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著名な俳句の検索 |
著名な作者の作品集です。書籍やWEBサイトを参考にしながら整備中です。 |
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(検索ワードは 俳句 作者 説明を対象に検索します) |
作品番号 | 作者 | 俳句 | 説明 | |
1001 | 種田山頭火 | あるだけの酒のんで寝る月夜 | ||
1002 | 種田山頭火 | そよいでる棕梠竹の一本を伐る | ||
1003 | 種田山頭火 | ボタ山なつかしい雨となった | ||
1004 | 種田山頭火 | さみしさ、あつい湯にはいる | ||
1005 | 種田山頭火 | こゝに住みたい水をのんで去る | ||
1006 | 種田山頭火 | ほろりとぬけた歯ではある | ||
1007 | 種田山頭火 | 一杯やりたい夕焼空 | ||
1008 | 種田山頭火 | よう寝られた朝の葉ぼたんを観て歩く | ||
1009 | 種田山頭火 | やっと見つけた寝床の夢も | ||
1010 | 種田山頭火 | 二本一銭の食べきれない大根である | ||
1011 | 種田山頭火 | 豊年のよろこびとくるしみが来て | ||
1012 | 種田山頭火 | こんなに米がとれても食へないといふのか | ||
1013 | 種田山頭火 | 八番目の子が泣きわめく母の夕べ | ||
1014 | 種田山頭火 | 傾いた屋根の下には労れた人々 | ||
1015 | 種田山頭火 | 投げ与へられた一銭のひかりだ | ||
1016 | 種田山頭火 | 浪の音たえずしてふる郷遠し | ||
1017 | 種田山頭火 | こゝで泊らうつくつくぼうし | ||
1018 | 種田山頭火 | 炎天の下を何処へ行く | ||
1019 | 種田山頭火 | 毒薬をふところにして天の川 | ||
1020 | 種田山頭火 | 蝉しぐれ死に場所をさがしてゐるのか | ||
1021 | 種田山頭火 | 石仏しぐれ仏を撫でる | ||
1022 | 種田山頭火 | 雨の山茶花の散るでもなく | ||
1023 | 種田山頭火 | 稲穂明るう夫婦で刈ってゐる | ||
1024 | 種田山頭火 | 十何年過ぎ去った風の音 | ||
1025 | 種田山頭火 | お経あげてお墓をめぐる | ||
1026 | 種田山頭火 | いこへば梅の香のある | ||
1027 | 種田山頭火 | 鶯よう啼いてくれるひとり | ||
1028 | 尾崎放哉 | 入れものがない両手で受ける | ||
1029 | 尾崎放哉 | 底がぬけた杓て水を呑もうとした | ||
1030 | 種田山頭火 | 松風に明暮れの鐘撞いて | ||
1031 | 種田山頭火 | 蝶ひとつ飛べども飛べども石原なり | ||
1032 | 種田山頭火 | 哀しみ澄みて煙まっすぐに昇る | ||
1033 | 種田山頭火 | 月澄むほどにわれとわが影踏みしめる | ||
1034 | 種田山頭火 | とんぼ捕ろ捕ろその児のむれにわが子なし | ||
1035 | 種田山頭火 | 父子ふたり水をながめつ今日も暮れゆく | ||
1036 | 種田山頭火 | 林檎かぢる児に冬日あたゝけれ | ||
1037 | 種田山頭火 | 子連れては草も摘むそこら水の音 | ||
1038 | 種田山頭火 | 野菊たゞに摘む児が顔に薄日して | ||
1039 | 種田山頭火 | 月見入る子が寝入れば月が顔照らす | ||
1040 | 種田山頭火 | 泣いて戻りし子には明るきわが家の灯 | ||
1041 | 種田山頭火 | 釣りつ来しが青東風に馴らす馬見をり | ||
1042 | 種田山頭火 | 物みなに慊らず夕立待ちてあり | 慊らず:あきたらず | |
1043 | 種田山頭火 | 壁書さらに「黙」の字をませり松の内 | ||
1044 | 種田山頭火 | 君を送る急行列車柿渋き云ふ | ||
1045 | 種田山頭火 | 月のぼりぬ夏草々の香を放つ | ||
1046 | 種田山頭火 | 雪、最初の足あとで行く | ||
1047 | 種田山頭火 | 咲いては落ちる椿の情熱をひらふ | ||
1048 | 種田山頭火 | あうたりわかれたりさみだるる | ||
1049 | 種田山頭火 | 秋の朝の土へうちこみうちこむ | ||
1050 | 種田山頭火 | 何か足らないものがある落葉する | ||
1051 | 種田山頭火 | 山暮れて山の声を聴く | ||
1052 | 種田山頭火 | 雪へ足跡もがっしりとゆく | ||
1053 | 種田山頭火 | 炎天のはてもなく蟻の行列 | ||
1054 | 種田山頭火 | ぬれてもかまはない道のまっすぐ | ||
1055 | 種田山頭火 | たへがたくなり踏みあるく草の咲いてゐる | ||
1056 | 種田山頭火 | 旅のつかれの、何かおとしたような | ||
1057 | 種田山頭火 | こころなぐさまない春雪やあるいてもあるいても | ||
1058 | 種田山頭火 | 秋のたより一束おっかけてゐた | ||
1059 | 種田山頭火 | この汽車通貨、青田嵐 | ||
1060 | 種田山頭火 | 急行はとまりません日まわりの花がある駅 | ||
1061 | 種田山頭火 | ひろげて涼しい地図の、あちこち歩いた線 | ||
1062 | 種田山頭火 | 春はいちはやく咲きだしてうすむらさき | ||
1063 | 種田山頭火 | ゆらいで梢もふくらんできたやうな | ||
1064 | 種田山頭火 | 竹になったのも竹の子も竹の中 | ||
1065 | 種田山頭火 | からすを呼んでいるのがからす | ||
1066 | 種田山頭火 | ぬいてもぬいても草の執着をぬく | ||
1067 | 種田山頭火 | ゆきふるだまってゐる | ||
1068 | 種田山頭火 | ふるよりつむは杉の葉の雪 | ||
1069 | 種田山頭火 | そこに鳥がゐる黙ってあるく鳥 | ||
1070 | 種田山頭火 | 何もかも雑炊としてあたたかく | ||
1071 | 種田山頭火 | もどるより水を火を今日の米をたき | ||
1072 | 種田山頭火 | 虫もたべる物がない本を食べたか | ||
1073 | 種田山頭火 | 雨を受けて桶いっぱいの美しい水 | ||
1074 | 尾崎放哉 | 肉がやせて来る太い骨である | ||
1075 | 尾崎放哉 | どっさり春の終りの雪ふり | ||
1076 | 尾崎放哉 | 渚白い足出し | ||
1077 | 尾崎放哉 | 春が来たと大きな新聞広告 | ||
1078 | 尾崎放哉 | 雨の舟岸によりて来る | ||
1079 | 尾崎放哉 | 掛取も来てくれぬ大晦日も独り | ||
1080 | 尾崎放哉 | 明日は元日が来る仏とわたくし | ||
1081 | 尾崎放哉 | 月夜の葦が折れとる | ||
1082 | 尾崎放哉 | 雨萩に降りて流れ | ||
1083 | 尾崎放哉 | 雪の頭巾の眼を知ってる | ||
1084 | 種田山頭火 | わらやねふけてぬくい雨のしづくする | ||
1085 | 種田山頭火 | 忘れ得ぬ面影や秋晴れの宿 | ||
1086 | 種田山頭火 | 旅程変えばやなど薫風に草鞋とく | ||
1087 | 荻原井泉水 | われ一口犬一口のパンがおしまい | ||
1088 | 荻原井泉水 | 眼をつむって眠る人形と雪の夜寝ている | ||
1089 | 荻原井泉水 | どちら見ても山頭火が歩いた山の秋の雲 | ||
1090 | 荻原井泉水 | 誰とて黙ってただただ雪降る世相か | ||
1091 | 荻原井泉水 | 咲き出づるや桜さくらと咲きつらなり | ||
1092 | 荻原井泉水 | わらやふるゆきつもる | わらや:藁屋根 | |
1093 | 荻原井泉水 | 月光ほろほろ風鈴に戯れ | ||
1094 | 荻原井泉水 | 馬よ人間の笠から耳を出して | ||
1095 | 荻原井泉水 | 筆採る我にひそと炭つぐ母かなし | ||
1096 | 種田山頭火 | あの雲がおとした雨にぬれてゐる | ||
1097 | 種田山頭火 | 朝湯こんこんあふるるまんなかのわたくし | ||
1098 | 種田山頭火 | 朝焼雨ふる大根まかう | ||
1099 | 種田山頭火 | 秋ふかう水音がきこえてくる | ||
1100 | 種田山頭火 | 秋の空高く巡査に叱られた | ||
1101 | 種田山頭火 | 秋の蚊のないてきてはたゝかれる | ||
1102 | 種田山頭火 | 秋兎死はくさぶえを吹く | ||
1103 | 種田山頭火 | 青草に寝ころぶや死を感じつゝ | ||
1104 | 種田山頭火 | わかれわかれにわかれゆく太陽を仰ぎつつ | ||
1105 | 種田山頭火 | この秋ことに切ない風ふく | ||
1106 | 種田山頭火 | 石を枕に秋の雲ゆく | ||
1107 | 種田山頭火 | とぼしいくらしの、水の流るる | ||
1108 | 種田山頭火 | トマトを掌に、みほとけのまへにちちははのまへに | 掌:て | |
1109 | 種田山頭火 | 蠅を打ち蚊を打ち我を打つ | ||
1110 | 種田山頭火 | あすはお正月の一りんひらく | ||
1111 | 種田山頭火 | なむあみだぶつなむあみだぶつみあかしままたく | ||
1112 | 種田山頭火 | 泊るところがないどかりと暮れた | ||
1113 | 種田山頭火 | 波音かすかにどうにかならう | ||
1114 | 種田山頭火 | 南無観世音おん手したたる水の一すぢ | ||
1115 | 種田山頭火 | 母よ、しみじみ頭陀袋かけるとき | 頭陀袋:ふくろ | |
1116 | 種田山頭火 | それは死の前のてふてふの舞 | ||
1117 | 種田山頭火 | うどん供へて、母よ、わたくしもいただきまする | ||
1118 | 種田山頭火 | その桃が実となり、君すでに亡し | ||
1119 | 種田山頭火 | さすらひの果てはいづくぞ衣がへ | ||
1120 | 種田山頭火 | ことしも暮れる火吹竹ふく | ||
1121 | 種田山頭火 | 春風の扉ひらけば南無阿弥陀仏 | ||
1122 | 種田山頭火 | けふの日までは生きて来た寒い風が吹く | ||
1123 | 種田山頭火 | あれはふるさとの山なみか雪ひかる | ||
1124 | 種田山頭火 | 明日は死屍となる爪を切る | ||
1125 | 種田山頭火 | お父さんお母さん秋が晴れました | ||
1126 | 種田山頭火 | 青葉分け行く良寛さまも行かしたろ | ||
1127 | 種田山頭火 | 生きてしづかな寒鮒もろた | ||
1128 | 種田山頭火 | 鴉啼いたとて誰もきてはくれない | ||
1129 | 種田山頭火 | 浅間は千曲はゆふべはそゞろ寒い風 | ||
1130 | 種田山頭火 | 風かをる信濃の国の水のよろしさ | ||
1131 | 種田山頭火 | 若葉に月が、をんなはまことうつくしい | ||
1132 | 種田山頭火 | 死をまえに涼しい風 | ||
1133 | 種田山頭火 | 死にたいときに死ぬるがよろしい水仙匂ふ | ||
1134 | 種田山頭火 | それもよかろう草が咲いてゐる | ||
1135 | 種田山頭火 | ともかく生かされてはゐる雑草の中 | ||
1136 | 種田山頭火 | 風がふきぬけるころりと死んでゐる | ||
1137 | 種田山頭火 | 彼岸花のさくふるさとは墓のあるばかり | ||
1138 | 種田山頭火 | お彼岸のお彼岸花をみ仏に | ||
1139 | 種田山頭火 | 草にも風が出てきた豆腐も冷えただろ | ||
1140 | 種田山頭火 | 百合咲けばお地蔵さまにも百合の花 | ||
1141 | 種田山頭火 | この道しかない春の雪ふる | ||
1142 | 種田山頭火 | さて、どちらへ行かう風がふく | ||
1143 | 種田山頭火 | 誰かきそうな雪がちらほら | ||
1144 | 種田山頭火 | どうにかなるだろう雪のふりしきる | ||
1145 | 種田山頭火 | 山頭火には其中庵がよい雑草の花 | ||
1146 | 種田山頭火 | 遠雷すふるさとのこひしく | ||
1147 | 種田山頭火 | みんなたっしやでかぼちゃの花も | ||
1148 | 種田山頭火 | 炎天かくすところなく水のながれくる | ||
1149 | 種田山頭火 | 草しげるそこは死人を焼くところ | ||
1150 | 種田山頭火 | はれたりふったり青田となった | 青田になった | |
1151 | 種田山頭火 | 死ぬよりほかない山がかすんでゐる | ||
1152 | 種田山頭火 | いちりんざしの椿いちりん | ||
1153 | 種田山頭火 | あるけば蕗のとう | ||
1154 | 種田山頭火 | 落葉ふる奥ふかく御仏をみる | ||
1155 | 種田山頭火 | 貧乏のどんぞこで百舌鳥がなく | ||
1156 | 種田山頭火 | なんでこんなにさみしい風ふく | ||
1157 | 種田山頭火 | どかりと山の月おちた | ||
1158 | 種田山頭火 | うつってきてお彼岸の花ざかり | ||
1159 | 種田山頭火 | 花いばら、こゝの土とならうよ | ||
1160 | 種田山頭火 | ほうたるこいこいふるさとにきた | ||
1161 | 種田山頭火 | 松風すずしく人も食べ馬も食べ | ||
1162 | 種田山頭火 | さみしい風が歩かせる | ||
1163 | 種田山頭火 | ここにおちつき草萌ゆる | ||
1164 | 種田山頭火 | 逢ひたい、捨炭山が見えだした | 捨炭山:ぼたやま | |
1165 | 種田山頭火 | 墓がならんでそこまで波がおしよせて | ||
1166 | 種田山頭火 | 山頭火これからまたひとり | ||
1167 | 種田山頭火 | 法衣こんなにやぶれて草の実 | ||
1168 | 種田山頭火 | 松はみな枝垂れて南無観世音 | ||
1169 | 種田山頭火 | 重きものどさと投げたり大地燃ゆ | ||
1170 | 種田山頭火 | 桐はま青な葉と葉を鳴らす人恋し | ||
1171 | 種田山頭火 | 若葉若葉かゞやけば物みなよろし | ||
1172 | 種田山頭火 | 読経流れて木立いっせいにそよぎけり | ||
1173 | 種田山頭火 | 鮭さびしみわが行く道のはてもなし | ||
1174 | 種田山頭火 | 雪かぎりなしぬかづけば雪ふりしきる | ||
1175 | 種田山頭火 | 浪の音聞きつゝ遠く別れ来し | ||
1176 | 種田山頭火 | 独り飲みれをれば夜風騒がしう家をめぐれり | ||
1177 | 種田山頭火 | 思ひ果てなし日ねもす障子鳴る悲し | ||
1178 | 種田山頭火 | 松裂かれしまゝにして炎天浮く蜻蛉 | ||
1179 | 種田山頭火 | 嬉しいことも悲しいことも草茂る | ||
1180 | 種田山頭火 | 春風のどこでも死ねるからだで歩く | ||
1181 | 種田山頭火 | いつでも死ねる草が咲いたり実ったり | ||
1182 | 種田山頭火 | 月、雲が逃げてゆく雲が追うてゆく | ||
1183 | 種田山頭火 | 山の月を右にして左にして帰る | ||
1184 | 種田山頭火 | しぐれへ三日月へ酒買ひに行く | ||
1185 | 種田山頭火 | 酔うほどは買へない酒をすするのか | ||
1186 | 種田山頭火 | 星があって男と女 | ||
1187 | 種田山頭火 | 労れて足を雨にうたせる | 労れて:つかれて | |
1188 | 種田山頭火 | これが河豚かと食べてゐる | ||
1189 | 種田山頭火 | 物思う膝の上で寝る猫 | ||
1190 | 種田山頭火 | ヘラヘラとして水を味ふ | ||
1191 | 種田山頭火 | たまさかに飲む酒の音さびしかり | ||
1192 | 種田山頭火 | 子とふたり摘みては流す草の葉の | ||
1193 | 種田山頭火 | 越えてゆく山また山は冬の山 | ||
1194 | 種田山頭火 | たまたまたづね来てその泰山木が咲いている | ||
1195 | 種田山頭火 | ほろにがさもふるさとにしてふきのとう | ||
1196 | 種田山頭火 | 日向草の赤いの白いのたづねあてた | ||
1197 | 種田山頭火 | 車窓から、妹の家は若葉してゐる | ||
1198 | 種田山頭火 | 育ててくれた野は山は若葉 | ||
1199 | 種田山頭火 | 晴れて鋭い故郷の山を見直す | ||
1200 | 種田山頭火 | あの汽車もふる郷の方へ音たかく | ||
1201 | 種田山頭火 | 冬空のふる郷へちかづいてひきかへす | ||
1202 | 種田山頭火 | 故郷の人と話したのも夢か | ||
1203 | 種田山頭火 | ふる郷忘れがたい夕風がでた | ||
1204 | 種田山頭火 | 波の音たえずしてふる郷遠し | ||
1205 | 種田山頭火 | 夜もすがら水音が聞こえる | ||
1206 | 種田山頭火 | ことしもをはりの虫がまっくろ | ||
1207 | 種田山頭火 | 一つ家に一人寝て観る草に月 | ||
1208 | 尾崎放哉 | すばらしい乳房だ蚊が居る | ||
1209 | 尾崎放哉 | 小さい家で母と子とゐる | ||
1210 | 種田山頭火 | ここに落ちつき草萌ゆる | ||
1211 | 種田山頭火 | 酒やめておだやかな雨 | ||
1212 | 種田山頭火 | 枯枝ほきほき折るによし | ||
1213 | 種田山頭火 | ふと思ひ出の水音かげり | ||
1214 | 種田山頭火 | まいにち水を飲み水ばかりの身ぬち澄みわたる | ||
1215 | 種田山頭火 | くらがりさがして水をからだいっぱい | ||
1216 | 種田山頭火 | 春の水ゆたかに流るるるものを拾う | ||
1217 | 種田山頭火 | なんときびしい寒の水涸れた | ||
1218 | 種田山頭火 | 父によう似た声が出てくる旅はかなしい | ||
1219 | 種田山頭火 | 枯枝ぼきぼきおもふところなく | ||
1220 | 種田山頭火 | 死ねない手がふる鈴をふる | ||
1221 | 種田山頭火 | こころさびしくひとりまた火を焚く | ||
1222 | 種田山頭火 | 生きの身のいのちかなしく月澄みわたる | ||
1223 | 種田山頭火 | 酒をたべてゐる山は枯れてゐる | ||
1224 | 種田山頭火 | あるひは乞ふことをやめ、山を観てゐる | ||
1225 | 種田山頭火 | 物乞ふ家もなくなり山には雲 | ||
1226 | 種田山頭火 | 百舌鳥鳴いて身の捨てどころなし | ||
1227 | 種田山頭火 | 彼岸花さくふるさとは墓のあるばかり | ||
1228 | 種田山頭火 | ふときてあるくふるさとは草の花さかり | ||
1229 | 種田山頭火 | 山あれば山を観る 雨の日は雨を聴く 春夏秋冬 あしたもよろし ゆうべもよろし | ||
1230 | 種田山頭火 | しづかな道となりどくだみの芽 | ||
1231 | 種田山頭火 | 秋となった雑草にすわる | ||
1232 | 種田山頭火 | ふとめざめたらなみだがこぼれてゐた | ||
1233 | 種田山頭火 | ゆふべひそけくラヂオが物を思はせる | ||
1234 | 種田山頭火 | 山家明けてくる大粒の雨 | ||
1235 | 種田山頭火 | 蓑蟲も涼しい風に吹かれをり | ||
1236 | 種田山頭火 | 雲かげふかい水底の顔をのぞく | ||
1237 | 種田山頭火 | こゝらで泊らうつくがぼうし | ||
1238 | 種田山頭火 | さゝげまつる鐵鉢の日ざかり | ||
1239 | 種田山頭火 | 岩かげまさしく水が湧いてゐる | ||
1240 | 種田山頭火 | そうらうとして水をさがすや蜩 | ||
1241 | 種田山頭火 | 焼かれ死ぬ虫のにほひのかんばしく | ||
1242 | 種田山頭火 | 打つより終る虫の命のもろい風 | ||
1243 | 種田山頭火 | ぷすりと音をたてて虫は焼け死んだ | ||
1244 | 種田山頭火 | れいろうとして水鳥はつるむ | ||
1245 | 種田山頭火 | 芙蓉咲かせて泥捏ねてゐる | 捏ねる:こねる | |
1246 | 種田山頭火 | 月のさやけさも旅から旅で | ||
1247 | 種田山頭火 | 旅ごろも吹きまくる風にまかす | ||
1248 | 種田山頭火 | 踏み入れば人の声ある冬の山 | ||
1249 | 種田山頭火 | 日ざかり水鳥は流れる | ||
1250 | 種田山頭火 | さみだるる大きな仏さま | ||
1251 | 種田山頭火 | 菊投げ入れて部屋を明るうする | ||
1252 | 種田山頭火 | 寥平さびし煙草のけむり | ||
1253 | 種田山頭火 | 此秋も青桐三本 | ||
1254 | 種田山頭火 | けふも托鉢ここもかしこも花ざかり | ||
1255 | 種田山頭火 | 雀一羽二羽三羽地上安らけく | ||
1256 | 尾崎放哉 | 傘にばりばり雨音さして逢ひに来た | ||
1257 | 尾崎放哉 | 白雲ゆたかに行く朝の楠の木 | ||
1258 | 尾崎放哉 | 冬空もいで来た一輪の花 | ||
1259 | 尾崎放哉 | 寺の屋根しんかん夏日すべらす | ||
1260 | 尾崎放哉 | おそくまで話し山の星空傾き尽す | ||
1261 | 尾崎放哉 | あついお茶をのんで梅をほめて出る | ||
1262 | 種田山頭火 | 今日も事なし凩に酒量るのみ | ||
1263 | 種田山頭火 | 新居広やかに垣もせぬ蛍淋しうす | ||
1264 | 種田山頭火 | 子と遊ぶうらゝ木蓮数へては | ||
1265 | 種田山頭火 | 海よ海よふるさとの海の青さよ | ||
1266 | 種田山頭火 | 真夏真晝の空の下にて赤児泣く | ||
1267 | 種田山頭火 | 石工一日石切る音の雨となりけり | ||
1268 | 種田山頭火 | 草に投げ出す足をつたうて蟻一つ | ||
1269 | 種田山頭火 | みんな安らかに暮しをり花桐こぼる | ||
1270 | 種田山頭火 | ふく水に影うつすカンナの赤さ | ||
1271 | 種田山頭火 | 力いっぱい子が抱きあぐる水瓜かな | 水瓜:すいか | |
1272 | 種田山頭火 | ガラス戸かたく鎖されし窓々の入日 | ||
1273 | 種田山頭火 | 馬子は西瓜をかじりつつ馬はおとなしく | 水瓜:すいか | |
1274 | 種田山頭火 | 蝉ねらふ児の顔に日影ひとすぢ | ||
1275 | 種田山頭火 | 街あかりほのかに水は流れけり | ||
1276 | 種田山頭火 | 茂り下ろすやその匂ひなつかしみつゝ | ||
1277 | 種田山頭火 | 砂利の明るさ泌み入る雨の明るさ踏まん | ||
1278 | 種田山頭火 | 親子顔をならべたりいまし月昇る | ||
1279 | 種田山頭火 | うらゝかに日が照りて人の影遠し | ||
1280 | 種田山頭火 | けさも雨なりモナリザのつめたき瞳 | ||
1281 | 種田山頭火 | つかれし手足投げ出せば日影しみ入る | ||
1282 | 種田山頭火 | 入日まともに人の家焼けてくづれぬ | ||
1283 | 種田山頭火 | 積荷おろす草青々とそよぎをり | ||
1284 | 種田山頭火 | 桐並木その果てのポスト赤し | ||
1285 | 種田山頭火 | 汽車が吐き出す人むきむきに暮れてゆく | ||
1286 | 種田山頭火 | 海鳴り聞ゆ朝がほの咲けるよ | ||
1287 | 種田山頭火 | 朝顔けふも大きくて咲いて風なかり | ||
1288 | 種田山頭火 | 緑の奥家ありて朝顔ありし | ||
1289 | 種田山頭火 | 朝顔のゆらぎかすかにも人の足音す | ||
1290 | 種田山頭火 | 雲のかげ水渉る人にあつまりぬ | ||
1291 | 種田山頭火 | あたり暗うなりあふるゝ水かな | ||
1292 | 種田山頭火 | 水音の真晝わかれおしみけり | ||
1293 | 種田山頭火 | 扉うごけり合歓の花垂れたり | ||
1294 | 種田山頭火 | 蛙蛙独りぼっちの子とわれと | ||
1295 | 種田山頭火 | 蛙さびしみわがゆく路のはてもなし | ||
1296 | 種田山頭火 | 炎天の街のまんなか鉛煮ゆ | ||
1297 | 種田山頭火 | 晝ふかし虞美人草のほろろ散らんとす | ||
1298 | 種田山頭火 | 何おちしその音のゆくへ白き窓 | ||
1299 | 種田山頭火 | 県庁の石垣のすみれ咲きいでけり | ||
1300 | 種田山頭火 | 鳥しきりに啼き炭火きえけり | ||
1301 | 種田山頭火 | 兵列おごそかに過ぎゆきて若葉影あり | ||
1302 | 種田山頭火 | 蒲団短かく夜気長し | ||
1303 | 種田山頭火 | 腹いっぱい水飲んで寝る! | ||
1304 | 種田山頭火 | だまって今日の草履はく | ||
1305 | 久保白船 | けさは骨となって戻り、庵のわけぎのうね | 種田山頭火を葬る | |
1306 | 久保白船 | 灰となって灰の中いっぽんはある歯があったと | 種田山頭火を葬る | |
1307 | 久保白船 | 水は枯れてしづかな、朝の骨拾ひにゆく | 種田山頭火を葬る | |
1308 | 久保白船 | 火屋も月夜の雑草あすのこと言ふてわかれる | 種田山頭火を葬る | |
1309 | 久保白船 | その山羊髭のままの仏となって吹く風が秋 | 種田山頭火を葬る | |
1310 | 久保白船 | もうさかづきもいらぬ仏となって月のあをい葉 | 種田山頭火を葬る | |
1311 | 久保白船 | おそくついて月のくもり棺と向合ってゐる | 種田山頭火を葬る | |
1312 | 種田山頭火 | 水がとんぼがわたしも流れゆく | ||
1313 | 種田山頭火 | 今日も郵便が来ないとんぼとぶ | ||
1314 | 種田山頭火 | とんぼとまったふたりのあいだに | ||
1315 | 種田山頭火 | どこからとなく涼しい風がおはぐろとんぼ | ||
1316 | 種田山頭火 | 生える草の枯れゆく草のとき移る | ||
1317 | 種田山頭火 | いつ死ねる木の実は播いておく | ||
1318 | 種田山頭火 | 三日月おちかかる城山の城 | ||
1319 | 種田山頭火 | 蛙になりきって跳ぶ | ||
1320 | 種田山頭火 | をりをり顔みせる月のまんまる | ||
1321 | 種田山頭火 | だんだん似てくる癖の、父はもうゐない | ||
1322 | 種田山頭火 | 暑い日をまことにいそぐ旅人なり | ||
1323 | 種田山頭火 | しばらく歩かない脚の爪伸びてゐるかな | ||
1324 | 種田山頭火 | 蠅が歩いてゐる蠅紙のふちを | ||
1325 | 種田山頭火 | ひょいととまれば蠅捕紙の蠅で | ||
1326 | 種田山頭火 | 降ったり霽れたりおのれにかへる | 霽:はれ | |
1327 | 種田山頭火 | あるけば涼しい風がある草を踏み | ||
1328 | 種田山頭火 | へそが汗ためてゐる | ||
1329 | 種田山頭火 | 秋風の石を拾ふ | ||
1330 | 種田山頭火 | 遠く来てひでり雲ちぎれちぎれ | ||
1331 | 種田山頭火 | 晴れるほどに曇るほどに波のたはむれ | ||
1332 | 種田山頭火 | 沙にあしあとのどこまでつづく | 沙:砂 | |
1333 | 種田山頭火 | 何の草ともなく咲いてゐてふるさと | ||
1334 | 種田山頭火 | 朝まゐりはわたくし一人の銀杏ちりしく | ||
1335 | 種田山頭火 | 寝ても覚めても夜が長い瀬の音 | ||
1336 | 種田山頭火 | わが手わが足われにあたたかく寝る | ||
1337 | 種田山頭火 | お手手こぼれるその一粒一粒をいただく | ||
1338 | 種田山頭火 | 一握の米をいただきいただいてまいにちの旅 | 一握:ひとにぎり | |
1339 | 種田山頭火 | いちにち物いはず波音 | ||
1340 | 種田山頭火 | 月夜あかるい舟がありその中で寝る | ||
1341 | 種田山頭火 | 暮れても宿がない百舌鳥が啼く | ||
1342 | 種田山頭火 | 墓に護摩水を、わたしもすすり | 放哉墓前 | |
1343 | 種田山頭火 | 上へ下へ別れ去る坂のけはしい紅葉 | ||
1344 | 種田山頭火 | 秋晴れの島をばらまいておだやかな | ||
1345 | 種田山頭火 | 秋あらき波音の日ねもすあるく | ||
1346 | 種田山頭火 | 誰やら休んだらしい秋草をしいて私も | ||
1347 | 種田山頭火 | 石に松が昔ながらの散松葉 | ||
1348 | 種田山頭火 | 柳ちるもとの乞食になって歩く | ||
1349 | 種田山頭火 | 鉦たたきよ鉦をたたいてどこにゐる | ||
1350 | 種田山頭火 | 鳥とほくとほく雲に入るゆくへ見おくる | ||
1351 | 種田山頭火 | まいにちはだかでてふちょやとんぼや | ||
1352 | 種田山頭火 | どこにも水がない枯田汗してはたらく | ||
1353 | 種田山頭火 | 燃ゆる火の、雨ふらしめと燃えさかる | ||
1354 | 種田山頭火 | 涸れて涸れきって石ころごろごろ | ||
1355 | 種田山頭火 | 供へるものとては、野の木瓜の二枝三枝 | 木瓜:もっこう ぼけ | |
1356 | 種田山頭火 | 駒ヶ根をまへにいつもひとりでしたね | ||
1357 | 種田山頭火 | お山しんしんしづくする真実不虚 | ||
1358 | 種田山頭火 | 啼いて鴉の、飛んで鴉の、かへるところがない | ||
1359 | 種田山頭火 | 吹きつめて行きどころがない風 | ||
1360 | 種田山頭火 | この旅死の旅であらうほほけたんぽぽ | ||
1361 | 種田山頭火 | 旅もいつしかおたまじゃくしが泳いでゐる | ||
1362 | 種田山頭火 | 一羽来て啼かない鳥である | ||
1363 | 種田山頭火 | 棕梠の夜風のおとなりはお寺 | 棕梠:しゅろ | |
1364 | 種田山頭火 | 壁がくづれてそこから蔓草 | ||
1365 | 種田山頭火 | われ生きて詩を作らむ | ||
1366 | 種田山頭火 | 天われを殺さずして詩を作らしむ | ||
1367 | 種田山頭火 | その一片はふるさとの土となる秋 | ||
1368 | 種田山頭火 | お骨声なく水のうへをゆく | ||
1369 | 種田山頭火 | 街はおまつりのお骨となって帰られたか | ||
1370 | 種田山頭火 | しぐれて雪のちぎれゆくし支那をおもふ | ||
1371 | 種田山頭火 | おもひはてなく朝月のある展望 | ||
1372 | 種田山頭火 | 今日の足音のいちはやく橋をわたりくる | ||
1373 | 種田山頭火 | みんなかへる家はあるゆふべのゆきき | ||
1374 | 種田山頭火 | 法堂あけはなつ明けはなれてゐる | 法堂:はっとう | |
1375 | 種田山頭火 | 草のしげるや礎石ところどころのたまり水 | ||
1376 | 種田山頭火 | いつまで死ねないからだの爪をきる | ||
1377 | 種田山頭火 | 荒海へ脚投げだして旅のあとさき | ||
1378 | 種田山頭火 | 砂丘にうづくまりけふも佐渡は見えない | ||
1379 | 種田山頭火 | こころむなしくあらなみのよせてはかへし | ||
1380 | 種田山頭火 | 青葉わけゆく良寛さまも行かしたろ | ||
1381 | 種田山頭火 | 浅間をまともにおべんたうは草の上にて | ||
1382 | 種田山頭火 | 花が葉になる東京よさようなら | ||
1383 | 種田山頭火 | ほっと月がある東京に来てゐる | ||
1384 | 種田山頭火 | また一枚ぬぎすてる旅から旅 | ||
1385 | 種田山頭火 | うららかな鐘を撞かうよ | ||
1386 | 種田山頭火 | 風の扉ひらけば南無阿弥陀仏 | ||
1387 | 種田山頭火 | 春潮のテープちぎれてなほも手をふり | ||
1388 | 種田山頭火 | 岩のよろしさも良寛さまのおもひで | ||
1389 | 種田山頭火 | 旅は笹山の笹のそよぐのも | ||
1390 | 種田山頭火 | 傷が癒えゆく秋めいた風となって吹く | ||
1391 | 種田山頭火 | おもひおくことはないゆふべの芋の葉のひらひら | ||
1392 | 種田山頭火 | 風鈴の鳴るさへ死のしのびよる | ||
1393 | 種田山頭火 | つくつくぼうしあまりにちかくつくつくぼうし | ||
1394 | 種田山頭火 | 遠山の雪も別れてしまった人も | ||
1395 | 種田山頭火 | よびかけられてふりかへったが落葉林 | ||
1396 | 種田山頭火 | ふと子のことを百舌鳥が啼く | ||
1397 | 種田山頭火 | ここを死に場所とし草のしげりにしげり | ||
1398 | 種田山頭火 | もう死んでもよい草のそよぐや | ||
1399 | 種田山頭火 | 草や木や生きて戻って茂ってゐる | ||
1400 | 種田山頭火 | 岩があれば水の触れゆく | ||
1401 | 種田山頭火 | 水音の一人となり捨てるものがなんぼでも | ||
1402 | 種田山頭火 | 山ふかく蕗のとうなら咲いてゐる | ||
1403 | 種田山頭火 | おわかれの水鳥がういたりしづんだり | ||
1404 | 種田山頭火 | 吹いては売る笛はほうほけきょ | ||
1405 | 種田山頭火 | 春寒い竹の葉のそよぐ三本 | ||
1406 | 種田山頭火 | これがことしのをはりの一枚を剥ぐ | ||
1407 | 種田山頭火 | 春風の鉢の子一つ | 鉢の子:鉄鉢のこと | |
1408 | 種田山頭火 | うつむいて石ころばかり | ||
1409 | 種田山頭火 | 月が昇って何を待つでもなく | ||
1410 | 種田山頭火 | 草の実の露のおちつかうとする | ||
1411 | 種田山頭火 | 移ってきてお彼岸花の花ざかり | ||
1412 | 種田山頭火 | いつも一人で赤とんぼ | ||
1413 | 種田山頭火 | みんなに話しかける青葉若葉のひかり | ||
1414 | 種田山頭火 | お墓の、いくとせぶりの夏草をぬく | ||
1415 | 種田山頭火 | すゞしくお墓の草をとる | ||
1416 | 種田山頭火 | 夏草、お墓をさがす | ||
1417 | 種田山頭火 | おもひ出の草のこみちをお墓まで | ||
1418 | 種田山頭火 | 事がまとまらない夕蝉になかれ | ||
1419 | 種田山頭火 | あすはよいたよりがあらう夕焼ける | ||
1420 | 種田山頭火 | 家をさがすや山ほとゝぎす | ||
1421 | 種田山頭火 | ほっかり眼ざめて山ほとゝぎす | ||
1422 | 種田山頭火 | 年とれば故郷こひしいつくつくぼうし | ||
1423 | 種田山頭火 | たゞ食べてゐる親豚子豚 | ||
1424 | 種田山頭火 | 海のあなたはふるさとの山 | 海のあなたはふるさとの山に雪 | |
1425 | 種田山頭火 | 寒い雲がいそぐ | ||
1426 | 種田山頭火 | 冬雨の石階をのぼるサンタマリア | ||
1427 | 種田山頭火 | いつまで旅することの爪をきる | ||
1428 | 種田山頭火 | 枯草に寝ころぶやからだ一つ | ||
1429 | 種田山頭火 | 越えていく山また山は冬の山 | ||
1430 | 種田山頭火 | どこやらで鴉なく道は遠い | ||
1431 | 種田山頭火 | 暗い窓から太陽をさがす | ||
1432 | 種田山頭火 | 裁かれる日の椎の花ふる | ||
1433 | 種田山頭火 | 枝をさしのべてゐる冬木 | ||
1434 | 種田山頭火 | 捨てきれない荷物のおもさまへうしろ | ||
1435 | 種田山頭火 | また逢へた山茶花も咲いてゐる | ||
1436 | 種田山頭火 | 病んで寝て蠅が一匹きたゞけ | ||
1437 | 種田山頭火 | 山の中鉄鉢たゝいて見たりして | ||
1438 | 種田山頭火 | 霧島は霧にかくれて赤とんぼ | ||
1439 | 種田山頭火 | こころしづ山のおきふし | ||
1440 | 種田山頭火 | ゆっくり歩こう萩がこぼれる | ||
1441 | 種田山頭火 | 波音遠くなり近くなり余命いくばくぞ | ||
1442 | 種田山頭火 | 鉄鉢ささげて今日も暮れた | ||
1443 | 久保白船 | 友のうしろ姿の風を見送る | ||
1444 | 久保白船 | 法衣かるがると来てふかれて去るか | ||
1445 | 種田山頭火 | 鴉啼いてわたしも一人 | ||
1446 | 種田山頭火 | 暑さきはまる土に喰ひいるわが影ぞ | ||
1447 | 種田山頭火 | 燕とびかふ空しみじみと家出かな | ||
1448 | 種田山頭火 | ものゝこゑほのぼのと海はたゝへけり | ||
1449 | 種田山頭火 | 家を出ずれば冬木しんしんとならびたり | ||
1450 | 種田山頭火 | 気まぐれをうかと来ぬげんげ濃き雨に | ||
1451 | 芝富貴男 | 町空のくらき氷雨や白魚売 | ||
1452 | 芝富貴男 | 川蟹のしろきむくろや秋磧 | 磧:かわら | |
1453 | 芝富貴男 | 向ふ家にかゞやき入りぬ石鹸玉 | ||
1454 | 芝富貴男 | 泳ぎ女の葛隠るまで羞ぢらひぬ | ||
1455 | 芝富貴男 | 澤の邊に童と居りて蜘蛛合 | ||
1456 | 芝富貴男 | 筆始歌仙ひそめくけしきかな | ||
1457 | 芝富貴男 | そのかみの貝掘りあてつ鍬始 | ||
1458 | 芝富貴男 | 雪融くる苔ぞ?ぞ山始 | ||
1459 | 芝富貴男 | 松過や織りかけ機の左右に風 | ||
1460 | 芝富貴男 | 山川の砂焦がしたるどんどかな | ||
1461 | 芝富貴男 | 谷水を撒きてしづむるとんどかな | ||
1462 | 芝富貴男 | ぬばたまの寝屋かいまみぬ嫁が君 | ||
1463 | 芝富貴男 | 繭玉に寝がての腕あげにけり | ||
1464 | 芝富貴男 | 落ちてゐるのは帰省子の財布なり | ||
1465 | 芝富貴男 | にごり江を鎖す水泡や雲の峰 | ||
1466 | 芝富貴男 | 鞦韆の月に散じぬ同窓会 | ||
1467 | 芝富貴男 | 夕釣や蛇のひきゆく水脈あかり | ||
1468 | 芝不器男 | 北風やあをぞらながら暮れはてゝ | ||
1469 | 種田山頭火 | これだけ残ってゐるお位牌ををがむ | ||
1470 | 種田山頭火 | ぼろ売って酒買うてさみしくもあるか | ||
1471 | 種田山頭火 | 初孫がうまれたさうな風鈴の鳴る | ||
1472 | 種田山頭火 | 杉菜そよぐのも春はまだ寒い風 | ||
1473 | 種田山頭火 | 水音の若竹のそよがず | ||
1474 | 種田山頭火 | 雪ふる中をかへりきて妻へ手紙かく | ||
1475 | 種田山頭火 | 赤きポストに都会の埃風ふけり | ||
1476 | 種田山頭火 | 霧ぼうぼうとうごめくは皆人なりし | ||
1477 | 種田山頭火 | 労れて戻る夜の角のいつものポストよ | 労れて:つかれて | |
1478 | 種田山頭火 | ついてくる犬よおまへも宿なしか | ||
1479 | 種田山頭火 | 落葉しいて寝るよりほかない山のうつくしさ | ||
1480 | 種田山頭火 | まどろめばふるさとの夢の草の葉ずれ | ||
1481 | 種田山頭火 | 腹がいたいみんみん蝉 | ||
1482 | 種田山頭火 | このまゝ死んでしまふかも知れない土に寝る | ||
1483 | 種田山頭火 | 大地ひえびえととして熱のあるからだをまかす | ||
1484 | 種田山頭火 | 煮る蕗のほろにがさにもおばあさんのおもかげ | ||
1485 | 種田山頭火 | あるがまま雑草として芽をふく | ||
1486 | 種田山頭火 | 病む児の寝顔白う浮く火燵守り暮れぬ | ||
1487 | 種田山頭火 | 我とわが子と二人のみ干潟鳶舞ふ日 | ||
1488 | 種田山頭火 | せんだんもこんなにふとったかげで汗ふく | ||
1489 | 種田山頭火 | 送ってくれたあたゝかさを着て出る | ||
1490 | 種田山頭火 | 雨のおみくじも凶か | ||
1491 | 種田山頭火 | あの水この水の天竜となる水音 | ||
1492 | 種田山頭火 | 水音のたえずして御仏とあり | ||
1493 | 種田山頭火 | 水に雲かげもおちつかせないものがある | ||
1494 | 種田山頭火 | 葉桜となってまた逢った | ||
1495 | 種田山頭火 | 晴れるより雲雀はうたふ道のなつかしや | ||
1496 | 種田山頭火 | 播きをへるとよい雨になる山の色 | ||
1497 | 種田山頭火 | こやしあたへてしみじみながめるほうれんさうで | ||
1498 | 種田山頭火 | 朝風のトマト畑でトマトを食べる | ||
1499 | 種田山頭火 | 花菜活けてあんたを待つなんとうららかな | ||
1500 | 種田山頭火 | にょきにょき土筆がなんぼうでもある | ||
1501 | 種田山頭火 | 水底の月のたたへてゐる | ||
1502 | 種田山頭火 | この土のすゞしい風にうつりきて | ||
1503 | 種田山頭火 | 梨もいづ卓布に瓦斯の青映えて | ||
1504 | 種田山頭火 | けふはおわかれの糸瓜がぶらり | ||
1505 | 種田山頭火 | 穴にかくれる蟹のうつくしさよ | ||
1506 | 種田山頭火 | 百舌啼いて身の捨てどころなし | ||
1507 | 種田山頭火 | 蕎麦の花にも少年の日がなつかしい | ||
1508 | 種田山頭火 | けさもよい日の星一つ | ||
1509 | 種田山頭火 | 木の芽草の芽あるきつづける | ||
1510 | 種田山頭火 | この旅、果てもない旅のつくつくぼうし | ||
1511 | 種田山頭火 | 笠にとんぼをとまらせてあるく | ||
1512 | 種田山頭火 | 青い灯赤い灯人のゆく方へついてゆく | ||
1513 | 種田山頭火 | さゝやかな店をひらきぬ桐青し | ||
1514 | 種田山頭火 | 泣寝入る児が淋しひとり炭つぎぬ | ||
1515 | 種田山頭火 | 風にめさめて水をさがす | ||
1516 | 種田山頭火 | 熟柿のあまさもおばあさんのおもかげ | ||
1517 | 種田山頭火 | 窓あけて窓いっぱいの春 | ||
1518 | 種田山頭火 | さんざしぐれの山越えてまた山 | ||
1519 | 種田山頭火 | どこで倒れてもよい山うぐひす | ||
1520 | 種田山頭火 | ひっそり生きてなるやうになる草の穂 | ||
1521 | 種田山頭火 | 風の中のおのれを責めつつ歩く | ||
1522 | 種田山頭火 | 足は手は支那に残してふたたび日本に | ||
1523 | 種田山頭火 | 母一人子一人の召されていった | ||
1524 | 種田山頭火 | 馬も召されておぢいさんおばあさん | ||
1525 | 種田山頭火 | ほんに生まれて来たばかりの眼をあけて | ||
1526 | 種田山頭火 | いっしょにびっしょり汗かいて牛が人が | ||
1527 | 種田山頭火 | 生きたくてドッコイショ唄うて歩く | ||
1528 | 種田山頭火 | みんな生きている音たてている | ||
1529 | 種田山頭火 | 安か安か寒か寒か雪雪 | ||
1530 | 種田山頭火 | 蕗の薹のみどりもそへて小鳥の食卓 | ||
1531 | 種田山頭火 | 煮える音のよい日であったお粥 | ||
1532 | 種田山頭火 | 飯の白さの梅干の赤さたふとけれ | ||
1533 | 種田山頭火 | 雪のしたたる水くんできてけふのお粥 | ||
1534 | 種田山頭火 | いただいて足りて一人の箸をおく | ||
1535 | 種田山頭火 | ひとりにはなりきれない空をみあげる | ||
1536 | 種田山頭火 | 心おさへて爪をきる | ||
1537 | 種田山頭火 | ふくろふはふくろふでわたしはわたしでねむれない | ||
1538 | 種田山頭火 | みんな去んでしまえば水音 | 去んで:いんで | |
1539 | 種田山頭火 | ひとりごといふ声のつぶれた | ||
1540 | 種田山頭火 | 人が来たよな枇杷の葉のおちるだけ | ||
1541 | 種田山頭火 | 張りかへた障子のなかの一人 | ||
1542 | 種田山頭火 | うしろから月のかげする水をわたる | ||
1543 | 種田山頭火 | 寝るよりほかない月を見てゐる | ||
1544 | 種田山頭火 | 寝床まで月を入れ寝るとする | ||
1545 | 種田山頭火 | 石へ月かげの落ちてきた | ||
1546 | 種田山頭火 | 月へひとりの戸はあけとく | ||
1547 | 種田山頭火 | 雪ふる火を焚いてひとり | ||
1548 | 種田山頭火 | 誰も来ない木から木へすべる雪 | ||
1549 | 種田山頭火 | 雪のあかるさが家いっぱいのしずけさ | ||
1550 | 種田山頭火 | わが庵は雪のあしあとひとすじ | ||
1551 | 種田山頭火 | わらや雪とくる音のいちにち | ||
1552 | 種田山頭火 | こちらむいて椿いちりんしずかな机 | ||
1553 | 種田山頭火 | 夜はしぼむ花いけてひとりぐらし | ||
1554 | 種田山頭火 | 寝てをれば花瓶の花ひらき | ||
1555 | 種田山頭火 | ぽっきり折れてそよいでゐる竹で | ||
1556 | 種田山頭火 | たべきれないちしゃの葉が雨をためている | ||
1557 | 種田山頭火 | ゆふ空から柚子の一つをもらふ | ||
1558 | 種田山頭火 | とんできたかよ蛍いっぴき | ||
1559 | 種田山頭火 | 暗さ匂へばほたる | ||
1560 | 種田山頭火 | 水に放つや寒鮒みんな泳いでゐる | ||
1561 | 種田山頭火 | ずんぶりと湯のあつくてあふれる | ||
1562 | 種田山頭火 | 憂鬱を湯にとかさう | ||
1563 | 種田山頭火 | ひとりきりの湯で思ふこともない | ||
1564 | 種田山頭火 | まツぱだかを太陽にのぞかれる | ||
1565 | 種田山頭火 | よい湯からよい月へ出た | ||
1566 | 種田山頭火 | 湯壺から桜ふくらんだ | ||
1567 | 種田山頭火 | あふるる朝湯のしずけさにひたる | ||
1568 | 種田山頭火 | ひとりの湯がこぼれる | ||
1569 | 種田山頭火 | どうでもこゝにおちつきたい夕月 | ||
1570 | 種田山頭火 | 涌いてあふれる中にねてゐる | ||
1571 | 種田山頭火 | 投げて下さった一銭銅貨の寒い音だった | ||
1572 | 種田山頭火 | なかなか寒い朝から犬にほえられどうし | ||
1573 | 種田山頭火 | 鉄鉢へ音たてて霰 | ||
1574 | 種田山頭火 | 木の葉に傘に音たてゝ霰 | ||
1575 | 種田山頭火 | 笠も漏りだしたか | ||
1576 | 種田山頭火 | 大樟も私も犬もしぐれつゝ | ||
1577 | 種田山頭火 | 風ごうごうまぎれずもわが尿の音 | ||
1578 | 種田山頭火 | いちにちわれとわが足音を聴きつゝ歩む | ||
1579 | 種田山頭火 | ホイトウとよばれる村のしぐれかな | ||
1580 | 種田山頭火 | このさびしさは山のどこから枯れた風 | ||
1581 | 種田山頭火 | 何でこんなにさみしい風がふく | 何でこんなにさみしい風ふく | |
1582 | 種田山頭火 | どうすることもできない矛盾を風がふく | ||
1583 | 種田山頭火 | 風の中おのれを責めつつ歩く | ||
1584 | 種田山頭火 | 何を求める風の中ゆく | ||
1585 | 種田山頭火 | すすきのひかりさえぎるものなし | ||
1586 | 種田山頭火 | 大地にすわるすすきのひかり | ||
1587 | 種田山頭火 | かるかやへかるかやのゆれてゐる | ||
1588 | 種田山頭火 | かきつばた咲かしてながれる水のあふれる | ||
1589 | 種田山頭火 | 枯れゆく草のうつくしさにすわる | ||
1590 | 種田山頭火 | 波音のうららかな草がよい寝床 | ||
1591 | 種田山頭火 | ここで寝るとする草の実がこぼれる | ||
1592 | 種田山頭火 | あるけば草の実すわれば草の実 | ||
1593 | 種田山頭火 | 草のうつくしさはしぐれつつしめやか | ||
1594 | 種田山頭火 | 旅の人としてふるさとの言葉をきいてゐる | ||
1595 | 種田山頭火 | うまれた家はあとかたもないほうたる | ||
1596 | 種田山頭火 | ぬれてすずしくはだしであるく | ||
1597 | 種田山頭火 | 曼珠沙華咲いてここがわたしの寝るところ | ||
1598 | 種田山頭火 | 家を持たない秋がふかうなるばかり | ||
1599 | 種田山頭火 | 雨ふるふるさとははだしであるく | 雨ふるふるさとはなつかしい。はだしであるいてゐると、蹠(あしのうら)の感触が少年の夢をよびかえす 山頭火 | |
1600 | 荻原井泉水 | みどりゆらゆらゆらめきて動く暁 | ||
1601 | 荻原井泉水 | 木の葉木の葉とおちる | ||
1602 | 荻原井泉水 | すずしくさくらさくらせせらぐ | ||
1603 | 種田山頭火 | 踏みわける萩よすすきよ | ||
1604 | 種田山頭火 | いそいでもどるかなかなかなかな | ||
1605 | 種田山頭火 | 降るままぬれるままであるく | ||
1606 | 種田山頭火 | 一きれの雲もない空のさびしさまさる | ||
1607 | 種田山頭火 | 山しづかなれば笠をぬぐ | ||
1608 | 種田山頭火 | 水もさみしい顔を洗ふ | ||
1609 | 種田山頭火 | 水のんでこの憂鬱のやりどころなし | ||
1610 | 種田山頭火 | 水に影ある旅人である | ||
1611 | 種田山頭火 | 水の色の湧いてくる | ||
1612 | 種田山頭火 | こころおちつけば水の音 | ||
1613 | 種田山頭火 | 分け入れば水音 | ||
1614 | 種田山頭火 | はればれ酔うて草が青い | ||
1615 | 種田山頭火 | 雨音のしたしさの酔うてくる | ||
1616 | 種田山頭火 | 酒がやめられない木の芽草の芽 | ||
1617 | 種田山頭火 | なみのおとのさくらほろほろ | ||
1618 | 種田山頭火 | こゝろ澄めば月草のほのかにひらく | 月草:露草の古名 | |
1619 | 種田山頭火 | 空へ若竹のなやみなし | ||
1620 | 種田山頭火 | かうして旅する日日の木の葉ふるふる | ||
1621 | 種田山頭火 | おのれにこもる藪椿咲いては落ち | ||
1622 | 種田山頭火 | 下車客五六人に楓めざましく | ||
1623 | 種田山頭火 | おちてはういてたゞよふ | ||
1624 | 種田山頭火 | 椿の落ちる水の流れる | ||
1625 | 種田山頭火 | 雨の椿の花が花へしづくして | ||
1626 | 種田山頭火 | 道は前にある。 まっすぐに行こう。 まっすぐに行こう。 | ||
1627 | 種田山頭火 | 日ざかり泣いても笑ふても一人 | ||
1628 | 種田山頭火 | 砂に足あとのどこまでつゞく | ||
1629 | 種田山頭火 | 柳ちるいそいであてもない旅へ | ||
1630 | 種田山頭火 | ひょいと四国へ晴れきってゐる | ||
1631 | 種田山頭火 | 酒飲めば涙ながるるおろかな秋ぞ | ||
1632 | 種田山頭火 | みんな出て征く山の青さのいよいよ青く | ||
1633 | 種田山頭火 | 警笛鳴りわたる草からてふてふ | ||
1634 | 種田山頭火 | をべしをみなへしと咲きそろふべし | ||
1635 | 種田山頭火 | 灯に灯が、海峡の月冴えてくる | ||
1636 | 種田山頭火 | たれもかへる家はあるゆうべのゆきき | ||
1637 | 種田山頭火 | こゝろむなしくあらうみのよせてはかへす | ||
1638 | 種田山頭火 | 春の雪ふる女はまことにうつくしい | ||
1639 | 種田山頭火 | はてしなくさみだるる空がみちのく | ||
1640 | 種田山頭火 | いつもの豆腐でみんなはだかで | ||
1641 | 種田山頭火 | ほっかりとぬけた歯で年とった | ||
1642 | 種田山頭火 | たった一本の歯がいたみます | ||
1643 | 種田山頭火 | ぬけさうな歯を持って旅にをる | ||
1644 | 種田山頭火 | 雨だれの音も年とった | ||
1645 | 種田山頭火 | 雪の法衣の重うなる | ||
1646 | 種田山頭火 | 橋を渡ってから乞ひはじめる | ||
1647 | 種田山頭火 | 柳ちるそこから乞ひはじめる | ||
1648 | 種田山頭火 | 吠えつゝ犬が村はずれまで送ってくれた | ||
1649 | 種田山頭火 | 物乞うとシクラメンのうつくしいこと | ||
1650 | 種田山頭火 | ひょいと穴から、とかげかよ | ||
1651 | 種田山頭火 | あざみあざやかなあさのあめあがり | ||
1652 | 種田山頭火 | 虱も蚤もいっしょに寝ませう | ||
1653 | 種田山頭火 | 枯草の日向で虱とらう | ||
1654 | 種田山頭火 | 虱がとりつくせない旅から旅 | ||
1655 | 種田山頭火 | 飲んで食べて寝そべれば蛙の合唱 | ||
1656 | 尾崎放哉 | 明日からは禁酒の酒がこぼれる | ||
1657 | 種田山頭火 | 炎天をいただいて乞ひ歩く | ||
1658 | 尾崎放哉 | やせたからだを窓に置き船の汽笛 | ||
1659 | 尾崎放哉 | 一つの湯飲みを置いてむせてゐる | ||
1660 | 種田山頭火 | 鴉鳴いてわたしも一人 | ||
1661 | 尾崎放哉 | 板敷に夕餉の両膝をそろえる | ||
1662 | 尾崎放哉 | こんな良い月を一人で見て寝る | ||
1663 | 尾崎放哉 | いれ物がない両手で受ける | ||
1664 | 尾崎放哉 | 咳をしても一人 | ||
1665 | 尾崎放哉 | 谷底に只白く見ゆる流れかな | ||
1666 | 種田山頭火 | 雨にうたれてよみがへったか人も草も | ||
1667 | 種田山頭火 | ずんぶり詩たる一日のをはり | ||
1668 | 種田山頭火 | ぞんぶんに湧いてあふれる湯をぞんぶんに | ||
1669 | 種田山頭火 | ま昼ひろくて私ひとりにあふれる湯 | ||
1670 | 種田山頭火 | 月が酒がからだいっぱいのよろこび | ||
1671 | 種田山頭火 | 窓に迫る巨船あり河豚鍋の宿 | ||
1672 | 種田山頭火 | 吾妹子の肌なまめかしなつの蝶 | 吾妹子:わぎもこ 男性が妻や恋人を、また一般に、女性を親しみの気持ちを込めて呼ぶ語 | |
1673 | 種田山頭火 | 柚子をもぐ朝蜘の晴れてゆく | ||
1674 | 種田山頭火 | 大楠も私も犬もしぐれつゝ | ||
1675 | 種田山頭火 | 右近の橘の実のしぐるゝや | ||
1676 | 種田山頭火 | しぐれて反橋二つ渡る | ||
1677 | 種田山頭火 | 雲の如く行き 水の如く歩み 風の如く去る 一切空 | ||
1678 | 種田山頭火 | 水音の山門をくゞる水音 | ||
1679 | 種田山頭火 | 琴がならべてある涼しい風 | ||
1680 | 種田山頭火 | 盛り花がおちてゐるコクトオ詩抄 | コクトオ:二十歳で才気あふれる詩人として文壇にデビュー | |
1681 | 種田山頭火 | まったく雲がない笠をぬぎ | ||
1682 | 種田山頭火 | 稲妻する過去を清算しやうとする | ||
1683 | 種田山頭火 | 花いばらこゝの土とならうよ | ||
1684 | 種田山頭火 | 焼き捨てゝ日記の灰のこれだけか | ||
1685 | 種田山頭火 | 秋風のふるさと近うなった | ||
1686 | 種田山頭火 | ひぐるる土をふみしめていく | ||
1687 | 種田山頭火 | しずけさや死ぬるばかりの水がながれて | ||
1688 | 種田山頭火 | しとどに濡れてこれは道しるべの石 | ||
1689 | 種田山頭火 | 一すじの煙悲しや日輪しずむ | ||
1690 | 種田山頭火 | しぐるる土を踏みしめてゆく | ||
1691 | 種田山頭火 | 水音のやや寒い朝のながれくる | ||
1692 | 石田波郷 | ふりそそぐ日の戯れて朱欒もぐ | 朱欒:ざぼん | |
1693 | 石田波郷 | 畦木立ち落穂拾ひがひろひ立つ | ||
1694 | 石田波郷 | 一抹の海見ゆ落穂拾ひかな | ||
1695 | 石田波郷 | 鵙ゆきて稲田の幣にとまりけり | 幣:ぬさ へい | |
1696 | 石田波郷 | 穂麦の野川ゆき川の水やさし | ||
1697 | 渡邊水巴 | 若竹の高さすぐれたり秋の空 | ||
1698 | 渡邊水巴 | 妻も来よ一つ涼みの露の音 | ||
1699 | 渡邊水巴 | 茨の芽に日深き山の二月かな | ||
1700 | 渡邊水巴 | 茶を焙る我と夜明けし雛かな | ||
1701 | 渡邊水巴 | 行年の山へ道あり枯茨 | ||
1702 | 渡邊水巴 | 夕映に何の水輪や冬紅葉 | ||
1703 | 渡邊水巴 | 紫陽花を鳴らす鶲の時雨かな | ||
1704 | 渡邊水巴 | 短夜や引汐早き草の月 | ||
1705 | 渡邊水巴 | 大藪の揺るる夜空や花の雨 | ||
1706 | 渡邊水巴 | 柴漬を揚ぐる人あり花の雨 | ||
1707 | 尾崎放哉 | 寝て聞けば遠き昔を鳴く蚊かな | ||
1708 | 尾崎放哉 | 鶏頭や紺屋の庭に紅久し | ||
1709 | 尾崎放哉 | 枯野原見覚えのある一路哉 | ||
1710 | 尾崎放哉 | 別れ来て淋しさに折る野菊かな | ||
1711 | 尾崎放哉 | 返り花あからさまなる梢かな | ||
1712 | 尾崎放哉 | 餌をやる人に鶴舞ふ初日かな | ||
1713 | 尾崎放哉 | 稲妻や豊年祭過ぎし空 | ||
1714 | 尾崎放哉 | 夕立や渚晴れゆく波高し | ||
1715 | 前田普羅 | 勧進の鈴ききぬ春も遠からじ | ||
1716 | 前田普羅 | 山寺の局造りや鳳仙花 | ||
1717 | 前田普羅 | 桔梗や一群過ぎし手長蝦 | ||
1718 | 前田普羅 | 菊切るや唇荒れて峯高し | ||
1719 | 前田普羅 | 虫なくや我れと湯を呑む影法師 | ||
1720 | 前田普羅 | 新涼や豆腐驚く唐辛 | ||
1721 | 前田普羅 | 夏草を搏ちては消ゆる嵐哉 | ||
1722 | 前田普羅 | 若竹に風雨駆けるや庭の奥 | ||
1723 | 前田普羅 | 羽抜鳥高き巌に上りけり | ||
1724 | 前田普羅 | 月さすや沈みてありし水中花 | ||
1725 | 前田普羅 | 夏山や二階なりける杣の宿 | ||
1726 | 前田普羅 | 春更けて諸鳥啼くや雲の上 | ||
1727 | 山口青邨 | 凌霄花落ちてかかるや松の上 | 凌霄花:のうぜんかずら | |
1728 | 山口青邨 | まだ早き牡丹ばたけをひとめぐり | ||
1729 | 山口青邨 | 五月雨の水につと見る鯰かな | ||
1730 | 山口青邨 | 山里や植田しづかに閑古鳥 | ||
1731 | 山口青邨 | 葉一枚折れてうかべる花菖蒲 | ||
1732 | 山口青邨 | 水の音聞ゆる室やあらひ鯉 | ||
1733 | 山口青邨 | 紫陽花や朽ちたるごとく家ありぬ | ||
1734 | 山口青邨 | 新緑や空わたりゆく蝶々かな | ||
1735 | 山口青邨 | 芍薬や雨にくづれて八方に | ||
1736 | 石田波郷 | 芋掘りて疲れたる夜の筆づかひ | ||
1737 | 石田波郷 | 散るさくら空には夜の雲愁ふ | ||
1738 | 石田波郷 | 浅き水のおほかたを蝌蚪のもたげたる | ||
1739 | 石田波郷 | 草萌や野焼の跡のすでに濃き | ||
1740 | 石田波郷 | 田植どき夜は月かげ田をわたり | ||
1741 | 石田波郷 | 噴水のしぶけり四方に風の街 | ||
1742 | 石田波郷 | 虹たつやとりどり熟れしトマト園 | ||
1743 | 石田波郷 | 朝の虹ひとり仰げる新樹かな | ||
1744 | 村上鬼城 | 鶯や隣へ逃げる薮つづき | ||
1745 | 村上鬼城 | 吼えて遠くなりけり猫の恋 | ||
1746 | 村上鬼城 | とけて浮く氷の影や水の底 | ||
1747 | 村上鬼城 | 道端に縄垣したり罌粟の花 | 罌粟:けし | |
1748 | 村上鬼城 | 酒飲まぬ豪傑もあり柏餅 | ||
1749 | 村上鬼城 | 菖蒲かけて雀の這入る庇かな | ||
1750 | 村上鬼城 | 衣更野人鏡を持てりけり | ||
1751 | 村上鬼城 | 玄関に大きな鉢の牡丹かな | ||
1752 | 日野草城 | 竿のものしきりに乾く残暑かな | ||
1753 | 日野草城 | 松大樹残暑の影を横たふる | ||
1754 | 日野草城 | 楠の木のとはの翠や秋高し | ||
1755 | 日野草城 | 夕風に涼しく撓むポプラかな | ||
1756 | 河東碧梧桐 | 夏帽を吹きとばしたる蓮見かな | ||
1757 | 河東碧梧桐 | ひたひたと春の潮打つ鳥居哉 | ||
1758 | 河東碧梧桐 | 大仏を写真に取るや春の山 | ||
1759 | 河東碧梧桐 | 植木屋の海棠咲くや棕梠の中 | ||
1760 | 河東碧梧桐 | 三月を引くとも見えで波のうつ | ||
1761 | 河東碧梧桐 | 菜の花に汐さし上る小川かな | ||
1762 | 河東碧梧桐 | 苗代と共にそだつる蛍かな | ||
1763 | 河東碧梧桐 | 田螺鳴く二条御門の裏手かな | ||
1764 | 河東碧梧桐 | 桃さくや湖水のへりの十箇村 | ||
1765 | 河東碧梧桐 | 薮入のさびしく戻る小道かな | ||
1766 | 富田木歩 | 七夕や髪に結ひ込む藤袴 | ||
1767 | 富田木歩 | 暮れぎはの家並かたぶく雪しづれ | ||
1768 | 各務支考 | 木曽は今さくらもさきぬ夏大根 | ||
1769 | 各務支考 | 椿踏む道や寂寞たるあらし | ||
1770 | 各務支考 | 簔笠に露けき宿の桑子哉 | ||
1771 | 各務支考 | ちりぢりに春やぼたんの花の上 | ||
1772 | 種田山頭火 | しぐれて道しるべその字が読めない | ||
1773 | 種田山頭火 | からだ投げだしてしぐるる山 | ||
1774 | 種田山頭火 | しぐれて山をまた山を知らない山 | ||
1775 | 種田山頭火 | 死をひしひしと水のうまさかな | ||
1776 | 種田山頭火 | なかなか死ねない彼岸花さく | ||
1777 | 種田山頭火 | 歩るくほかない秋の雨ふりつのる | ||
1778 | 種田山頭火 | 松の木松の木としぐれてゐる | ||
1779 | 種田山頭火 | おたたしぐれてすたすたいそぐ | ||
1780 | 種田山頭火 | しぐれて柿の葉のいよいようつくしく | ||
1781 | 種田山頭火 | しぐれ笠でおとなりへ水をもらひに | ||
1782 | 種田山頭火 | 月夜しぐれて春ちかくなる音 | ||
1783 | 種田山頭火 | 朝早くしぐるる火を焚いてゐる | ||
1784 | 種田山頭火 | 鴉とんでゆく水をわたらう | ||
1785 | 種田山頭火 | ちんぽこもおそそも湧いてあふれる湯 | ||
1786 | 種田山頭火 | 水をへだててをなごやの灯がまたたきだした | ||
1787 | 種田山頭火 | 水音といっしょに里へ下りて来た | ||
1788 | 種田山頭火 | しぐれてぬれて待つ人がきた | ||
1789 | 種田山頭火 | 朝からしぐれて柿の葉のうつくしさは | ||
1790 | 種田山頭火 | おとはしぐれか | ||
1791 | 種田山頭火 | ここまでを来し水飲んで去る | 平泉は知り合いのいない町なので飲みはぐれた | |
1792 | 三橋敏雄 | 行雁や港港に大地ありき | ||
1793 | 三橋敏雄 | 日にいちど入る日は沈み信天翁 | ||
1794 | 三橋敏雄 | 箸の木や伐り倒されて横たはる | ||
1795 | 三橋敏雄 | 父母や青杉の幹かくれあふ | ||
1796 | 三橋敏雄 | こがらしや壁の中から藁がとぶ | ||
1797 | 三橋鷹女 | かなしみに女は耐ふべし雲雀鳴く | ||
1798 | 三橋鷹女 | 山笑ふ吾子の饒舌谺を呼び | ||
1799 | 三橋鷹女 | ひとひらの雲ゆき散れり八重桜 | ||
1800 | 三橋鷹女 | 春林檎食みちらばして夜更けたり | ||
1801 | 三橋鷹女 | 東風の窓子に教ふべきこと尽きじ | ||
1802 | 三橋鷹女 | 春昼に耐へてましろき鰈を焼く | ||
1803 | 三橋鷹女 | 春は侘し場末にひとり見る映画 | ||
1804 | 中川乙由 | うき草や今朝はあちらの岸に咲く | ||
1805 | 中川乙由 | 蝶々は掃ぬ埃や雛あそび | ||
1806 | 中川乙由 | 涼しさや夢もぬけ行く籠枕 | ||
1807 | 富田木歩 | 青蘆に家の灯もるゝ宵の程 | ||
1808 | 富田木歩 | 行く春や蘆間の水の油色 | ||
1809 | 富田木歩 | 蘆の中に犬鳴き入りぬ遠蛙 | ||
1810 | 富田木歩 | 蝙蝠の家脚くゞる蘆の風 | ||
1811 | 富田木歩 | 躑躅植ゑて夜冷えする庭を忘れけり | ||
1812 | 富田木歩 | 汽車音の若葉に籠る夕べかな | ||
1813 | 富田木歩 | 新聞に鳥影さす庭若葉かな | ||
1814 | 富田木歩 | 杉の芽に蝶つきかねてめぐりけり | ||
1815 | 三橋鷹女 | 蕗の葉に日輪躍る初夏は来ぬ | ||
1816 | 山口誓子 | 青みどろえりにかわきて初夏暑き | ||
1817 | 山口誓子 | 生きものゝおどろく初夏の水ばかり | ||
1818 | 山口誓子 | 初夏を出て蜥蜴はいまだ軟かき | ||
1819 | 山口誓子 | 初夏の日に手足ひからせ生きむとす | ||
1820 | 星野立子 | たのしみの有田に人りぬ町は初夏 | ||
1821 | 子規 | 夕顔に昔の小唄あはれなり | ||
1822 | 虚子 | 老いてなお稽古大事や謡初 | ||
1823 | 虚子 | 追分を聞いて冬海を明日渡る | ||
1824 | 虚子 | 川狩の謡もうたふ仲間かな | ||
1825 | 西東三鬼 | 首かしげおのれついばみ寒鴉 | ||
1826 | 西東三鬼 | 落葉して木々りんりんと新しや | ||
1827 | 西東三鬼 | 限りなく降る雪何をもたらすや | ||
1828 | 西東三鬼 | 中年や独語おどろく冬の坂 | ||
1829 | 西東三鬼 | みな大き袋を負へり雁渡る | ||
1830 | 西東三鬼 | 空港の青き冬日に人あゆむ | ||
1831 | 西東三鬼 | 秋の雨直下はるかの海濡らす | ||
1832 | 西東三鬼 | 緑蔭に三人の老婆わらへりき | ||
1833 | 安住敦 | 凭らざりし机の塵も六日かな | 凭:もたれ | |
1834 | 安住敦 | 恋猫の身も世もあらず啼きにけり | ||
1835 | 安住敦 | 春昼や魔法の利かぬ魔法瓶 | ||
1836 | 安住敦 | 舞ふ獅子にはなれて笛を吹けりけり | ||
1837 | 安住敦 | 届きたる歳暮の鮭を子にもたす | ||
1838 | 安住敦 | 雪の降る町といふ唄ありし忘れたり | ||
1839 | 安住敦 | ある晴れた日につばくらめかへりけり | ||
1840 | 安住敦 | 蓑虫の出来そこなひの蓑なりけり | ||
1841 | 安住敦 | 啓蟄の庭とも畠ともつかず | ||
1842 | 安住敦 | でで虫や父の記憶はみな貧し | ||
1843 | 安住敦 | 鯛焼のあつきを食むもわびしからずや | ||
1844 | 富田木歩 | 街の子の花売の真似秋立てり | ||
1845 | 富田木歩 | 蜆売りに銭かへてやる夏の夕 | ||
1846 | 富田木歩 | 我が肩に蜘蛛の糸張る秋の暮 | ||
1847 | 富田木歩 | 籠の鶏に子の呉れてゆくはこべかな | ||
1848 | 富田木歩 | 夢に見れば死もなつかしや冬木風 | ||
1849 | 富田木歩 | 日のたゆたひ湯の如き家や木々芽ぐむ | ||
1850 | 富田木歩 | 背負はれて名月拝す垣の外 | ||
1851 | 木村蕪城 | 受験児の横たへおける松葉杖 | ||
1852 | 木村蕪城 | 高原の秋運転手ギター弾く | ||
1853 | 木村蕪城 | おふくろの今年あらざる秋刀魚かな | ||
1854 | 木村蕪城 | 雲動き竹林に蝉こぼれ飛び | ||
1855 | 木村蕪城 | 風船やかかる男のなりはひに | ||
1856 | 三橋敏雄 | 座して待つ次なる大震火災此処 | ||
1857 | 三橋敏雄 | いっせいに柱の燃ゆる都かな | ||
1858 | 子規 | 古沼の境もなしに氷かな | ||
1859 | 子規 | ながながと冬田に低し雁の列 | ||
1860 | 子規 | 麦の芽のほのかに青し朝の霜 | ||
1861 | 子規 | 染汁の紫こほる小川かな | ||
1862 | 子規 | 木のうろに隠れうせけりけらつゝき | ||
1863 | 子規 | 皮剥けば青けむり立つ蜜柑かな | ||
1864 | 子規 | 浪ぎはへ蔦はひ下りる十余丈 | ||
1865 | 子規 | 末枯や覚束なくも女郎花 | ||
1866 | 子規 | 草履の緒きれてよりこむ薄かな | ||
1867 | 子規 | 馬の尾をたばねてくゝる薄かな | ||
1868 | 子規 | 沓の代はたられて百舌鳥の声悲し | ||
1869 | 子規 | 肌寒や馬いばひあふつゞら折 | ||
1870 | 子規 | 鼻たれの兄と呼ばるゝ夜寒かな | ||
1871 | 子規 | 唐きびのからでたく湯や山の宿 | 唐秬のからでたく湯や山の宿 | |
1872 | 子規 | 闇の雁手のひら渡る峠かな | ||
1873 | 子規 | 枯れ柴にくひ入る秋の蛍かな | ||
1874 | 子規 | 稲刈もふじも一つに日暮れけり | ||
1875 | 子規 | 水晶のいはほに蔦の錦かな | 蔦:つた | |
1876 | 子規 | 鶺鴒やこの笠たゝくことなかれ | 鶺鴒:せきれい | |
1877 | 子規 | 面白やどの橋からも秋の不二 | ||
1878 | 子規 | 槍立てゝ通る人なし花芒 | ||
1879 | 子規 | 伊豆相模もわかず花すゝき | ||
1880 | 子規 | 大方はすゝきなりけり秋の山 | ||
1881 | 子規 | 紅葉する木立もなしに山深し | ||
1882 | 子規 | 山姥の力餅売る薄かな | ||
1883 | 子規 | 店さきの柿の実つゝく烏かな | ||
1884 | 子規 | 犬蓼の花くふ馬や茶の煙 | ||
1885 | 子規 | 樵夫二人だまつて霧をあらはるゝ | ||
1886 | 子規 | 石原に痩せて倒るゝ野菊かな | ||
1887 | 子規 | どっさりと山駕籠おろす野菊かな | ||
1888 | 子規 | 秋の雲滝をはなれて山の上 | ||
1889 | 子規 | 色鳥の声をそろへて渡るげな | ||
1890 | 子規 | 我なりを見かけて鵯の鳴くらしき | ||
1891 | 子規 | だまされてわるい宿とる夜寒かな | ||
1892 | 子規 | 草山の奇麗に枯れてしまひけり | ||
1893 | 子規 | 谷底にとどきかねたる落ち葉かな | ||
1894 | 子規 | 掘割の道じくじくと落葉かな | ||
1895 | 子規 | 暁の氷すり砕く硯かな | ||
1896 | 子規 | 人住まぬ屋敷の池の氷かな | ||
1897 | 子規 | 桃源の路次の細さよ冬籠 | ||
1898 | 子規 | 冬ごもり仏にうときこゝろ哉 | ||
1899 | 子規 | 居眠りて我にかくれん冬ごもり | ||
1900 | 子規 | 戸に犬の寝がへる音や冬籠 | ||
1901 | 子規 | なかなかに病むを力の冬ごもり | ||
1902 | 子規 | 冬ごもり煙のもるる壁の穴 | ||
1903 | 子規 | 隠れ家のものものしさよ百合の花 | ||
1904 | 子規 | 別れとて片隅はづす蚊帳かな | ||
1905 | 子規 | 次の夜は蛍やせたり籠の中 | ||
1906 | 子規 | 涼しさや石燈籠の穴も海 | ||
1907 | 子規 | 冬ごもり世間の音を聞いている | ||
1908 | 子規 | 雲のぞく障子の穴や冬ごもり | ||
1909 | 子規 | 暗き町やたまたま床屋氷店 | ||
1910 | 子規 | 葉隠れに小さし夏の桜餅 | ||
1911 | 子規 | 葉桜や昔の人と立咄 | ||
1912 | 子規 | 涼しさや川を隔つる灯は待乳 | ||
1913 | 子規 | 渡し場に灯をともしたる茂りかな | ||
1914 | 子規 | 葉桜に夜は茶屋無し隅田川 | ||
1915 | 子規 | 夕涼み石炭くさき風が吹く | ||
1916 | 子規 | 金持は涼しき家に住みにけり | ||
1917 | 子規 | 泳ぎ場に人の残りや夏の月 | ||
1918 | 子規 | 贅沢な人の涼みや柳橋 | ||
1919 | 子規 | 鷺の立つ中洲の草や川涼し | ||
1920 | 子規 | 町暑し蕎麦屋下宿屋君が家 | ||
1921 | 子規 | 葉柳に埃をかぶる車上かな | ||
1922 | 子規 | 時計屋も夏桃店も埃かな | ||
1923 | 子規 | 五年見ぬ山の茂りや両大師 | ||
1924 | 子規 | 石像に蠅もとまらぬ鏡かな | ||
1925 | 子規 | 葉鶏頭の苗養ふや絵師が家 | ||
1926 | 子規 | 狸さへ蟇さへ住まずなりにけり | ||
1927 | 子規 | 扇持たずもとより羽織などは着ず | ||
1928 | 子規 | 月の根岸闇の上野や別れ道 | ||
1929 | 子規 | 白露の三河島村灯ちらちら | ||
1930 | 子規 | 山ぞひや帽子の端にきりぎりす | ||
1931 | 子規 | 一行に絵かきもまじる月夜かな | ||
1932 | 子規 | 杉暗し月にこぼるゝ井戸の水 | ||
1933 | 子規 | 月高く樹にあり下は水の音 | ||
1934 | 子規 | 茶屋あらはにともし火立つや霧の中 | ||
1935 | 子規 | 議論とて秋の団扇を手のちから | ||
1936 | 子規 | 鯛の茶屋静かなる木の間かな | ||
1937 | 子規 | 鯛や杉の葉重ね路凹し | ||
1938 | 子規 | 唐黍に背中打たるゝ湯あみかな | ||
1939 | 子規 | 祭見に狐も尾花かざし来よ | ||
1940 | 子規 | 一日の秋にぎやかに祭りかな | ||
1941 | 子規 | 初秋の石壇高し杉木立 | ||
1942 | 内藤鳴雪 | 初秋の食に魚なし京の町 | ||
1943 | 子規 | 朝顔やわれ未だ起きずと思ふらん | ||
1944 | 子規 | 石段は常盤木の落葉ばかりなり | ||
1945 | 子規 | 大木の注連に蝉鳴く社かな | 注連:まま | |
1946 | 子規 | 木下闇電信の柱新らしき | ||
1947 | 子規 | 松葉落ちて雀鳴くなり観音寺 | ||
1948 | 子規 | 朝顔や野茶屋の垣根まばらなり | ||
1949 | 子規 | 田の中に蓮咲きけり家二つ三つ | ||
1950 | 子規 | 路三叉草茂りけり石地蔵 | ||
1951 | 子規 | 水草の泥に花さく旱かな | ||
1952 | 子規 | 夏川の泥に嘴入るゝ家鴨かな | ||
1953 | 子規 | 夏柳家鴨やしなふ小池かな | ||
1954 | 子規 | 横雲に朝日の漏るゝ青田かな | ||
1955 | 子規 | 涼しさのはや穂に出てゝ早稲の花 | ||
1956 | 子規 | かたよりて右は箕の輪の茂りかな | ||
1957 | 子規 | 夏木立村あるべくも見えぬかな | ||
1958 | 子規 | 蚊の声もよわる小道の夜明かな | ||
1959 | 子規 | 句を閲すラムプの下や柿二つ | 閲す:えっす けみする 調べる。見て確かめる。 | |
1960 | 子規 | 夏草やベースボールの人遠し | ||
1961 | 子規 | 鰻まつ間をいく崩れ雲の峰 | ||
1962 | 坪内稔典 | 帰るのはそこ晩秋の大きな木 | ||
1963 | 上田五千石 | 太郎に見えて次郎に見えぬ狐火や | ||
1964 | 森澄雄 | 妊りて紅き日傘を小さくさす | ||
1965 | 飯田龍太 | 黒猫の子のぞろぞろと月夜かな | ||
1966 | 能村登四郎 | やはり死は寂しとて食ふ酢牡蛎かな | ||
1967 | 能村登四郎 | 紙魚ならば棲みてもみたき一書あり | ||
1968 | 能村登四郎 | すこしづつ死す大脳のおぼろかな | ||
1969 | 能村登四郎 | 辛夷咲く死の明るさもこれ位 | ||
1970 | 鈴木真砂女 | 春寒くこのわた塩に馴染みけり | ||
1971 | 大野林火 | 鴨群るるさみしき鴨をまた加え | ||
1972 | 大野林火 | 雪の水車ごつとんことりもう止むか | ||
1973 | 三好達治 | 冬といふ日向に鶏の座りけり | ||
1974 | 三好達治 | 水に入るごとくに蚊帳をくぐりけり | ||
1975 | 秋元不死男 | 獄凍てぬ妻きてわれに礼をなす | ||
1976 | 秋元不死男 | 冷されて牛の貫禄しづかなり | ||
1977 | 西東三鬼 | 秋の暮大魚の骨を海が引く | ||
1978 | 篠原鳳作 | 自画像の青きいびつの夜ぞ更けぬ | ||
1979 | 富沢赤黄男 | 潮すゞし錨は肱をたてゝ睡る | ||
1980 | 富沢赤黄男 | 石の上に秋の鬼ゐて火を焚けり | ||
1981 | 富沢赤黄男 | 蝶墜ちて大音響の結氷期 | ||
1982 | 日野草城 | ところてん煙の如く沈み居り | ||
1983 | 日野草城 | 薔薇色のあくびを一つ烏猫 | ||
1984 | 石田波郷 | 蚊を博って頬やはらかく癒えしかな | ||
1985 | 石田波 | 蚊を博 | ||
1986 | 篠原梵 | 閉ぢし翅しづかにひらき蝶死にき | 翅:はね | |
1987 | 篠原梵 | 葉桜の中の無数の空さわぐ | ||
1988 | 柴田白葉女 | 日向ぼこ人死ぬはなし片耳に | ||
1989 | 柴田白葉女 | 春の星ひとつ潤めばみなうるむ | ||
1990 | 星野立子 | 花火上るはじめの音は静かなり | ||
1991 | 仲村汀女 | バラ散るや己がくづれし音の中 | ||
1992 | 三橋鷹女 | みんな夢雪割草咲いたのね | ||
1993 | 川畑茅舎 | 桜鯛かなしき目玉くはれけり | ||
1994 | 山口誓子 | 蟋蟀が深き地中を覗き込む | ||
1995 | 長谷川かな女 | 虫とんでそのまゝ消えぬ月の中 | ||
1996 | 長谷川かな女 | 藻をくぐって月下の魚となりにけり | ||
1997 | 荻原井泉水 | はっしと蚊を おのれの血を打つ | 途中 1桁空ける | |
1998 | 荻原井泉水 | 月光しみじみこおろぎ雌を抱くなり | ||
1999 | 荻原井泉水 | 空をあゆむ朗朗と月ひとり | ||
2000 | 富安風生 | 赤富士のぬうっと近き面構え |