 子規  秋の雲滝をはなれて山の上 
 940 子規  色鳥の声をそろへて渡るげな 
 941 子規  我なりを見かけて鵯の鳴くらしき 
 942 子規  だまされてわるい宿とる夜寒かな 
 943 子規  草山の奇麗に枯れてしまひけり 
 944 子規  谷底にとどきかねたる落ち葉かな 
 945 子規  掘割の道じくじくと落葉かな 
 946 子規  暁の氷すり砕く硯かな 
 947 子規  人住まぬ屋敷の池の氷かな 
 948 子規  桃源の路次の細さよ冬籠 
 949 子規  冬ごもり仏にうときこゝろ哉 
 950 子規  居眠りて我にかくれん冬ごもり 
 951 子規  戸に犬の寝がへる音や冬籠 
 952 子規  なかなかに病むを力の冬ごもり 
 953 子規  冬ごもり煙のもるる壁の穴 
 954 子規  隠れ家のものものしさよ百合の花 
 955 子規  別れとて片隅はづす蚊帳かな 
 956 子規  次の夜は蛍やせたり籠の中 
 957 子規  涼しさや石燈籠の穴も海 
 958 子規  冬ごもり世間の音を聞いている 
 959 子規  雲のぞく障子の穴や冬ごもり 
 960 子規  暗き町やたまたま床屋氷店 
 961 子規  葉隠れに小さし夏の桜餅 
 962 子規  葉桜や昔の人と立咄 
 963 子規  涼しさや川を隔つる灯は待乳 
 964 子規  渡し場に灯をともしたる茂りかな 
 965 子規  葉桜に夜は茶屋無し隅田川 
 966 子規  夕涼み石炭くさき風が吹く 
 967 子規  金持は涼しき家に住みにけり 
 968 子規  泳ぎ場に人の残りや夏の月 
 969 子規  贅沢な人の涼みや柳橋 
 970 子規  鷺の立つ中洲の草や川涼し 
 971 子規  町暑し蕎麦屋下宿屋君が家 
 972 子規  葉柳に埃をかぶる車上かな 
 973 子規  時計屋も夏桃店も埃かな 
 974 子規  五年見ぬ山の茂りや両大師 
 975 子規  石像に蠅もとまらぬ鏡かな 
 976 子規  葉鶏頭の苗養ふや絵師が家 
 977 子規  狸さへ蟇さへ住まずなりにけり 
 978 子規  扇持たずもとより羽織などは着ず 
 979 子規  月の根岸闇の上野や別れ道 
 980 子規  白露の三河島村灯ちらちら 
 981 子規  山ぞひや帽子の端にきりぎりす 
 982 子規  一行に絵かきもまじる月夜かな 
 983 子規  杉暗し月にこぼるゝ井戸の水 
 984 子規  月高く樹にあり下は水の音 
 985 子規  茶屋あらはにともし火立つや霧の中 
 986 子規  議論とて秋の団扇を手のちから 
 987 子規  鯛の茶屋静かなる木の間かな 
 988 子規  鯛や杉の葉重ね路凹し 
 989 子規  唐黍に背中打たるゝ湯あみかな 
 990 子規  祭見に狐も尾花かざし来よ 
 991 子規  一日の秋にぎやかに祭りかな 
 992 子規  初秋の石壇高し杉木立 
 993 内藤鳴雪  初秋の食に魚なし京の町 
 994 子規  朝顔やわれ未だ起きずと思ふらん 
 995 子規  石段は常盤木の落葉ばかりなり 
 996 子規  大木の注連に蝉鳴く社かな 注連:まま
 997 子規  木下闇電信の柱新らしき 
 998 子規  松葉落ちて雀鳴くなり観音寺 
 999 子規  朝顔や野茶屋の垣根まばらなり 
 1000 子規  田の中に蓮咲きけり家二つ三つ 
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