TOTOわいふぁい TOTOワイファイ 俳句 季語

著名な俳句の検索
著名な作者の作品集です。書籍やWEBサイトを参考にしながら整備中です。
検索条件
検索文字 すべて満足
表示順序を指定   作者順   俳句順   投稿順
   (検索ワードは 俳句 作者 説明を対象に検索します)     

  対象10297件    [2/11]     俳句メニュー

検索条件 (すべて対象
作品番号 作者  俳句説明
 1001 種田山頭火  あるだけの酒のんで寝る月夜 
 1002 種田山頭火  そよいでる棕梠竹の一本を伐る 
 1003 種田山頭火  ボタ山なつかしい雨となった 
 1004 種田山頭火  さみしさ、あつい湯にはいる 
 1005 種田山頭火  こゝに住みたい水をのんで去る 
 1006 種田山頭火  ほろりとぬけた歯ではある 
 1007 種田山頭火  一杯やりたい夕焼空 
 1008 種田山頭火  よう寝られた朝の葉ぼたんを観て歩く 
 1009 種田山頭火  やっと見つけた寝床の夢も 
 1010 種田山頭火  二本一銭の食べきれない大根である 
 1011 種田山頭火  豊年のよろこびとくるしみが来て 
 1012 種田山頭火  こんなに米がとれても食へないといふのか 
 1013 種田山頭火  八番目の子が泣きわめく母の夕べ 
 1014 種田山頭火  傾いた屋根の下には労れた人々 
 1015 種田山頭火  投げ与へられた一銭のひかりだ 
 1016 種田山頭火  浪の音たえずしてふる郷遠し 
 1017 種田山頭火  こゝで泊らうつくつくぼうし  
 1018 種田山頭火  炎天の下を何処へ行く 
 1019 種田山頭火  毒薬をふところにして天の川 
 1020 種田山頭火  蝉しぐれ死に場所をさがしてゐるのか 
 1021 種田山頭火  石仏しぐれ仏を撫でる 
 1022 種田山頭火  雨の山茶花の散るでもなく 
 1023 種田山頭火  稲穂明るう夫婦で刈ってゐる 
 1024 種田山頭火  十何年過ぎ去った風の音 
 1025 種田山頭火  お経あげてお墓をめぐる 
 1026 種田山頭火  いこへば梅の香のある 
 1027 種田山頭火  鶯よう啼いてくれるひとり 
 1028 尾崎放哉  入れものがない両手で受ける 
 1029 尾崎放哉  底がぬけた杓て水を呑もうとした 
 1030 種田山頭火  松風に明暮れの鐘撞いて 
 1031 種田山頭火  蝶ひとつ飛べども飛べども石原なり 
 1032 種田山頭火  哀しみ澄みて煙まっすぐに昇る 
 1033 種田山頭火  月澄むほどにわれとわが影踏みしめる 
 1034 種田山頭火  とんぼ捕ろ捕ろその児のむれにわが子なし 
 1035 種田山頭火  父子ふたり水をながめつ今日も暮れゆく 
 1036 種田山頭火  林檎かぢる児に冬日あたゝけれ 
 1037 種田山頭火  子連れては草も摘むそこら水の音 
 1038 種田山頭火  野菊たゞに摘む児が顔に薄日して 
 1039 種田山頭火  月見入る子が寝入れば月が顔照らす 
 1040 種田山頭火  泣いて戻りし子には明るきわが家の灯 
 1041 種田山頭火  釣りつ来しが青東風に馴らす馬見をり 
 1042 種田山頭火  物みなに慊らず夕立待ちてあり 慊らず:あきたらず
 1043 種田山頭火  壁書さらに「黙」の字をませり松の内 
 1044 種田山頭火  君を送る急行列車柿渋き云ふ 
 1045 種田山頭火  月のぼりぬ夏草々の香を放つ 
 1046 種田山頭火  雪、最初の足あとで行く 
 1047 種田山頭火  咲いては落ちる椿の情熱をひらふ 
 1048 種田山頭火  あうたりわかれたりさみだるる 
 1049 種田山頭火  秋の朝の土へうちこみうちこむ 
 1050 種田山頭火  何か足らないものがある落葉する 
 1051 種田山頭火  山暮れて山の声を聴く 
 1052 種田山頭火  雪へ足跡もがっしりとゆく 
 1053 種田山頭火  炎天のはてもなく蟻の行列 
 1054 種田山頭火  ぬれてもかまはない道のまっすぐ 
 1055 種田山頭火  たへがたくなり踏みあるく草の咲いてゐる 
 1056 種田山頭火  旅のつかれの、何かおとしたような 
 1057 種田山頭火  こころなぐさまない春雪やあるいてもあるいても 
 1058 種田山頭火  秋のたより一束おっかけてゐた 
 1059 種田山頭火  この汽車通貨、青田嵐 
 1060 種田山頭火  急行はとまりません日まわりの花がある駅 
 1061 種田山頭火  ひろげて涼しい地図の、あちこち歩いた線 
 1062 種田山頭火  春はいちはやく咲きだしてうすむらさき 
 1063 種田山頭火  ゆらいで梢もふくらんできたやうな 
 1064 種田山頭火  竹になったのも竹の子も竹の中 
 1065 種田山頭火  からすを呼んでいるのがからす 
 1066 種田山頭火  ぬいてもぬいても草の執着をぬく 
 1067 種田山頭火  ゆきふるだまってゐる 
 1068 種田山頭火  ふるよりつむは杉の葉の雪 
 1069 種田山頭火  そこに鳥がゐる黙ってあるく鳥 
 1070 種田山頭火  何もかも雑炊としてあたたかく 
 1071 種田山頭火  もどるより水を火を今日の米をたき 
 1072 種田山頭火  虫もたべる物がない本を食べたか 
 1073 種田山頭火  雨を受けて桶いっぱいの美しい水 
 1074 尾崎放哉  肉がやせて来る太い骨である 
 1075 尾崎放哉  どっさり春の終りの雪ふり 
 1076 尾崎放哉  渚白い足出し 
 1077 尾崎放哉  春が来たと大きな新聞広告 
 1078 尾崎放哉  雨の舟岸によりて来る 
 1079 尾崎放哉  掛取も来てくれぬ大晦日も独り 
 1080 尾崎放哉  明日は元日が来る仏とわたくし 
 1081 尾崎放哉  月夜の葦が折れとる 
 1082 尾崎放哉  雨萩に降りて流れ 
 1083 尾崎放哉  雪の頭巾の眼を知ってる 
 1084 種田山頭火  わらやねふけてぬくい雨のしづくする 
 1085 種田山頭火  忘れ得ぬ面影や秋晴れの宿 
 1086 種田山頭火  旅程変えばやなど薫風に草鞋とく 
 1087 荻原井泉水  われ一口犬一口のパンがおしまい 
 1088 荻原井泉水  眼をつむって眠る人形と雪の夜寝ている 
 1089 荻原井泉水  どちら見ても山頭火が歩いた山の秋の雲 
 1090 荻原井泉水  誰とて黙ってただただ雪降る世相か 
 1091 荻原井泉水  咲き出づるや桜さくらと咲きつらなり 
 1092 荻原井泉水  わらやふるゆきつもる わらや:藁屋根
 1093 荻原井泉水  月光ほろほろ風鈴に戯れ 
 1094 荻原井泉水  馬よ人間の笠から耳を出して 
 1095 荻原井泉水  筆採る我にひそと炭つぐ母かなし 
 1096 種田山頭火  あの雲がおとした雨にぬれてゐる 
 1097 種田山頭火  朝湯こんこんあふるるまんなかのわたくし 
 1098 種田山頭火  朝焼雨ふる大根まかう 
 1099 種田山頭火  秋ふかう水音がきこえてくる 
 1100 種田山頭火  秋の空高く巡査に叱られた 
 1101 種田山頭火  秋の蚊のないてきてはたゝかれる 
 1102 種田山頭火  秋兎死はくさぶえを吹く 
 1103 種田山頭火  青草に寝ころぶや死を感じつゝ 
 1104 種田山頭火  わかれわかれにわかれゆく太陽を仰ぎつつ 
 1105 種田山頭火  この秋ことに切ない風ふく 
 1106 種田山頭火  石を枕に秋の雲ゆく 
 1107 種田山頭火  とぼしいくらしの、水の流るる 
 1108 種田山頭火  トマトを掌に、みほとけのまへにちちははのまへに 掌:て
 1109 種田山頭火  蠅を打ち蚊を打ち我を打つ 
 1110 種田山頭火  あすはお正月の一りんひらく 
 1111 種田山頭火  なむあみだぶつなむあみだぶつみあかしままたく 
 1112 種田山頭火  泊るところがないどかりと暮れた 
 1113 種田山頭火  波音かすかにどうにかならう 
 1114 種田山頭火  南無観世音おん手したたる水の一すぢ 
 1115 種田山頭火  母よ、しみじみ頭陀袋かけるとき 頭陀袋:ふくろ
 1116 種田山頭火  それは死の前のてふてふの舞 
 1117 種田山頭火  うどん供へて、母よ、わたくしもいただきまする 
 1118 種田山頭火  その桃が実となり、君すでに亡し 
 1119 種田山頭火  さすらひの果てはいづくぞ衣がへ 
 1120 種田山頭火  ことしも暮れる火吹竹ふく 
 1121 種田山頭火  春風の扉ひらけば南無阿弥陀仏 
 1122 種田山頭火  けふの日までは生きて来た寒い風が吹く 
 1123 種田山頭火  あれはふるさとの山なみか雪ひかる 
 1124 種田山頭火  明日は死屍となる爪を切る 
 1125 種田山頭火  お父さんお母さん秋が晴れました 
 1126 種田山頭火  青葉分け行く良寛さまも行かしたろ 
 1127 種田山頭火  生きてしづかな寒鮒もろた 
 1128 種田山頭火  鴉啼いたとて誰もきてはくれない 
 1129 種田山頭火  浅間は千曲はゆふべはそゞろ寒い風 
 1130 種田山頭火  風かをる信濃の国の水のよろしさ 
 1131 種田山頭火  若葉に月が、をんなはまことうつくしい 
 1132 種田山頭火  死をまえに涼しい風 
 1133 種田山頭火  死にたいときに死ぬるがよろしい水仙匂ふ 
 1134 種田山頭火  それもよかろう草が咲いてゐる 
 1135 種田山頭火  ともかく生かされてはゐる雑草の中 
 1136 種田山頭火  風がふきぬけるころりと死んでゐる 
 1137 種田山頭火  彼岸花のさくふるさとは墓のあるばかり 
 1138 種田山頭火  お彼岸のお彼岸花をみ仏に 
 1139 種田山頭火  草にも風が出てきた豆腐も冷えただろ 
 1140 種田山頭火  百合咲けばお地蔵さまにも百合の花 
 1141 種田山頭火  この道しかない春の雪ふる 
 1142 種田山頭火  さて、どちらへ行かう風がふく 
 1143 種田山頭火  誰かきそうな雪がちらほら 
 1144 種田山頭火  どうにかなるだろう雪のふりしきる 
 1145 種田山頭火  山頭火には其中庵がよい雑草の花 
 1146 種田山頭火  遠雷すふるさとのこひしく 
 1147 種田山頭火  みんなたっしやでかぼちゃの花も 
 1148 種田山頭火  炎天かくすところなく水のながれくる 
 1149 種田山頭火  草しげるそこは死人を焼くところ 
 1150 種田山頭火  はれたりふったり青田となった 青田になった 
 1151 種田山頭火  死ぬよりほかない山がかすんでゐる 
 1152 種田山頭火  いちりんざしの椿いちりん 
 1153 種田山頭火  あるけば蕗のとう 
 1154 種田山頭火  落葉ふる奥ふかく御仏をみる 
 1155 種田山頭火  貧乏のどんぞこで百舌鳥がなく 
 1156 種田山頭火  なんでこんなにさみしい風ふく 
 1157 種田山頭火  どかりと山の月おちた 
 1158 種田山頭火  うつってきてお彼岸の花ざかり 
 1159 種田山頭火  花いばら、こゝの土とならうよ 
 1160 種田山頭火  ほうたるこいこいふるさとにきた 
 1161 種田山頭火  松風すずしく人も食べ馬も食べ 
 1162 種田山頭火  さみしい風が歩かせる 
 1163 種田山頭火  ここにおちつき草萌ゆる 
 1164 種田山頭火  逢ひたい、捨炭山が見えだした 捨炭山:ぼたやま
 1165 種田山頭火  墓がならんでそこまで波がおしよせて 
 1166 種田山頭火  山頭火これからまたひとり 
 1167 種田山頭火  法衣こんなにやぶれて草の実 
 1168 種田山頭火  松はみな枝垂れて南無観世音 
 1169 種田山頭火  重きものどさと投げたり大地燃ゆ 
 1170 種田山頭火  桐はま青な葉と葉を鳴らす人恋し 
 1171 種田山頭火  若葉若葉かゞやけば物みなよろし 
 1172 種田山頭火  読経流れて木立いっせいにそよぎけり 
 1173 種田山頭火  鮭さびしみわが行く道のはてもなし 
 1174 種田山頭火  雪かぎりなしぬかづけば雪ふりしきる 
 1175 種田山頭火  浪の音聞きつゝ遠く別れ来し 
 1176 種田山頭火  独り飲みれをれば夜風騒がしう家をめぐれり 
 1177 種田山頭火  思ひ果てなし日ねもす障子鳴る悲し 
 1178 種田山頭火  松裂かれしまゝにして炎天浮く蜻蛉 
 1179 種田山頭火  嬉しいことも悲しいことも草茂る 
 1180 種田山頭火  春風のどこでも死ねるからだで歩く 
 1181 種田山頭火  いつでも死ねる草が咲いたり実ったり 
 1182 種田山頭火  月、雲が逃げてゆく雲が追うてゆく 
 1183 種田山頭火  山の月を右にして左にして帰る 
 1184 種田山頭火  しぐれへ三日月へ酒買ひに行く 
 1185 種田山頭火  酔うほどは買へない酒をすするのか 
 1186 種田山頭火  星があって男と女 
 1187 種田山頭火  労れて足を雨にうたせる 労れて:つかれて
 1188 種田山頭火  これが河豚かと食べてゐる 
 1189 種田山頭火  物思う膝の上で寝る猫 
 1190 種田山頭火  ヘラヘラとして水を味ふ 
 1191 種田山頭火  たまさかに飲む酒の音さびしかり 
 1192 種田山頭火  子とふたり摘みては流す草の葉の 
 1193 種田山頭火  越えてゆく山また山は冬の山 
 1194 種田山頭火  たまたまたづね来てその泰山木が咲いている 
 1195 種田山頭火  ほろにがさもふるさとにしてふきのとう 
 1196 種田山頭火  日向草の赤いの白いのたづねあてた 
 1197 種田山頭火  車窓から、妹の家は若葉してゐる 
 1198 種田山頭火  育ててくれた野は山は若葉 
 1199 種田山頭火  晴れて鋭い故郷の山を見直す 
 1200 種田山頭火  あの汽車もふる郷の方へ音たかく 
 1201 種田山頭火  冬空のふる郷へちかづいてひきかへす 
 1202 種田山頭火  故郷の人と話したのも夢か 
 1203 種田山頭火  ふる郷忘れがたい夕風がでた 
 1204 種田山頭火  波の音たえずしてふる郷遠し 
 1205 種田山頭火  夜もすがら水音が聞こえる 
 1206 種田山頭火  ことしもをはりの虫がまっくろ 
 1207 種田山頭火  一つ家に一人寝て観る草に月 
 1208 尾崎放哉   すばらしい乳房だ蚊が居る 
 1209 尾崎放哉   小さい家で母と子とゐる 
 1210 種田山頭火  ここに落ちつき草萌ゆる 
 1211 種田山頭火  酒やめておだやかな雨 
 1212 種田山頭火  枯枝ほきほき折るによし 
 1213 種田山頭火  ふと思ひ出の水音かげり 
 1214 種田山頭火  まいにち水を飲み水ばかりの身ぬち澄みわたる 
 1215 種田山頭火  くらがりさがして水をからだいっぱい 
 1216 種田山頭火  春の水ゆたかに流るるるものを拾う 
 1217 種田山頭火  なんときびしい寒の水涸れた 
 1218 種田山頭火  父によう似た声が出てくる旅はかなしい 
 1219 種田山頭火  枯枝ぼきぼきおもふところなく 
 1220 種田山頭火  死ねない手がふる鈴をふる 
 1221 種田山頭火  こころさびしくひとりまた火を焚く 
 1222 種田山頭火  生きの身のいのちかなしく月澄みわたる 
 1223 種田山頭火  酒をたべてゐる山は枯れてゐる 
 1224 種田山頭火  あるひは乞ふことをやめ、山を観てゐる 
 1225 種田山頭火  物乞ふ家もなくなり山には雲 
 1226 種田山頭火  百舌鳥鳴いて身の捨てどころなし 
 1227 種田山頭火  彼岸花さくふるさとは墓のあるばかり 
 1228 種田山頭火  ふときてあるくふるさとは草の花さかり 
 1229 種田山頭火  山あれば山を観る 雨の日は雨を聴く 春夏秋冬 あしたもよろし ゆうべもよろし 
 1230 種田山頭火  しづかな道となりどくだみの芽 
 1231 種田山頭火  秋となった雑草にすわる 
 1232 種田山頭火  ふとめざめたらなみだがこぼれてゐた 
 1233 種田山頭火  ゆふべひそけくラヂオが物を思はせる 
 1234 種田山頭火  山家明けてくる大粒の雨 
 1235 種田山頭火  蓑蟲も涼しい風に吹かれをり 
 1236 種田山頭火  雲かげふかい水底の顔をのぞく 
 1237 種田山頭火  こゝらで泊らうつくがぼうし 
 1238 種田山頭火  さゝげまつる鐵鉢の日ざかり 
 1239 種田山頭火  岩かげまさしく水が湧いてゐる 
 1240 種田山頭火  そうらうとして水をさがすや蜩 
 1241 種田山頭火  焼かれ死ぬ虫のにほひのかんばしく 
 1242 種田山頭火  打つより終る虫の命のもろい風 
 1243 種田山頭火  ぷすりと音をたてて虫は焼け死んだ 
 1244 種田山頭火  れいろうとして水鳥はつるむ 
 1245 種田山頭火  芙蓉咲かせて泥捏ねてゐる 捏ねる:こねる
 1246 種田山頭火  月のさやけさも旅から旅で 
 1247 種田山頭火  旅ごろも吹きまくる風にまかす 
 1248 種田山頭火  踏み入れば人の声ある冬の山 
 1249 種田山頭火  日ざかり水鳥は流れる 
 1250 種田山頭火  さみだるる大きな仏さま 
 1251 種田山頭火  菊投げ入れて部屋を明るうする 
 1252 種田山頭火  寥平さびし煙草のけむり 
 1253 種田山頭火  此秋も青桐三本 
 1254 種田山頭火  けふも托鉢ここもかしこも花ざかり 
 1255 種田山頭火  雀一羽二羽三羽地上安らけく 
 1256 尾崎放哉  傘にばりばり雨音さして逢ひに来た 
 1257 尾崎放哉  白雲ゆたかに行く朝の楠の木 
 1258 尾崎放哉  冬空もいで来た一輪の花 
 1259 尾崎放哉  寺の屋根しんかん夏日すべらす 
 1260 尾崎放哉  おそくまで話し山の星空傾き尽す 
 1261 尾崎放哉  あついお茶をのんで梅をほめて出る 
 1262 種田山頭火  今日も事なし凩に酒量るのみ 
 1263 種田山頭火  新居広やかに垣もせぬ蛍淋しうす 
 1264 種田山頭火  子と遊ぶうらゝ木蓮数へては 
 1265 種田山頭火  海よ海よふるさとの海の青さよ 
 1266 種田山頭火  真夏真晝の空の下にて赤児泣く 
 1267 種田山頭火  石工一日石切る音の雨となりけり 
 1268 種田山頭火  草に投げ出す足をつたうて蟻一つ 
 1269 種田山頭火  みんな安らかに暮しをり花桐こぼる 
 1270 種田山頭火  ふく水に影うつすカンナの赤さ 
 1271 種田山頭火  力いっぱい子が抱きあぐる水瓜かな 水瓜:すいか
 1272 種田山頭火  ガラス戸かたく鎖されし窓々の入日 
 1273 種田山頭火  馬子は西瓜をかじりつつ馬はおとなしく 水瓜:すいか
 1274 種田山頭火  蝉ねらふ児の顔に日影ひとすぢ 
 1275 種田山頭火  街あかりほのかに水は流れけり 
 1276 種田山頭火  茂り下ろすやその匂ひなつかしみつゝ 
 1277 種田山頭火  砂利の明るさ泌み入る雨の明るさ踏まん 
 1278 種田山頭火  親子顔をならべたりいまし月昇る 
 1279 種田山頭火  うらゝかに日が照りて人の影遠し 
 1280 種田山頭火  けさも雨なりモナリザのつめたき瞳 
 1281 種田山頭火  つかれし手足投げ出せば日影しみ入る 
 1282 種田山頭火  入日まともに人の家焼けてくづれぬ 
 1283 種田山頭火  積荷おろす草青々とそよぎをり 
 1284 種田山頭火  桐並木その果てのポスト赤し 
 1285 種田山頭火  汽車が吐き出す人むきむきに暮れてゆく 
 1286 種田山頭火  海鳴り聞ゆ朝がほの咲けるよ 
 1287 種田山頭火  朝顔けふも大きくて咲いて風なかり 
 1288 種田山頭火  緑の奥家ありて朝顔ありし 
 1289 種田山頭火  朝顔のゆらぎかすかにも人の足音す 
 1290 種田山頭火  雲のかげ水渉る人にあつまりぬ 
 1291 種田山頭火  あたり暗うなりあふるゝ水かな 
 1292 種田山頭火  水音の真晝わかれおしみけり 
 1293 種田山頭火  扉うごけり合歓の花垂れたり 
 1294 種田山頭火  蛙蛙独りぼっちの子とわれと 
 1295 種田山頭火  蛙さびしみわがゆく路のはてもなし 
 1296 種田山頭火  炎天の街のまんなか鉛煮ゆ 
 1297 種田山頭火  晝ふかし虞美人草のほろろ散らんとす 
 1298 種田山頭火  何おちしその音のゆくへ白き窓 
 1299 種田山頭火  県庁の石垣のすみれ咲きいでけり 
 1300 種田山頭火  鳥しきりに啼き炭火きえけり 
 1301 種田山頭火  兵列おごそかに過ぎゆきて若葉影あり 
 1302 種田山頭火  蒲団短かく夜気長し 
 1303 種田山頭火  腹いっぱい水飲んで寝る! 
 1304 種田山頭火  だまって今日の草履はく 
 1305 久保白船  けさは骨となって戻り、庵のわけぎのうね 種田山頭火を葬る
 1306 久保白船  灰となって灰の中いっぽんはある歯があったと 種田山頭火を葬る
 1307 久保白船  水は枯れてしづかな、朝の骨拾ひにゆく 種田山頭火を葬る
 1308 久保白船  火屋も月夜の雑草あすのこと言ふてわかれる 種田山頭火を葬る
 1309 久保白船  その山羊髭のままの仏となって吹く風が秋 種田山頭火を葬る
 1310 久保白船  もうさかづきもいらぬ仏となって月のあをい葉 種田山頭火を葬る
 1311 久保白船  おそくついて月のくもり棺と向合ってゐる 種田山頭火を葬る
 1312 種田山頭火  水がとんぼがわたしも流れゆく 
 1313 種田山頭火  今日も郵便が来ないとんぼとぶ 
 1314 種田山頭火  とんぼとまったふたりのあいだに 
 1315 種田山頭火  どこからとなく涼しい風がおはぐろとんぼ 
 1316 種田山頭火  生える草の枯れゆく草のとき移る 
 1317 種田山頭火  いつ死ねる木の実は播いておく 
 1318 種田山頭火  三日月おちかかる城山の城 
 1319 種田山頭火  蛙になりきって跳ぶ 
 1320 種田山頭火  をりをり顔みせる月のまんまる 
 1321 種田山頭火  だんだん似てくる癖の、父はもうゐない 
 1322 種田山頭火  暑い日をまことにいそぐ旅人なり 
 1323 種田山頭火  しばらく歩かない脚の爪伸びてゐるかな 
 1324 種田山頭火  蠅が歩いてゐる蠅紙のふちを 
 1325 種田山頭火  ひょいととまれば蠅捕紙の蠅で 
 1326 種田山頭火  降ったり霽れたりおのれにかへる 霽:はれ
 1327 種田山頭火  あるけば涼しい風がある草を踏み 
 1328 種田山頭火  へそが汗ためてゐる 
 1329 種田山頭火  秋風の石を拾ふ 
 1330 種田山頭火  遠く来てひでり雲ちぎれちぎれ 
 1331 種田山頭火  晴れるほどに曇るほどに波のたはむれ 
 1332 種田山頭火  沙にあしあとのどこまでつづく 沙:砂
 1333 種田山頭火  何の草ともなく咲いてゐてふるさと 
 1334 種田山頭火  朝まゐりはわたくし一人の銀杏ちりしく 
 1335 種田山頭火  寝ても覚めても夜が長い瀬の音 
 1336 種田山頭火  わが手わが足われにあたたかく寝る 
 1337 種田山頭火  お手手こぼれるその一粒一粒をいただく 
 1338 種田山頭火  一握の米をいただきいただいてまいにちの旅 一握:ひとにぎり
 1339 種田山頭火  いちにち物いはず波音 
 1340 種田山頭火  月夜あかるい舟がありその中で寝る 
 1341 種田山頭火  暮れても宿がない百舌鳥が啼く 
 1342 種田山頭火  墓に護摩水を、わたしもすすり 放哉墓前
 1343 種田山頭火  上へ下へ別れ去る坂のけはしい紅葉 
 1344 種田山頭火  秋晴れの島をばらまいておだやかな 
 1345 種田山頭火  秋あらき波音の日ねもすあるく 
 1346 種田山頭火  誰やら休んだらしい秋草をしいて私も 
 1347 種田山頭火  石に松が昔ながらの散松葉 
 1348 種田山頭火  柳ちるもとの乞食になって歩く 
 1349 種田山頭火  鉦たたきよ鉦をたたいてどこにゐる 
 1350 種田山頭火  鳥とほくとほく雲に入るゆくへ見おくる 
 1351 種田山頭火  まいにちはだかでてふちょやとんぼや 
 1352 種田山頭火  どこにも水がない枯田汗してはたらく 
 1353 種田山頭火  燃ゆる火の、雨ふらしめと燃えさかる 
 1354 種田山頭火  涸れて涸れきって石ころごろごろ 
 1355 種田山頭火  供へるものとては、野の木瓜の二枝三枝 木瓜:もっこう ぼけ
 1356 種田山頭火  駒ヶ根をまへにいつもひとりでしたね 
 1357 種田山頭火  お山しんしんしづくする真実不虚 
 1358 種田山頭火  啼いて鴉の、飛んで鴉の、かへるところがない 
 1359 種田山頭火  吹きつめて行きどころがない風 
 1360 種田山頭火  この旅死の旅であらうほほけたんぽぽ 
 1361 種田山頭火  旅もいつしかおたまじゃくしが泳いでゐる 
 1362 種田山頭火  一羽来て啼かない鳥である 
 1363 種田山頭火  棕梠の夜風のおとなりはお寺 棕梠:しゅろ
 1364 種田山頭火  壁がくづれてそこから蔓草 
 1365 種田山頭火  われ生きて詩を作らむ 
 1366 種田山頭火  天われを殺さずして詩を作らしむ 
 1367 種田山頭火  その一片はふるさとの土となる秋 
 1368 種田山頭火  お骨声なく水のうへをゆく 
 1369 種田山頭火  街はおまつりのお骨となって帰られたか 
 1370 種田山頭火  しぐれて雪のちぎれゆくし支那をおもふ 
 1371 種田山頭火  おもひはてなく朝月のある展望 
 1372 種田山頭火  今日の足音のいちはやく橋をわたりくる 
 1373 種田山頭火  みんなかへる家はあるゆふべのゆきき 
 1374 種田山頭火  法堂あけはなつ明けはなれてゐる 法堂:はっとう
 1375 種田山頭火  草のしげるや礎石ところどころのたまり水 
 1376 種田山頭火  いつまで死ねないからだの爪をきる 
 1377 種田山頭火  荒海へ脚投げだして旅のあとさき 
 1378 種田山頭火  砂丘にうづくまりけふも佐渡は見えない 
 1379 種田山頭火  こころむなしくあらなみのよせてはかへし 
 1380 種田山頭火  青葉わけゆく良寛さまも行かしたろ 
 1381 種田山頭火  浅間をまともにおべんたうは草の上にて 
 1382 種田山頭火  花が葉になる東京よさようなら 
 1383 種田山頭火  ほっと月がある東京に来てゐる 
 1384 種田山頭火  また一枚ぬぎすてる旅から旅 
 1385 種田山頭火  うららかな鐘を撞かうよ 
 1386 種田山頭火  風の扉ひらけば南無阿弥陀仏 
 1387 種田山頭火  春潮のテープちぎれてなほも手をふり 
 1388 種田山頭火  岩のよろしさも良寛さまのおもひで 
 1389 種田山頭火  旅は笹山の笹のそよぐのも 
 1390 種田山頭火  傷が癒えゆく秋めいた風となって吹く 
 1391 種田山頭火  おもひおくことはないゆふべの芋の葉のひらひら 
 1392 種田山頭火  風鈴の鳴るさへ死のしのびよる 
 1393 種田山頭火  つくつくぼうしあまりにちかくつくつくぼうし 
 1394 種田山頭火  遠山の雪も別れてしまった人も 
 1395 種田山頭火  よびかけられてふりかへったが落葉林 
 1396 種田山頭火  ふと子のことを百舌鳥が啼く 
 1397 種田山頭火  ここを死に場所とし草のしげりにしげり 
 1398 種田山頭火  もう死んでもよい草のそよぐや 
 1399 種田山頭火  草や木や生きて戻って茂ってゐる 
 1400 種田山頭火  岩があれば水の触れゆく 
 1401 種田山頭火  水音の一人となり捨てるものがなんぼでも 
 1402 種田山頭火  山ふかく蕗のとうなら咲いてゐる 
 1403 種田山頭火  おわかれの水鳥がういたりしづんだり 
 1404 種田山頭火  吹いては売る笛はほうほけきょ 
 1405 種田山頭火  春寒い竹の葉のそよぐ三本 
 1406 種田山頭火  これがことしのをはりの一枚を剥ぐ 
 1407 種田山頭火  春風の鉢の子一つ 鉢の子:鉄鉢のこと
 1408 種田山頭火  うつむいて石ころばかり 
 1409 種田山頭火  月が昇って何を待つでもなく 
 1410 種田山頭火  草の実の露のおちつかうとする 
 1411 種田山頭火  移ってきてお彼岸花の花ざかり 
 1412 種田山頭火  いつも一人で赤とんぼ 
 1413 種田山頭火  みんなに話しかける青葉若葉のひかり 
 1414 種田山頭火  お墓の、いくとせぶりの夏草をぬく 
 1415 種田山頭火  すゞしくお墓の草をとる 
 1416 種田山頭火  夏草、お墓をさがす 
 1417 種田山頭火  おもひ出の草のこみちをお墓まで 
 1418 種田山頭火  事がまとまらない夕蝉になかれ 
 1419 種田山頭火  あすはよいたよりがあらう夕焼ける 
 1420 種田山頭火  家をさがすや山ほとゝぎす 
 1421 種田山頭火  ほっかり眼ざめて山ほとゝぎす 
 1422 種田山頭火  年とれば故郷こひしいつくつくぼうし 
 1423 種田山頭火  たゞ食べてゐる親豚子豚 
 1424 種田山頭火  海のあなたはふるさとの山 海のあなたはふるさとの山に雪
 1425 種田山頭火  寒い雲がいそぐ 
 1426 種田山頭火  冬雨の石階をのぼるサンタマリア 
 1427 種田山頭火  いつまで旅することの爪をきる 
 1428 種田山頭火  枯草に寝ころぶやからだ一つ 
 1429 種田山頭火  越えていく山また山は冬の山 
 1430 種田山頭火  どこやらで鴉なく道は遠い 
 1431 種田山頭火  暗い窓から太陽をさがす 
 1432 種田山頭火  裁かれる日の椎の花ふる 
 1433 種田山頭火  枝をさしのべてゐる冬木 
 1434 種田山頭火  捨てきれない荷物のおもさまへうしろ 
 1435 種田山頭火  また逢へた山茶花も咲いてゐる 
 1436 種田山頭火  病んで寝て蠅が一匹きたゞけ 
 1437 種田山頭火  山の中鉄鉢たゝいて見たりして 
 1438 種田山頭火  霧島は霧にかくれて赤とんぼ 
 1439 種田山頭火  こころしづ山のおきふし 
 1440 種田山頭火  ゆっくり歩こう萩がこぼれる 
 1441 種田山頭火  波音遠くなり近くなり余命いくばくぞ 
 1442 種田山頭火  鉄鉢ささげて今日も暮れた 
 1443 久保白船  友のうしろ姿の風を見送る 
 1444 久保白船  法衣かるがると来てふかれて去るか 
 1445 種田山頭火  鴉啼いてわたしも一人 
 1446 種田山頭火  暑さきはまる土に喰ひいるわが影ぞ 
 1447 種田山頭火  燕とびかふ空しみじみと家出かな 
 1448 種田山頭火  ものゝこゑほのぼのと海はたゝへけり 
 1449 種田山頭火  家を出ずれば冬木しんしんとならびたり 
 1450 種田山頭火  気まぐれをうかと来ぬげんげ濃き雨に 
 1451 芝富貴男  町空のくらき氷雨や白魚売 
 1452 芝富貴男  川蟹のしろきむくろや秋磧 磧:かわら
 1453 芝富貴男  向ふ家にかゞやき入りぬ石鹸玉 
 1454 芝富貴男  泳ぎ女の葛隠るまで羞ぢらひぬ 
 1455 芝富貴男  澤の邊に童と居りて蜘蛛合 
 1456 芝富貴男  筆始歌仙ひそめくけしきかな 
 1457 芝富貴男  そのかみの貝掘りあてつ鍬始 
 1458 芝富貴男  雪融くる苔ぞ?ぞ山始 
 1459 芝富貴男  松過や織りかけ機の左右に風 
 1460 芝富貴男  山川の砂焦がしたるどんどかな 
 1461 芝富貴男  谷水を撒きてしづむるとんどかな 
 1462 芝富貴男  ぬばたまの寝屋かいまみぬ嫁が君 
 1463 芝富貴男  繭玉に寝がての腕あげにけり 
 1464 芝富貴男  落ちてゐるのは帰省子の財布なり 
 1465 芝富貴男  にごり江を鎖す水泡や雲の峰 
 1466 芝富貴男  鞦韆の月に散じぬ同窓会 
 1467 芝富貴男  夕釣や蛇のひきゆく水脈あかり 
 1468 芝不器男  北風やあをぞらながら暮れはてゝ 
 1469 種田山頭火  これだけ残ってゐるお位牌ををがむ 
 1470 種田山頭火  ぼろ売って酒買うてさみしくもあるか 
 1471 種田山頭火  初孫がうまれたさうな風鈴の鳴る 
 1472 種田山頭火  杉菜そよぐのも春はまだ寒い風 
 1473 種田山頭火  水音の若竹のそよがず 
 1474 種田山頭火  雪ふる中をかへりきて妻へ手紙かく 
 1475 種田山頭火  赤きポストに都会の埃風ふけり 
 1476 種田山頭火  霧ぼうぼうとうごめくは皆人なりし 
 1477 種田山頭火  労れて戻る夜の角のいつものポストよ 労れて:つかれて
 1478 種田山頭火  ついてくる犬よおまへも宿なしか 
 1479 種田山頭火  落葉しいて寝るよりほかない山のうつくしさ 
 1480 種田山頭火  まどろめばふるさとの夢の草の葉ずれ 
 1481 種田山頭火  腹がいたいみんみん蝉 
 1482 種田山頭火  このまゝ死んでしまふかも知れない土に寝る 
 1483 種田山頭火  大地ひえびえととして熱のあるからだをまかす 
 1484 種田山頭火  煮る蕗のほろにがさにもおばあさんのおもかげ 
 1485 種田山頭火  あるがまま雑草として芽をふく 
 1486 種田山頭火  病む児の寝顔白う浮く火燵守り暮れぬ 
 1487 種田山頭火  我とわが子と二人のみ干潟鳶舞ふ日 
 1488 種田山頭火  せんだんもこんなにふとったかげで汗ふく 
 1489 種田山頭火  送ってくれたあたゝかさを着て出る 
 1490 種田山頭火  雨のおみくじも凶か 
 1491 種田山頭火  あの水この水の天竜となる水音 
 1492 種田山頭火  水音のたえずして御仏とあり 
 1493 種田山頭火  水に雲かげもおちつかせないものがある 
 1494 種田山頭火  葉桜となってまた逢った 
 1495 種田山頭火  晴れるより雲雀はうたふ道のなつかしや 
 1496 種田山頭火  播きをへるとよい雨になる山の色 
 1497 種田山頭火  こやしあたへてしみじみながめるほうれんさうで 
 1498 種田山頭火  朝風のトマト畑でトマトを食べる 
 1499 種田山頭火  花菜活けてあんたを待つなんとうららかな 
 1500 種田山頭火  にょきにょき土筆がなんぼうでもある 
 1501 種田山頭火  水底の月のたたへてゐる 
 1502 種田山頭火  この土のすゞしい風にうつりきて 
 1503 種田山頭火  梨もいづ卓布に瓦斯の青映えて 
 1504 種田山頭火  けふはおわかれの糸瓜がぶらり 
 1505 種田山頭火  穴にかくれる蟹のうつくしさよ 
 1506 種田山頭火  百舌啼いて身の捨てどころなし 
 1507 種田山頭火  蕎麦の花にも少年の日がなつかしい 
 1508 種田山頭火  けさもよい日の星一つ 
 1509 種田山頭火  木の芽草の芽あるきつづける 
 1510 種田山頭火  この旅、果てもない旅のつくつくぼうし 
 1511 種田山頭火  笠にとんぼをとまらせてあるく 
 1512 種田山頭火  青い灯赤い灯人のゆく方へついてゆく 
 1513 種田山頭火  さゝやかな店をひらきぬ桐青し 
 1514 種田山頭火  泣寝入る児が淋しひとり炭つぎぬ 
 1515 種田山頭火  風にめさめて水をさがす 
 1516 種田山頭火  熟柿のあまさもおばあさんのおもかげ 
 1517 種田山頭火  窓あけて窓いっぱいの春 
 1518 種田山頭火  さんざしぐれの山越えてまた山 
 1519 種田山頭火  どこで倒れてもよい山うぐひす 
 1520 種田山頭火  ひっそり生きてなるやうになる草の穂 
 1521 種田山頭火  風の中のおのれを責めつつ歩く 
 1522 種田山頭火  足は手は支那に残してふたたび日本に 
 1523 種田山頭火  母一人子一人の召されていった 
 1524 種田山頭火  馬も召されておぢいさんおばあさん 
 1525 種田山頭火  ほんに生まれて来たばかりの眼をあけて 
 1526 種田山頭火  いっしょにびっしょり汗かいて牛が人が 
 1527 種田山頭火  生きたくてドッコイショ唄うて歩く 
 1528 種田山頭火  みんな生きている音たてている 
 1529 種田山頭火  安か安か寒か寒か雪雪 
 1530 種田山頭火  蕗の薹のみどりもそへて小鳥の食卓 
 1531 種田山頭火  煮える音のよい日であったお粥 
 1532 種田山頭火  飯の白さの梅干の赤さたふとけれ 
 1533 種田山頭火  雪のしたたる水くんできてけふのお粥 
 1534 種田山頭火  いただいて足りて一人の箸をおく 
 1535 種田山頭火  ひとりにはなりきれない空をみあげる 
 1536 種田山頭火  心おさへて爪をきる 
 1537 種田山頭火  ふくろふはふくろふでわたしはわたしでねむれない 
 1538 種田山頭火  みんな去んでしまえば水音 去んで:いんで
 1539 種田山頭火  ひとりごといふ声のつぶれた 
 1540 種田山頭火  人が来たよな枇杷の葉のおちるだけ 
 1541 種田山頭火  張りかへた障子のなかの一人 
 1542 種田山頭火  うしろから月のかげする水をわたる 
 1543 種田山頭火  寝るよりほかない月を見てゐる 
 1544 種田山頭火  寝床まで月を入れ寝るとする 
 1545 種田山頭火  石へ月かげの落ちてきた 
 1546 種田山頭火  月へひとりの戸はあけとく 
 1547 種田山頭火  雪ふる火を焚いてひとり 
 1548 種田山頭火  誰も来ない木から木へすべる雪 
 1549 種田山頭火  雪のあかるさが家いっぱいのしずけさ 
 1550 種田山頭火  わが庵は雪のあしあとひとすじ 
 1551 種田山頭火  わらや雪とくる音のいちにち 
 1552 種田山頭火  こちらむいて椿いちりんしずかな机 
 1553 種田山頭火  夜はしぼむ花いけてひとりぐらし 
 1554 種田山頭火  寝てをれば花瓶の花ひらき 
 1555 種田山頭火  ぽっきり折れてそよいでゐる竹で 
 1556 種田山頭火  たべきれないちしゃの葉が雨をためている 
 1557 種田山頭火  ゆふ空から柚子の一つをもらふ 
 1558 種田山頭火  とんできたかよ蛍いっぴき 
 1559 種田山頭火  暗さ匂へばほたる 
 1560 種田山頭火  水に放つや寒鮒みんな泳いでゐる 
 1561 種田山頭火  ずんぶりと湯のあつくてあふれる 
 1562 種田山頭火  憂鬱を湯にとかさう 
 1563 種田山頭火  ひとりきりの湯で思ふこともない 
 1564 種田山頭火  まツぱだかを太陽にのぞかれる 
 1565 種田山頭火  よい湯からよい月へ出た 
 1566 種田山頭火  湯壺から桜ふくらんだ 
 1567 種田山頭火  あふるる朝湯のしずけさにひたる 
 1568 種田山頭火  ひとりの湯がこぼれる 
 1569 種田山頭火  どうでもこゝにおちつきたい夕月 
 1570 種田山頭火  涌いてあふれる中にねてゐる 
 1571 種田山頭火  投げて下さった一銭銅貨の寒い音だった 
 1572 種田山頭火  なかなか寒い朝から犬にほえられどうし 
 1573 種田山頭火  鉄鉢へ音たてて霰 
 1574 種田山頭火  木の葉に傘に音たてゝ霰 
 1575 種田山頭火  笠も漏りだしたか 
 1576 種田山頭火  大樟も私も犬もしぐれつゝ 
 1577 種田山頭火  風ごうごうまぎれずもわが尿の音 
 1578 種田山頭火  いちにちわれとわが足音を聴きつゝ歩む 
 1579 種田山頭火  ホイトウとよばれる村のしぐれかな 
 1580 種田山頭火  このさびしさは山のどこから枯れた風 
 1581 種田山頭火  何でこんなにさみしい風がふく 何でこんなにさみしい風ふく
 1582 種田山頭火  どうすることもできない矛盾を風がふく 
 1583 種田山頭火  風の中おのれを責めつつ歩く 
 1584 種田山頭火  何を求める風の中ゆく 
 1585 種田山頭火  すすきのひかりさえぎるものなし 
 1586 種田山頭火  大地にすわるすすきのひかり 
 1587 種田山頭火  かるかやへかるかやのゆれてゐる 
 1588 種田山頭火  かきつばた咲かしてながれる水のあふれる 
 1589 種田山頭火  枯れゆく草のうつくしさにすわる 
 1590 種田山頭火  波音のうららかな草がよい寝床 
 1591 種田山頭火  ここで寝るとする草の実がこぼれる 
 1592 種田山頭火  あるけば草の実すわれば草の実 
 1593 種田山頭火  草のうつくしさはしぐれつつしめやか 
 1594 種田山頭火  旅の人としてふるさとの言葉をきいてゐる 
 1595 種田山頭火  うまれた家はあとかたもないほうたる 
 1596 種田山頭火  ぬれてすずしくはだしであるく 
 1597 種田山頭火  曼珠沙華咲いてここがわたしの寝るところ 
 1598 種田山頭火  家を持たない秋がふかうなるばかり 
 1599 種田山頭火  雨ふるふるさとははだしであるく 雨ふるふるさとはなつかしい。はだしであるいてゐると、蹠(あしのうら)の感触が少年の夢をよびかえす 山頭火
 1600 荻原井泉水  みどりゆらゆらゆらめきて動く暁 
 1601 荻原井泉水  木の葉木の葉とおちる 
 1602 荻原井泉水  すずしくさくらさくらせせらぐ 
 1603 種田山頭火  踏みわける萩よすすきよ 
 1604 種田山頭火  いそいでもどるかなかなかなかな 
 1605 種田山頭火  降るままぬれるままであるく 
 1606 種田山頭火  一きれの雲もない空のさびしさまさる 
 1607 種田山頭火  山しづかなれば笠をぬぐ 
 1608 種田山頭火  水もさみしい顔を洗ふ 
 1609 種田山頭火  水のんでこの憂鬱のやりどころなし 
 1610 種田山頭火  水に影ある旅人である 
 1611 種田山頭火  水の色の湧いてくる 
 1612 種田山頭火  こころおちつけば水の音 
 1613 種田山頭火  分け入れば水音 
 1614 種田山頭火  はればれ酔うて草が青い 
 1615 種田山頭火  雨音のしたしさの酔うてくる 
 1616 種田山頭火  酒がやめられない木の芽草の芽 
 1617 種田山頭火  なみのおとのさくらほろほろ 
 1618 種田山頭火  こゝろ澄めば月草のほのかにひらく 月草:露草の古名
 1619 種田山頭火  空へ若竹のなやみなし 
 1620 種田山頭火  かうして旅する日日の木の葉ふるふる 
 1621 種田山頭火  おのれにこもる藪椿咲いては落ち 
 1622 種田山頭火  下車客五六人に楓めざましく 
 1623 種田山頭火  おちてはういてたゞよふ 
 1624 種田山頭火  椿の落ちる水の流れる 
 1625 種田山頭火  雨の椿の花が花へしづくして 
 1626 種田山頭火  道は前にある。
 まっすぐに行こう。
 まっすぐに行こう。
 
 1627 種田山頭火  日ざかり泣いても笑ふても一人 
 1628 種田山頭火  砂に足あとのどこまでつゞく 
 1629 種田山頭火  柳ちるいそいであてもない旅へ 
 1630 種田山頭火  ひょいと四国へ晴れきってゐる 
 1631 種田山頭火  酒飲めば涙ながるるおろかな秋ぞ 
 1632 種田山頭火  みんな出て征く山の青さのいよいよ青く 
 1633 種田山頭火  警笛鳴りわたる草からてふてふ 
 1634 種田山頭火  をべしをみなへしと咲きそろふべし 
 1635 種田山頭火  灯に灯が、海峡の月冴えてくる 
 1636 種田山頭火  たれもかへる家はあるゆうべのゆきき 
 1637 種田山頭火  こゝろむなしくあらうみのよせてはかへす 
 1638 種田山頭火  春の雪ふる女はまことにうつくしい 
 1639 種田山頭火  はてしなくさみだるる空がみちのく 
 1640 種田山頭火  いつもの豆腐でみんなはだかで 
 1641 種田山頭火  ほっかりとぬけた歯で年とった 
 1642 種田山頭火  たった一本の歯がいたみます 
 1643 種田山頭火  ぬけさうな歯を持って旅にをる 
 1644 種田山頭火  雨だれの音も年とった 
 1645 種田山頭火  雪の法衣の重うなる 
 1646 種田山頭火  橋を渡ってから乞ひはじめる 
 1647 種田山頭火  柳ちるそこから乞ひはじめる 
 1648 種田山頭火  吠えつゝ犬が村はずれまで送ってくれた 
 1649 種田山頭火  物乞うとシクラメンのうつくしいこと 
 1650 種田山頭火  ひょいと穴から、とかげかよ 
 1651 種田山頭火  あざみあざやかなあさのあめあがり 
 1652 種田山頭火  虱も蚤もいっしょに寝ませう 
 1653 種田山頭火  枯草の日向で虱とらう 
 1654 種田山頭火  虱がとりつくせない旅から旅 
 1655 種田山頭火  飲んで食べて寝そべれば蛙の合唱 
 1656 尾崎放哉  明日からは禁酒の酒がこぼれる 
 1657 種田山頭火  炎天をいただいて乞ひ歩く 
 1658 尾崎放哉  やせたからだを窓に置き船の汽笛 
 1659 尾崎放哉  一つの湯飲みを置いてむせてゐる 
 1660 種田山頭火  鴉鳴いてわたしも一人 
 1661 尾崎放哉  板敷に夕餉の両膝をそろえる 
 1662 尾崎放哉  こんな良い月を一人で見て寝る 
 1663 尾崎放哉  いれ物がない両手で受ける 
 1664 尾崎放哉  咳をしても一人 
 1665 尾崎放哉  谷底に只白く見ゆる流れかな 
 1666 種田山頭火  雨にうたれてよみがへったか人も草も 
 1667 種田山頭火  ずんぶり詩たる一日のをはり 
 1668 種田山頭火  ぞんぶんに湧いてあふれる湯をぞんぶんに 
 1669 種田山頭火  ま昼ひろくて私ひとりにあふれる湯 
 1670 種田山頭火  月が酒がからだいっぱいのよろこび 
 1671 種田山頭火  窓に迫る巨船あり河豚鍋の宿 
 1672 種田山頭火  吾妹子の肌なまめかしなつの蝶 吾妹子:わぎもこ 男性が妻や恋人を、また一般に、女性を親しみの気持ちを込めて呼ぶ語
 1673 種田山頭火  柚子をもぐ朝蜘の晴れてゆく 
 1674 種田山頭火  大楠も私も犬もしぐれつゝ 
 1675 種田山頭火  右近の橘の実のしぐるゝや 
 1676 種田山頭火  しぐれて反橋二つ渡る 
 1677 種田山頭火  雲の如く行き
 水の如く歩み
 風の如く去る
     一切空 
 1678 種田山頭火  水音の山門をくゞる水音 
 1679 種田山頭火  琴がならべてある涼しい風 
 1680 種田山頭火  盛り花がおちてゐるコクトオ詩抄 コクトオ:二十歳で才気あふれる詩人として文壇にデビュー
 1681 種田山頭火  まったく雲がない笠をぬぎ 
 1682 種田山頭火  稲妻する過去を清算しやうとする 
 1683 種田山頭火  花いばらこゝの土とならうよ 
 1684 種田山頭火  焼き捨てゝ日記の灰のこれだけか 
 1685 種田山頭火  秋風のふるさと近うなった 
 1686 種田山頭火  ひぐるる土をふみしめていく 
 1687 種田山頭火  しずけさや死ぬるばかりの水がながれて 
 1688 種田山頭火  しとどに濡れてこれは道しるべの石 
 1689 種田山頭火  一すじの煙悲しや日輪しずむ 
 1690 種田山頭火  しぐるる土を踏みしめてゆく 
 1691 種田山頭火  水音のやや寒い朝のながれくる 
 1692 石田波郷  ふりそそぐ日の戯れて朱欒もぐ 朱欒:ざぼん
 1693 石田波郷  畦木立ち落穂拾ひがひろひ立つ 
 1694 石田波郷  一抹の海見ゆ落穂拾ひかな 
 1695 石田波郷  鵙ゆきて稲田の幣にとまりけり 幣:ぬさ へい
 1696 石田波郷  穂麦の野川ゆき川の水やさし 
 1697 渡邊水巴  若竹の高さすぐれたり秋の空 
 1698 渡邊水巴  妻も来よ一つ涼みの露の音 
 1699 渡邊水巴  茨の芽に日深き山の二月かな 
 1700 渡邊水巴  茶を焙る我と夜明けし雛かな 
 1701 渡邊水巴  行年の山へ道あり枯茨 
 1702 渡邊水巴  夕映に何の水輪や冬紅葉 
 1703 渡邊水巴  紫陽花を鳴らす鶲の時雨かな 
 1704 渡邊水巴  短夜や引汐早き草の月 
 1705 渡邊水巴  大藪の揺るる夜空や花の雨 
 1706 渡邊水巴  柴漬を揚ぐる人あり花の雨 
 1707 尾崎放哉  寝て聞けば遠き昔を鳴く蚊かな 
 1708 尾崎放哉  鶏頭や紺屋の庭に紅久し 
 1709 尾崎放哉  枯野原見覚えのある一路哉 
 1710 尾崎放哉  別れ来て淋しさに折る野菊かな 
 1711 尾崎放哉  返り花あからさまなる梢かな 
 1712 尾崎放哉  餌をやる人に鶴舞ふ初日かな 
 1713 尾崎放哉  稲妻や豊年祭過ぎし空 
 1714 尾崎放哉  夕立や渚晴れゆく波高し 
 1715 前田普羅  勧進の鈴ききぬ春も遠からじ 
 1716 前田普羅  山寺の局造りや鳳仙花 
 1717 前田普羅  桔梗や一群過ぎし手長蝦 
 1718 前田普羅  菊切るや唇荒れて峯高し 
 1719 前田普羅  虫なくや我れと湯を呑む影法師 
 1720 前田普羅  新涼や豆腐驚く唐辛 
 1721 前田普羅  夏草を搏ちては消ゆる嵐哉 
 1722 前田普羅  若竹に風雨駆けるや庭の奥 
 1723 前田普羅  羽抜鳥高き巌に上りけり 
 1724 前田普羅  月さすや沈みてありし水中花 
 1725 前田普羅  夏山や二階なりける杣の宿 
 1726 前田普羅  春更けて諸鳥啼くや雲の上 
 1727 山口青邨  凌霄花落ちてかかるや松の上 凌霄花:のうぜんかずら
 1728 山口青邨  まだ早き牡丹ばたけをひとめぐり 
 1729 山口青邨  五月雨の水につと見る鯰かな 
 1730 山口青邨  山里や植田しづかに閑古鳥 
 1731 山口青邨  葉一枚折れてうかべる花菖蒲 
 1732 山口青邨  水の音聞ゆる室やあらひ鯉 
 1733 山口青邨  紫陽花や朽ちたるごとく家ありぬ 
 1734 山口青邨  新緑や空わたりゆく蝶々かな 
 1735 山口青邨  芍薬や雨にくづれて八方に 
 1736 石田波郷  芋掘りて疲れたる夜の筆づかひ 
 1737 石田波郷  散るさくら空には夜の雲愁ふ 
 1738 石田波郷  浅き水のおほかたを蝌蚪のもたげたる 
 1739 石田波郷  草萌や野焼の跡のすでに濃き 
 1740 石田波郷  田植どき夜は月かげ田をわたり 
 1741 石田波郷  噴水のしぶけり四方に風の街 
 1742 石田波郷  虹たつやとりどり熟れしトマト園 
 1743 石田波郷  朝の虹ひとり仰げる新樹かな 
 1744 村上鬼城  鶯や隣へ逃げる薮つづき 
 1745 村上鬼城  吼えて遠くなりけり猫の恋 
 1746 村上鬼城  とけて浮く氷の影や水の底 
 1747 村上鬼城  道端に縄垣したり罌粟の花 罌粟:けし
 1748 村上鬼城  酒飲まぬ豪傑もあり柏餅 
 1749 村上鬼城  菖蒲かけて雀の這入る庇かな 
 1750 村上鬼城  衣更野人鏡を持てりけり 
 1751 村上鬼城  玄関に大きな鉢の牡丹かな 
 1752 日野草城  竿のものしきりに乾く残暑かな 
 1753 日野草城   松大樹残暑の影を横たふる 
 1754 日野草城   楠の木のとはの翠や秋高し 
 1755 日野草城   夕風に涼しく撓むポプラかな 
 1756 河東碧梧桐  夏帽を吹きとばしたる蓮見かな 
 1757 河東碧梧桐  ひたひたと春の潮打つ鳥居哉 
 1758 河東碧梧桐  大仏を写真に取るや春の山 
 1759 河東碧梧桐  植木屋の海棠咲くや棕梠の中 
 1760 河東碧梧桐  三月を引くとも見えで波のうつ 
 1761 河東碧梧桐  菜の花に汐さし上る小川かな 
 1762 河東碧梧桐  苗代と共にそだつる蛍かな 
 1763 河東碧梧桐  田螺鳴く二条御門の裏手かな 
 1764 河東碧梧桐  桃さくや湖水のへりの十箇村 
 1765 河東碧梧桐  薮入のさびしく戻る小道かな 
 1766 富田木歩  七夕や髪に結ひ込む藤袴 
 1767 富田木歩  暮れぎはの家並かたぶく雪しづれ 
 1768 各務支考  木曽は今さくらもさきぬ夏大根 
 1769 各務支考  椿踏む道や寂寞たるあらし 
 1770 各務支考  簔笠に露けき宿の桑子哉 
 1771 各務支考  ちりぢりに春やぼたんの花の上 
 1772 種田山頭火  しぐれて道しるべその字が読めない 
 1773 種田山頭火  からだ投げだしてしぐるる山 
 1774 種田山頭火  しぐれて山をまた山を知らない山 
 1775 種田山頭火  死をひしひしと水のうまさかな 
 1776 種田山頭火  なかなか死ねない彼岸花さく 
 1777 種田山頭火  歩るくほかない秋の雨ふりつのる 
 1778 種田山頭火  松の木松の木としぐれてゐる 
 1779 種田山頭火  おたたしぐれてすたすたいそぐ 
 1780 種田山頭火  しぐれて柿の葉のいよいようつくしく 
 1781 種田山頭火  しぐれ笠でおとなりへ水をもらひに 
 1782 種田山頭火  月夜しぐれて春ちかくなる音 
 1783 種田山頭火  朝早くしぐるる火を焚いてゐる 
 1784 種田山頭火  鴉とんでゆく水をわたらう 
 1785 種田山頭火  ちんぽこもおそそも湧いてあふれる湯 
 1786 種田山頭火  水をへだててをなごやの灯がまたたきだした 
 1787 種田山頭火  水音といっしょに里へ下りて来た 
 1788 種田山頭火  しぐれてぬれて待つ人がきた 
 1789 種田山頭火  朝からしぐれて柿の葉のうつくしさは 
 1790 種田山頭火  おとはしぐれか 
 1791 種田山頭火  ここまでを来し水飲んで去る 平泉は知り合いのいない町なので飲みはぐれた
 1792 三橋敏雄  行雁や港港に大地ありき 
 1793 三橋敏雄  日にいちど入る日は沈み信天翁 
 1794 三橋敏雄  箸の木や伐り倒されて横たはる  
 1795 三橋敏雄  父母や青杉の幹かくれあふ 
 1796 三橋敏雄  こがらしや壁の中から藁がとぶ 
 1797 三橋鷹女  かなしみに女は耐ふべし雲雀鳴く 
 1798 三橋鷹女  山笑ふ吾子の饒舌谺を呼び 
 1799 三橋鷹女  ひとひらの雲ゆき散れり八重桜 
 1800 三橋鷹女  春林檎食みちらばして夜更けたり 
 1801 三橋鷹女  東風の窓子に教ふべきこと尽きじ 
 1802 三橋鷹女  春昼に耐へてましろき鰈を焼く 
 1803 三橋鷹女  春は侘し場末にひとり見る映画 
 1804 中川乙由  うき草や今朝はあちらの岸に咲く 
 1805 中川乙由  蝶々は掃ぬ埃や雛あそび 
 1806 中川乙由  涼しさや夢もぬけ行く籠枕 
 1807 富田木歩  青蘆に家の灯もるゝ宵の程 
 1808 富田木歩  行く春や蘆間の水の油色 
 1809 富田木歩  蘆の中に犬鳴き入りぬ遠蛙 
 1810 富田木歩  蝙蝠の家脚くゞる蘆の風 
 1811 富田木歩  躑躅植ゑて夜冷えする庭を忘れけり 
 1812 富田木歩  汽車音の若葉に籠る夕べかな 
 1813 富田木歩  新聞に鳥影さす庭若葉かな 
 1814 富田木歩  杉の芽に蝶つきかねてめぐりけり 
 1815 三橋鷹女  蕗の葉に日輪躍る初夏は来ぬ 
 1816 山口誓子  青みどろえりにかわきて初夏暑き 
 1817 山口誓子  生きものゝおどろく初夏の水ばかり 
 1818 山口誓子  初夏を出て蜥蜴はいまだ軟かき 
 1819 山口誓子  初夏の日に手足ひからせ生きむとす  
 1820 星野立子  たのしみの有田に人りぬ町は初夏 
 1821 子規  夕顔に昔の小唄あはれなり 
 1822 虚子  老いてなお稽古大事や謡初 
 1823 虚子  追分を聞いて冬海を明日渡る 
 1824 虚子  川狩の謡もうたふ仲間かな 
 1825 西東三鬼  首かしげおのれついばみ寒鴉 
 1826 西東三鬼  落葉して木々りんりんと新しや 
 1827 西東三鬼  限りなく降る雪何をもたらすや 
 1828 西東三鬼  中年や独語おどろく冬の坂  
 1829 西東三鬼  みな大き袋を負へり雁渡る 
 1830 西東三鬼  空港の青き冬日に人あゆむ 
 1831 西東三鬼  秋の雨直下はるかの海濡らす 
 1832 西東三鬼  緑蔭に三人の老婆わらへりき 
 1833 安住敦  凭らざりし机の塵も六日かな 凭:もたれ
 1834 安住敦  恋猫の身も世もあらず啼きにけり 
 1835 安住敦  春昼や魔法の利かぬ魔法瓶 
 1836 安住敦  舞ふ獅子にはなれて笛を吹けりけり 
 1837 安住敦  届きたる歳暮の鮭を子にもたす 
 1838 安住敦  雪の降る町といふ唄ありし忘れたり 
 1839 安住敦  ある晴れた日につばくらめかへりけり 
 1840 安住敦  蓑虫の出来そこなひの蓑なりけり 
 1841 安住敦  啓蟄の庭とも畠ともつかず 
 1842 安住敦  でで虫や父の記憶はみな貧し 
 1843 安住敦  鯛焼のあつきを食むもわびしからずや 
 1844 富田木歩  街の子の花売の真似秋立てり 
 1845 富田木歩  蜆売りに銭かへてやる夏の夕 
 1846 富田木歩  我が肩に蜘蛛の糸張る秋の暮 
 1847 富田木歩  籠の鶏に子の呉れてゆくはこべかな 
 1848 富田木歩  夢に見れば死もなつかしや冬木風 
 1849 富田木歩  日のたゆたひ湯の如き家や木々芽ぐむ 
 1850 富田木歩  背負はれて名月拝す垣の外 
 1851 木村蕪城  受験児の横たへおける松葉杖 
 1852 木村蕪城  高原の秋運転手ギター弾く 
 1853 木村蕪城  おふくろの今年あらざる秋刀魚かな 
 1854 木村蕪城  雲動き竹林に蝉こぼれ飛び 
 1855 木村蕪城  風船やかかる男のなりはひに 
 1856 三橋敏雄  座して待つ次なる大震火災此処 
 1857 三橋敏雄  いっせいに柱の燃ゆる都かな 
 1858 子規  古沼の境もなしに氷かな 
 1859 子規  ながながと冬田に低し雁の列 
 1860 子規  麦の芽のほのかに青し朝の霜 
 1861 子規  染汁の紫こほる小川かな 
 1862 子規  木のうろに隠れうせけりけらつゝき 
 1863 子規  皮剥けば青けむり立つ蜜柑かな 
 1864 子規  浪ぎはへ蔦はひ下りる十余丈 
 1865 子規  末枯や覚束なくも女郎花 
 1866 子規  草履の緒きれてよりこむ薄かな 
 1867 子規  馬の尾をたばねてくゝる薄かな 
 1868 子規  沓の代はたられて百舌鳥の声悲し 
 1869 子規  肌寒や馬いばひあふつゞら折 
 1870 子規  鼻たれの兄と呼ばるゝ夜寒かな 
 1871 子規  唐きびのからでたく湯や山の宿 唐秬のからでたく湯や山の宿
 1872 子規  闇の雁手のひら渡る峠かな 
 1873 子規  枯れ柴にくひ入る秋の蛍かな 
 1874 子規  稲刈もふじも一つに日暮れけり 
 1875 子規  水晶のいはほに蔦の錦かな 蔦:つた
 1876 子規  鶺鴒やこの笠たゝくことなかれ 鶺鴒:せきれい
 1877 子規  面白やどの橋からも秋の不二 
 1878 子規  槍立てゝ通る人なし花芒 
 1879 子規  伊豆相模もわかず花すゝき 
 1880 子規  大方はすゝきなりけり秋の山 
 1881 子規  紅葉する木立もなしに山深し 
 1882 子規  山姥の力餅売る薄かな 
 1883 子規  店さきの柿の実つゝく烏かな 
 1884 子規  犬蓼の花くふ馬や茶の煙 
 1885 子規  樵夫二人だまつて霧をあらはるゝ 
 1886 子規  石原に痩せて倒るゝ野菊かな 
 1887 子規  どっさりと山駕籠おろす野菊かな 
 1888 子規  秋の雲滝をはなれて山の上 
 1889 子規  色鳥の声をそろへて渡るげな 
 1890 子規  我なりを見かけて鵯の鳴くらしき 
 1891 子規  だまされてわるい宿とる夜寒かな 
 1892 子規  草山の奇麗に枯れてしまひけり 
 1893 子規  谷底にとどきかねたる落ち葉かな 
 1894 子規  掘割の道じくじくと落葉かな 
 1895 子規  暁の氷すり砕く硯かな 
 1896 子規  人住まぬ屋敷の池の氷かな 
 1897 子規  桃源の路次の細さよ冬籠 
 1898 子規  冬ごもり仏にうときこゝろ哉 
 1899 子規  居眠りて我にかくれん冬ごもり 
 1900 子規  戸に犬の寝がへる音や冬籠 
 1901 子規  なかなかに病むを力の冬ごもり 
 1902 子規  冬ごもり煙のもるる壁の穴 
 1903 子規  隠れ家のものものしさよ百合の花 
 1904 子規  別れとて片隅はづす蚊帳かな 
 1905 子規  次の夜は蛍やせたり籠の中 
 1906 子規  涼しさや石燈籠の穴も海 
 1907 子規  冬ごもり世間の音を聞いている 
 1908 子規  雲のぞく障子の穴や冬ごもり 
 1909 子規  暗き町やたまたま床屋氷店 
 1910 子規  葉隠れに小さし夏の桜餅 
 1911 子規  葉桜や昔の人と立咄 
 1912 子規  涼しさや川を隔つる灯は待乳 
 1913 子規  渡し場に灯をともしたる茂りかな 
 1914 子規  葉桜に夜は茶屋無し隅田川 
 1915 子規  夕涼み石炭くさき風が吹く 
 1916 子規  金持は涼しき家に住みにけり 
 1917 子規  泳ぎ場に人の残りや夏の月 
 1918 子規  贅沢な人の涼みや柳橋 
 1919 子規  鷺の立つ中洲の草や川涼し 
 1920 子規  町暑し蕎麦屋下宿屋君が家 
 1921 子規  葉柳に埃をかぶる車上かな 
 1922 子規  時計屋も夏桃店も埃かな 
 1923 子規  五年見ぬ山の茂りや両大師 
 1924 子規  石像に蠅もとまらぬ鏡かな 
 1925 子規  葉鶏頭の苗養ふや絵師が家 
 1926 子規  狸さへ蟇さへ住まずなりにけり 
 1927 子規  扇持たずもとより羽織などは着ず 
 1928 子規  月の根岸闇の上野や別れ道 
 1929 子規  白露の三河島村灯ちらちら 
 1930 子規  山ぞひや帽子の端にきりぎりす 
 1931 子規  一行に絵かきもまじる月夜かな 
 1932 子規  杉暗し月にこぼるゝ井戸の水 
 1933 子規  月高く樹にあり下は水の音 
 1934 子規  茶屋あらはにともし火立つや霧の中 
 1935 子規  議論とて秋の団扇を手のちから 
 1936 子規  鯛の茶屋静かなる木の間かな 
 1937 子規  鯛や杉の葉重ね路凹し 
 1938 子規  唐黍に背中打たるゝ湯あみかな 
 1939 子規  祭見に狐も尾花かざし来よ 
 1940 子規  一日の秋にぎやかに祭りかな 
 1941 子規  初秋の石壇高し杉木立 
 1942 内藤鳴雪  初秋の食に魚なし京の町 
 1943 子規  朝顔やわれ未だ起きずと思ふらん 
 1944 子規  石段は常盤木の落葉ばかりなり 
 1945 子規  大木の注連に蝉鳴く社かな 注連:まま
 1946 子規  木下闇電信の柱新らしき 
 1947 子規  松葉落ちて雀鳴くなり観音寺 
 1948 子規  朝顔や野茶屋の垣根まばらなり 
 1949 子規  田の中に蓮咲きけり家二つ三つ 
 1950 子規  路三叉草茂りけり石地蔵 
 1951 子規  水草の泥に花さく旱かな 
 1952 子規  夏川の泥に嘴入るゝ家鴨かな 
 1953 子規  夏柳家鴨やしなふ小池かな 
 1954 子規  横雲に朝日の漏るゝ青田かな 
 1955 子規  涼しさのはや穂に出てゝ早稲の花 
 1956 子規  かたよりて右は箕の輪の茂りかな 
 1957 子規  夏木立村あるべくも見えぬかな 
 1958 子規  蚊の声もよわる小道の夜明かな 
 1959 子規  句を閲すラムプの下や柿二つ 閲す:えっす けみする 調べる。見て確かめる。
 1960 子規  夏草やベースボールの人遠し 
 1961 子規  鰻まつ間をいく崩れ雲の峰 
 1962 坪内稔典  帰るのはそこ晩秋の大きな木 
 1963 上田五千石  太郎に見えて次郎に見えぬ狐火や 
 1964 森澄雄  妊りて紅き日傘を小さくさす 
 1965 飯田龍太  黒猫の子のぞろぞろと月夜かな 
 1966 能村登四郎  やはり死は寂しとて食ふ酢牡蛎かな 
 1967 能村登四郎  紙魚ならば棲みてもみたき一書あり 
 1968 能村登四郎  すこしづつ死す大脳のおぼろかな 
 1969 能村登四郎  辛夷咲く死の明るさもこれ位 
 1970 鈴木真砂女  春寒くこのわた塩に馴染みけり 
 1971 大野林火  鴨群るるさみしき鴨をまた加え 
 1972 大野林火  雪の水車ごつとんことりもう止むか 
 1973 三好達治  冬といふ日向に鶏の座りけり 
 1974 三好達治  水に入るごとくに蚊帳をくぐりけり 
 1975 秋元不死男  獄凍てぬ妻きてわれに礼をなす 
 1976 秋元不死男  冷されて牛の貫禄しづかなり 
 1977 西東三鬼  秋の暮大魚の骨を海が引く 
 1978 篠原鳳作  自画像の青きいびつの夜ぞ更けぬ 
 1979 富沢赤黄男  潮すゞし錨は肱をたてゝ睡る 
 1980 富沢赤黄男  石の上に秋の鬼ゐて火を焚けり 
 1981 富沢赤黄男  蝶墜ちて大音響の結氷期 
 1982 日野草城  ところてん煙の如く沈み居り 
 1983 日野草城  薔薇色のあくびを一つ烏猫 
 1984 石田波郷  蚊を博って頬やはらかく癒えしかな 
 1985 石田波  蚊を博 
 1986 篠原梵  閉ぢし翅しづかにひらき蝶死にき 翅:はね
 1987 篠原梵  葉桜の中の無数の空さわぐ 
 1988 柴田白葉女  日向ぼこ人死ぬはなし片耳に 
 1989 柴田白葉女  春の星ひとつ潤めばみなうるむ 
 1990 星野立子  花火上るはじめの音は静かなり 
 1991 仲村汀女  バラ散るや己がくづれし音の中 
 1992 三橋鷹女  みんな夢雪割草咲いたのね 
 1993 川畑茅舎  桜鯛かなしき目玉くはれけり 
 1994 山口誓子  蟋蟀が深き地中を覗き込む 
 1995 長谷川かな女  虫とんでそのまゝ消えぬ月の中 
 1996 長谷川かな女  藻をくぐって月下の魚となりにけり 
 1997 荻原井泉水  はっしと蚊を おのれの血を打つ 途中 1桁空ける
 1998 荻原井泉水  月光しみじみこおろぎ雌を抱くなり 
 1999 荻原井泉水  空をあゆむ朗朗と月ひとり 
 2000 富安風生  赤富士のぬうっと近き面構え 
   [2/11] 

   ページのトップへ戻る   俳句メニュー